20 / 22
20 新規指令
しおりを挟む
「シュミット少佐じゃないとしたら……」
フレンゼンは、その先を口にすることを躊躇った。
「これを見てください」
アンヌが指令書を出しながら、
「昨日、届いたものです」と付け加えた。
そこには、皇国軍の資金を横領したカール・フレンゼンを射殺せよ、とある。ベッカー大尉からの指令だった。
「どういうことだ?」
フレンゼンは、生涯でこれほど同じこの台詞を使ったことはなかっただろう。
「本当なんですか?大佐」
「まあ、本当だとしても、本当だとは言わないだろうけどな」
「マリー、よしてくれ。私には、まったく身に覚えのないことだ」
「分かりました。私は大佐を信じます」
「わたしだって疑ってるわけじゃないよ」
「銀の銃は、その大尉が持っていたんでしょ?」とニコルが指摘した。
「つまり、こういうことか」
フレンゼンは話を整理しようとしたが、うまくまとまりはしなかった。
少女たちの家族をはじめとした民間人を、戦争と無関係に虐殺したのがベッカーで、その際に持っていたのはシュミット少佐の恩賜の銃だった。フレンゼンをシュミット少佐の調査に向かわせたが、フレンゼンに横領の罪を着せて、軍令によって射殺させようとしている、と。
ベッカーは、恐らくシュミット少佐が死んでいることは知らないだろう。だから、少佐にフレンゼンを殺させようとしている、ということになる。
「私を殺したいなら、横領犯であるフレンゼンを射殺せよ、だけでいいはずだろ?」
「恩賜の銃を見せたら少佐は間違いなく動揺する。そこに隙が生まれると考えた」
ニコルの説には一理ある。
「相打ちを狙ったのか?」
「そこまでは考えない。どちらかが死んで、どちらかが怪我でもすれば」
銃の腕を過信されたな、とフレンゼンは思った。
「私は道具か。……しかし、怪我をしただけで生き残ってしまったら、困るんじゃないか?」
その時、窓が激しく割れる音がした。
「残りは、俺が始末するんだよ」
窓から侵入してきたのは、ベッカーだった。手にはすでに銃が握られている。
少女たちは四人とも銃を放り出したままだった。
フレンゼンは、恩賜の銃をしっかりとベッカーに向けることができた。だが、それまで人を撃ったことのない彼には迷いが生じた。
ベッカーは、もちろんなんの躊躇いもなく発砲した。
少女たちも、フレンゼン自身も、彼が殺された、と確信した。
だが、倒れたのは、ベッカーの方だった。
「間に合いました」
硬い笑顔で窓の外に立っていたのは、フィルスマイヤー少佐だった。彼女の銃弾が、ベッカーを即死させたのだ。後で分かったことだが、ベッカーが撃った弾は、壁にめり込んでいたそうだ。
「フィルスマイヤー少佐!」
彼女は、
「遅くなりまして、申し訳ありません、大佐」とその場で敬礼した。
「どういうことですか、少佐」
「はい、大佐」と姿勢を崩さずに説明を始めようとした。
「少佐、とりあえず中に入ってください」
フレンゼンは、玄関に回るよう促した。
「失礼します」と、フィルスマイヤー少佐に続き三人の兵も入室してきた。
彼女が静かに指示を与えると、兵たちはしばらく死体の周囲を確認した後、ベッカー大尉だったものを、その場から運び出した。
フレンゼンは、その先を口にすることを躊躇った。
「これを見てください」
アンヌが指令書を出しながら、
「昨日、届いたものです」と付け加えた。
そこには、皇国軍の資金を横領したカール・フレンゼンを射殺せよ、とある。ベッカー大尉からの指令だった。
「どういうことだ?」
フレンゼンは、生涯でこれほど同じこの台詞を使ったことはなかっただろう。
「本当なんですか?大佐」
「まあ、本当だとしても、本当だとは言わないだろうけどな」
「マリー、よしてくれ。私には、まったく身に覚えのないことだ」
「分かりました。私は大佐を信じます」
「わたしだって疑ってるわけじゃないよ」
「銀の銃は、その大尉が持っていたんでしょ?」とニコルが指摘した。
「つまり、こういうことか」
フレンゼンは話を整理しようとしたが、うまくまとまりはしなかった。
少女たちの家族をはじめとした民間人を、戦争と無関係に虐殺したのがベッカーで、その際に持っていたのはシュミット少佐の恩賜の銃だった。フレンゼンをシュミット少佐の調査に向かわせたが、フレンゼンに横領の罪を着せて、軍令によって射殺させようとしている、と。
ベッカーは、恐らくシュミット少佐が死んでいることは知らないだろう。だから、少佐にフレンゼンを殺させようとしている、ということになる。
「私を殺したいなら、横領犯であるフレンゼンを射殺せよ、だけでいいはずだろ?」
「恩賜の銃を見せたら少佐は間違いなく動揺する。そこに隙が生まれると考えた」
ニコルの説には一理ある。
「相打ちを狙ったのか?」
「そこまでは考えない。どちらかが死んで、どちらかが怪我でもすれば」
銃の腕を過信されたな、とフレンゼンは思った。
「私は道具か。……しかし、怪我をしただけで生き残ってしまったら、困るんじゃないか?」
その時、窓が激しく割れる音がした。
「残りは、俺が始末するんだよ」
窓から侵入してきたのは、ベッカーだった。手にはすでに銃が握られている。
少女たちは四人とも銃を放り出したままだった。
フレンゼンは、恩賜の銃をしっかりとベッカーに向けることができた。だが、それまで人を撃ったことのない彼には迷いが生じた。
ベッカーは、もちろんなんの躊躇いもなく発砲した。
少女たちも、フレンゼン自身も、彼が殺された、と確信した。
だが、倒れたのは、ベッカーの方だった。
「間に合いました」
硬い笑顔で窓の外に立っていたのは、フィルスマイヤー少佐だった。彼女の銃弾が、ベッカーを即死させたのだ。後で分かったことだが、ベッカーが撃った弾は、壁にめり込んでいたそうだ。
「フィルスマイヤー少佐!」
彼女は、
「遅くなりまして、申し訳ありません、大佐」とその場で敬礼した。
「どういうことですか、少佐」
「はい、大佐」と姿勢を崩さずに説明を始めようとした。
「少佐、とりあえず中に入ってください」
フレンゼンは、玄関に回るよう促した。
「失礼します」と、フィルスマイヤー少佐に続き三人の兵も入室してきた。
彼女が静かに指示を与えると、兵たちはしばらく死体の周囲を確認した後、ベッカー大尉だったものを、その場から運び出した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

天使の住まう都から
星ノ雫
ファンタジー
夜勤帰りの朝、いじめで川に落とされた女子中学生を助けるも代わりに命を落としてしまったおっさんが異世界で第二の人生を歩む物語です。高見沢 慶太は異世界へ転生させてもらえる代わりに、女神様から異世界でもとある少女を一人助けて欲しいと頼まれてしまいます。それを了承し転生した場所は、魔王侵攻を阻む天使が興した国の都でした。慶太はその都で冒険者として生きていく事になるのですが、果たして少女と出会う事ができるのでしょうか。初めての小説です。よろしければ読んでみてください。この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも掲載しています。
※第12回ネット小説大賞(ネトコン12)の一次選考を通過しました!


グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜
buchi
恋愛
辺境の部隊にふらりと入隊した過去を忘れたい主人公。美人でスナイパーとして優秀な上、割と賢いのに、色恋には残念鈍感系。年上美人お姉さまにあこがれるイケメン新入隊員や、俺様系上司、仲間や友人ができ、不気味な害獣の駆逐に徐々に成功していくが、その害獣は彼女の過去に結びついていた。明らかになっていく愛憎物語 最後はハッピーエンドで金持ちになるのでよろしくです。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

学校の放課後に同級生の女の子と異世界へ
みみっく
ファンタジー
小6の男の子が友達とケンカをして相手の人数が増えて逃げている時に友達の女の子と一緒に逃げる事となり用具入れの部屋に逃げ込み隠れる事にして掃除道具入れの中にに隠れると別の世界へと来ていた。
それから世界を行き来をして暮らす事となり異世界で新しく猫耳の女の子の友達も出来て楽しく平和に暮らす事を目標に頑張って奮闘する物語です。
恋愛とイチャイチャありだが戦闘、魔法は無しの物語なのでバトル物ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる