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01 武器商人
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ウスナルフ王国の首都オディロダム。日が暮れたとは言え、まだ空は少しの明るさを保っていた。王国貴族の邸宅の大広間で、ダミアン・レストナックは作り笑いを浮かべていた。有力者主催のパーティー会場とあって、周囲は顧客やその関係者ばかりだったからだ。人前に出ることは滅多になかったが、無視できない相手からの招待では断るわけにもいかなかった。
レストナックが、あまり姿を現さないのには十分な理由がある。彼は、悪名高い武器商人だった。ウスナルフ王国とアイロッソ皇国の間を行き来して、暴利を貪っていたのだから、どこで命を脅かされるか分かったものではない。
ウスナルフとアイロッソは講和条約を締結し、表向きは十年ほど前から停戦状態だった。しかし、実際には敵対関係を続けていることは、子供でも知る事実だ。王国と皇国との国境付近には地下資源が豊富で、争って開発と発掘を進めることで小競り合いが続いているのだ。両国を統一すべき、などということを主張する政治家が双方の国にいるにはいるが、王と皇帝をそれぞれ推戴する国なのだから現実的には不可能だ。その両国を代わる代わる口説いては、双方に高値で武器や弾薬を売っているのが、レストナックという男だった。
パーティーの主催者も、感情的にはこんな男を呼びたくはなかっただろうが、招待すれば大金を支払うことは間違いない。お互いに利害だけは一致しているということだ。
レストナックは、大広間の壁にへばりつくように作り笑いのまま立っていた。その場所なら窓から遠く、周囲の建物から狙撃される心配はないと思っていたのだ。窓と彼の間にはつねに人々が行き交っていたし、周囲の建物にはこちら向きの窓はなく、屋上は彼からは見えない。つまり、たとえ屋上に狙撃手がいたとしても、彼の急所は狙えないのだ。
ところが、レストナックは、頭を撃たれて死んだ。
悲鳴が各所で上がり、着飾った客たちが我先に大広間を飛び出していく。
逃げながら推論を披露する者たちがいた。
「誰かが倒れた!」
「レストナック卿だ!」
「撃たれたんだ!」
「まさか、あんなに用心していたのに?」
レストナックの臆病な姿を、パーティー参加者たちは密かに笑いものにしていた。
「いったい誰にやられたんだ?」
「魔術師か……」
何が起こったのか、その場にいた人間には分からなかっただろう。
大広間、レストナックから見て右手の奥の窓、その近くの飾り台に置かれた見事な壺が、まず撃たれた。レストナックを含めたパーティー参加者の注意はその壺に集中した。全員の姿勢と視線が、一瞬、静止したのだ。
次にレストナックの爪先が撃たれた。
思わずうずくまる彼の頭に、決定的な銃弾が、ご丁寧に二発撃ち込まれ、その武器商人は静かに倒れ息絶えた。
説明を受ければ、魔術でないことは理解できるが、短時間に四発、しかも比類ないほどの正確さは、魔術的ではある。“魔術師”の仕業と言われても誰も異論はあるまい。
一方、アイロッソ皇国の首都ニルレヴ。
皇国軍の経理課主任カール・フレンゼンは、最近、“魔術師”という二つ名で呼ばれ始めたヴェルナー・シュミット少佐の給与についての処理を行っていた。
それにしても、もうずいぶん長く勤務しているなあ、と、フレンゼンは改めて思った。
レストナックが、あまり姿を現さないのには十分な理由がある。彼は、悪名高い武器商人だった。ウスナルフ王国とアイロッソ皇国の間を行き来して、暴利を貪っていたのだから、どこで命を脅かされるか分かったものではない。
ウスナルフとアイロッソは講和条約を締結し、表向きは十年ほど前から停戦状態だった。しかし、実際には敵対関係を続けていることは、子供でも知る事実だ。王国と皇国との国境付近には地下資源が豊富で、争って開発と発掘を進めることで小競り合いが続いているのだ。両国を統一すべき、などということを主張する政治家が双方の国にいるにはいるが、王と皇帝をそれぞれ推戴する国なのだから現実的には不可能だ。その両国を代わる代わる口説いては、双方に高値で武器や弾薬を売っているのが、レストナックという男だった。
パーティーの主催者も、感情的にはこんな男を呼びたくはなかっただろうが、招待すれば大金を支払うことは間違いない。お互いに利害だけは一致しているということだ。
レストナックは、大広間の壁にへばりつくように作り笑いのまま立っていた。その場所なら窓から遠く、周囲の建物から狙撃される心配はないと思っていたのだ。窓と彼の間にはつねに人々が行き交っていたし、周囲の建物にはこちら向きの窓はなく、屋上は彼からは見えない。つまり、たとえ屋上に狙撃手がいたとしても、彼の急所は狙えないのだ。
ところが、レストナックは、頭を撃たれて死んだ。
悲鳴が各所で上がり、着飾った客たちが我先に大広間を飛び出していく。
逃げながら推論を披露する者たちがいた。
「誰かが倒れた!」
「レストナック卿だ!」
「撃たれたんだ!」
「まさか、あんなに用心していたのに?」
レストナックの臆病な姿を、パーティー参加者たちは密かに笑いものにしていた。
「いったい誰にやられたんだ?」
「魔術師か……」
何が起こったのか、その場にいた人間には分からなかっただろう。
大広間、レストナックから見て右手の奥の窓、その近くの飾り台に置かれた見事な壺が、まず撃たれた。レストナックを含めたパーティー参加者の注意はその壺に集中した。全員の姿勢と視線が、一瞬、静止したのだ。
次にレストナックの爪先が撃たれた。
思わずうずくまる彼の頭に、決定的な銃弾が、ご丁寧に二発撃ち込まれ、その武器商人は静かに倒れ息絶えた。
説明を受ければ、魔術でないことは理解できるが、短時間に四発、しかも比類ないほどの正確さは、魔術的ではある。“魔術師”の仕業と言われても誰も異論はあるまい。
一方、アイロッソ皇国の首都ニルレヴ。
皇国軍の経理課主任カール・フレンゼンは、最近、“魔術師”という二つ名で呼ばれ始めたヴェルナー・シュミット少佐の給与についての処理を行っていた。
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