スノードーム・リテラシー

棚引日向

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30 不親切な宣言

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 状況開始から七時間、本部は、放送施設に移されていた。
 ルジェーナも、すでに、その場に戻っていた。
 深夜になり、ドーム内の生存者は、恐らく一万人を割ったものと見られた。この数字は、ビューレンらの思惑とほぼ一致していた。
 つまり、自分たちの数的不利を火器などの条件によって補って余りある状況に置くことができたのだ。この数なら多少のまとまった抵抗が起きたとしても、問題なく沈静化できる、と確信できた。
「そろそろだな」
「そのようですね」
 コルノーが、ビューレンに微笑みかけた。
「準備はできています」
 マレットが、準備、と言ったのは、ドーム内に呼びかけるための放送の準備だ。
 ビューレンがマイクに向かう。
「ドーム内のみなさん、こんな夜分に恐れ入る。病人でもない限り、まさか眠っている人間はいないとは思うが、近くにそんな人間がいたら、この放送を聞くように起こしてほしい。
 では、まず、自己紹介をしよう。
 私は、ホアン・ビューレン。この作戦を指揮している。我々は、宇宙から来た。と言っても信じられんか。その昔、この星を飛び出して月に移住した人間たちの子孫だ。ドームの中のことだけを考えていたみなさんにとっては想像外のことだろうが、本当だ。宇宙船でここまでやって来た。
 最近、我々の人口は極度に減少した。月の上では、これ以上、我々は生きていけないのだ。そこで母星への帰還を決意した。
 もちろん、ドーム政府に、我々を受け入れてくれるよう要請した。しかし、みなさんの政府は、話し合いにさえ応じてくれなかった。
 従って我々は、強硬手段を取らざるを得なかった。
 恨むなら自分たちの政府を恨め、とは言い過ぎだろうが、我々のことを憎く思うなら、自分たちの政府のことも憎んでくれ、というところだな。
 次に、現状を説明しよう。
 我々は、このドームを占拠し、みなさんを完全に管理下に置いている。
 ご存知の人間が多いとは思うが、我々は銃器を所持している。みなさんが持っているようなものを手にして抵抗を試みても、何の成果も上げられないのは明らかだ。できればそんな無駄な行動を起こすことなく、我々に従ってほしい。
 おっと、言い忘れるところだった。現在、バルブは開放状態、ピュアリティはユージュアル・モードだ。
 三番目は、今日、この後についてだ。
 このままの状態では、そう長い時間を待つこともなく、みなさんは全員、VGによって死ぬことになる。
 死にたくはないだろう?私も必要以上に殺したくはない。
 そこで、助かる方法をお教えしよう。
 ただ、その場にじっとしていてくれればいい。移動したり集まったりしている人間は、我々に対して敵意があると解釈するから、十分に注意してくれ。
 道路や広場が無人になったことを確認できれば、我々は再びバルブを閉め、ピュアリティをポジティブ・モードにして、VGをこのドームから排除する。
 実に簡単なことだろう?
 最後に、将来について話しておこう。
 しばらくは戒厳令を敷かせてもらう。
 仕方ないだろう?みなさんとはこんな出会い方だ。我々を快く受け入れてくれるはずもない。
 しかし、将来に亘って、みなさんを奴隷にしたり、我々との間に身分を設けたりするつもりは毛頭ない。そんなことをして、反乱でも起こされたら目も当てられんからな。
 当初は武器で従属を強いるが、そこからは緩やかな支配を行うつもりだ。みなさんがなるべく自由に暮らせるように努力することを約束しよう。
 その内、元々の出自が分からないように混ざり合えた時、本当の意味で、この作戦は終了する。
 どうしても共存できないという人がいれば、ほかのドームに移住してもらうことも考えよう。
 みなさんを殺しておいて、何を言っているのか、という声が聞こえてきそうだが、せっかくここまで生き残ったのだ。どうか協力してほしい。
 では、これから外を出歩いている人間がいないかを確認する。以上だ。」

 ビューレンがスピーチを行っていた時、ヘルタは自宅にいた。放送を聞いて、彼女はどちらかと言えば落ち着いた。
 両親と妹が突然苦しみ出し、相次いで倒れた。
 何が起こったのか分からぬままに電話を取り上げたが、どこにもつながらなかった。慌てて外へ出てみたが、そこは家の中よりも見るに堪えない状況だった。家へ逆戻りして、三つの遺体の側で、ただ頭を抱えて泣いていたのだ。
 彼女は後悔した。こんなことが起こるなら二コーラたちと一緒に、ドームの外へ出た方がよかったのではないか、と思った。
 ヘルタは、どうしても怖かったのだ。二コーラから話を聞いた時には、何だか楽しそうなイベントだと思って、軽い気持ちで参加に同意した。ところがその日が近づくにつれ、その時間が近づくにつれ、体が動かなくなってしまった。後で二コーラに怒られるのは嫌だったが、謝るしかない、とそう思っていた。
 どのくらいそうしていただろう。急にその放送が流れた。そして、どういう理由でこんなことになっているのかが分かって、彼女はほっとした。
 両親や妹のことは、とりあえず考えないようにして、安堵したのだ。
 これで助かる。やはり自分の選択は間違っていなかった。VGは相変わらず人間を殺す濃度で存在しているのだ。
 ヘルタは、自分の恐怖心が正解であったことを知って、何だかうれしい気分にさえなっていた。
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