18 / 22
18 戦争孤児
しおりを挟む
「しっかりと覚えているわけではありませんが、私は国境近くのウシンという町の生まれです。国境近くだったせいで開戦してすぐ戦争に町ごと巻き込まれました」
アンヌは床に座ったまま、膝を抱えて昔話を始めた。
何の話だろう、とフレンゼンは思ったが、黙って聞くことにした。
「開戦の理由とか、戦争全体の推移とか、そういうことは、フレンゼン大佐に教えてもらうまでよく知りませんでした。あの頃、私の町で激しい戦闘があった頃、どちらが優勢だったのかも分かりません。いま思えば、ウスナルフ側の町であるウシンが戦場だったのですから、王国は押されていたんでしょうね。皇国軍も、普通に戦争をしていただけだと思います。ただ、軍同士が町中でぶつかり合っていたので、民間人にもたくさんの死傷者が出ました。それでも、戦争はどちらかの国だけのせいではないんでしょ?差はあったとしても、正義と正義、利害と利害のぶつかり合いだって、正義と悪の戦いなんて滅多にないんだって、これも大佐に聞きました」
フレンゼンは頷いたが、アンヌはそれを見ていなかった。
「だから、アイロッソ皇国そのものを恨んだりはしていないんです。戦争孤児になってしまったことも、災害で家族をなくした子供たちと同じだと思うようにしてきました。この間までシュミット少佐がやっていたことも、いま私たちがしていることも、もちろんいいことではありませんけど、どちらかと言えば、戦争が起きないようにするための指令ばかりだと思います。少なくとも、そう自分を納得させて任務を遂行しているんです。……確認し合ったことはないんですけど、きっとみんな同じような気持ちだと思います」
アンヌを見つめるマリーとソフィー、そしてニコルも小さく頷いた。
「でも、あの日」
アンヌの口調が強くなった。
「おい!」
マリーが話を止めようとした。
「仕方ないよ、知ってしまったんだから。……このまま隠しておいたら、シュミット少佐に申し訳ないもの。……あの日、少佐が亡くなった日、思い出したんです。私の家族は、爆発や流れ弾で死んだんじゃなくて、民間人だと分かったうえで、ある軍人に虐殺されたんです。その男は、笑いながら大勢の町の人を射殺していました。撃ち殺すことを楽しんでいたんです。忘れていたその光景を急に思い出しました」
「ひどい話だな」
フレンゼンには、それしか言えなかった。
「マリーは覚えていたのよね?」
「ああ、わたしの生まれ育った町でも、そいつが同じようなことをしやがった。しっかり目に焼き付いて、忘れたことなんてなかったよ。ソフィーもニコルもそうだよな?」
「うん」
ニコルは黙って頷いただけだった。
「もう一人、ミシェルもそうでした」
「ミシェル?」
「はい。シュミット少佐に育てられたもう一人の戦争孤児です。……あの日、あの場所にいたのは六人でした。……シュミット少佐は病気ではなく、ミッシェルに射殺されたんです」
「それで、ミシェルは?逃げたのか?」
ほかに聞くことがあるようにも思ったが、彼はまずそう質問してしまった。
「相打ちでした。ミシェルはシュミット少佐に……」
アンヌは床に座ったまま、膝を抱えて昔話を始めた。
何の話だろう、とフレンゼンは思ったが、黙って聞くことにした。
「開戦の理由とか、戦争全体の推移とか、そういうことは、フレンゼン大佐に教えてもらうまでよく知りませんでした。あの頃、私の町で激しい戦闘があった頃、どちらが優勢だったのかも分かりません。いま思えば、ウスナルフ側の町であるウシンが戦場だったのですから、王国は押されていたんでしょうね。皇国軍も、普通に戦争をしていただけだと思います。ただ、軍同士が町中でぶつかり合っていたので、民間人にもたくさんの死傷者が出ました。それでも、戦争はどちらかの国だけのせいではないんでしょ?差はあったとしても、正義と正義、利害と利害のぶつかり合いだって、正義と悪の戦いなんて滅多にないんだって、これも大佐に聞きました」
フレンゼンは頷いたが、アンヌはそれを見ていなかった。
「だから、アイロッソ皇国そのものを恨んだりはしていないんです。戦争孤児になってしまったことも、災害で家族をなくした子供たちと同じだと思うようにしてきました。この間までシュミット少佐がやっていたことも、いま私たちがしていることも、もちろんいいことではありませんけど、どちらかと言えば、戦争が起きないようにするための指令ばかりだと思います。少なくとも、そう自分を納得させて任務を遂行しているんです。……確認し合ったことはないんですけど、きっとみんな同じような気持ちだと思います」
アンヌを見つめるマリーとソフィー、そしてニコルも小さく頷いた。
「でも、あの日」
アンヌの口調が強くなった。
「おい!」
マリーが話を止めようとした。
「仕方ないよ、知ってしまったんだから。……このまま隠しておいたら、シュミット少佐に申し訳ないもの。……あの日、少佐が亡くなった日、思い出したんです。私の家族は、爆発や流れ弾で死んだんじゃなくて、民間人だと分かったうえで、ある軍人に虐殺されたんです。その男は、笑いながら大勢の町の人を射殺していました。撃ち殺すことを楽しんでいたんです。忘れていたその光景を急に思い出しました」
「ひどい話だな」
フレンゼンには、それしか言えなかった。
「マリーは覚えていたのよね?」
「ああ、わたしの生まれ育った町でも、そいつが同じようなことをしやがった。しっかり目に焼き付いて、忘れたことなんてなかったよ。ソフィーもニコルもそうだよな?」
「うん」
ニコルは黙って頷いただけだった。
「もう一人、ミシェルもそうでした」
「ミシェル?」
「はい。シュミット少佐に育てられたもう一人の戦争孤児です。……あの日、あの場所にいたのは六人でした。……シュミット少佐は病気ではなく、ミッシェルに射殺されたんです」
「それで、ミシェルは?逃げたのか?」
ほかに聞くことがあるようにも思ったが、彼はまずそう質問してしまった。
「相打ちでした。ミシェルはシュミット少佐に……」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
戦闘狂種族のスナイパー
朝食はパンよりご飯派
ファンタジー
世界中で大人気のVRFPS「FWW」で世界ランカーのスナイパーとして知られていた白波 理緒は大好きなエナジードリンクをコンビニに買いに行く途中に雷が直撃して死んでしまう。
異世界の神に借りがある地球の神は役立ちそうな魂の一つを譲り渡した。
異世界の神の願いを聞く代わりに記憶があるまま転生してもらった種族は遺伝子レベル戦闘狂!
より早く闘えるように「早熟」し
より長く闘えるように「長寿」で
より多く闘えるように「美麗」な
種族。そのはプロ族。
住んでいる大陸はプロ族しか生きていけないほどで「終焉大陸」と呼ばれてます。
「鉄」と呼ぶ伝説の金属があり、
「鳥」と呼ぶ伝説の魔物がいる。
「今日は「鳥(不死鳥)」の肉だぞ!」
「わぁ、「鳥」美味しいから好き!」
そんな世界でリオンとして生きていくお話です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
わたしの家の“変わったルール”
ロアケーキ
大衆娯楽
この家には“変わったルールがある”。そう、他の家にはないルールが…。
※主人公のまいちゃんが理不尽に“お仕置き”を受ける物語です。 苦手な方はご注意くださいませ。
アサシンズガーディアン・スクールライフ
さとう
ファンタジー
数千年の歴史を持つ古き暗殺教団『黄昏』に育てられた暗殺者。コードネーム『クリード』は、とある依頼により、ジェノバ王国族第三王女ラスピルの護衛を命じられる。
だが、依頼はもう一つあった。それは……第三王女ラスピルを、ジェノバの次期王女にすること。
ラスピルを狙う敵対組織『閃光騎士団』、そして第一、第二王女を次期女王にのし上げようと策をめぐらせる貴族たち。
クリードは、敵対組織の刺客やラスピルに害をなす貴族を影から暗殺していく。
これは、暗殺者クリードが少女のために戦う物語。
心なき暗殺者の少年クリードは、血に染まりながら愛を知る。
【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
魔女を殺す為のデイリーライフ【完結】
秋雨薫
ファンタジー
利き腕を負傷した暗殺者リヴが受けた依頼は――暗殺失敗率100%の魔女アピ⁼レイス
「私に普通の日常を教えてくれ!その代わり私の命はいつでも狙って良い」
魔女の首を狙う暗殺者と普通の日常が知りたい魔女の奇妙なデイリーライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる