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【明日のことだけど】
【うん】
【暗くなってからの方がいいと思うの】
【ぼくたちもそう思ってた】
今回は、〝たち〟という複数形を自分から抵抗なく使えた。
【家、出られる?】
【何とかするよ】
【ほかのみんなも?】
【みんなもかなりの覚悟で来てくれるから大丈夫だよ】
連絡の後、二コーラやジェトゥリオと会った時の話では、説得するというよりも、話が盛り上がってその人数になった、ということらしい。
ジェトゥリオは、今日の最終確認の場に、せめて二コーラと自分くらいは同席させるべきだと主張したが、二コーラが二人にしてあげようと言ってくれた。
【そう。それなら安心ね。集合場所とかは決まっているの?】
【バルブの一番近くのパークに集まることになってる】
【パーク?】
【知らないの? フェイクグリーンやファウンテン、それからベンチなんかがあるところ】
【ああ、私たちは公園て呼んでるわ】
【見たことあるよ、その字。その公園。バルブ近くの公園で集合ってことになってる】
【時間は決めておくけど、タイミングは任せるわ。全員で一気にバルブまで行って。だけどバルブを開けたら、通路は、一人ずつ間を置いて進んで。通路の長さは百メートルくらいだから、十秒毎に走り始めてくれるとちょうど良さそう】
【分かった】
【通路の外に小型四輪を置いておく。八人分ね】
【小型四輪?】
【ほら、その、いつもレオシュが乗ってくるような】
そう言って、ルジェーナはレオシュの後方を指差した。振り返ると、そこには彼のMRがある。
【ああ、あれね。いつも思うけど、同じものを呼ぶのに、名前が違うことが多いんだね】
【ほんとね。このドームではあれは何て呼ぶの?】
【MR。モーター・ライドの略】
【ふうん。そのMRみたいなのを、通路を出たところに用意しておく】
【自分たちで移動するの?】
【ごめんね。案内役くらいはつけるつもりだったんだけど、人員配置を考えたら、どうしても無理だったの】
【それは仕方ないね】
【でも、場所は分かるように、ナビゲーション・システムにセットしておくから。ドーム内しか場所を設定できないから、私たちのドームが目的地だけどね。その途中に一時待機場所があるから安心して】
【分かった】
【食糧や水、衣類も一時待機場所に用意してあるけど、自分のものでないと嫌な人は、遠慮せずに荷物を持ってきて】
【下着くらいはね】
【そうね。それから路面状態がよくないから、万一に備えて、水と軽食くらいは、そのMRに載せておくわね】
【うん】
【それから防寒具も】
【防寒具?】
【そうよね。ドームに住んでいる人間は、普通は一生知ることはないんだけど、外は冬で、とっても寒いの】
そう言うと、口を大きく開けて白い息を見せた。
【ほらね】
【そうか、冬は寒いんだよね。だから息の中の水分が液体化するんだ】
【そう。だから、防寒用の服が必要なの。私は、保温性の高いものを最初から着ているから平気だけど】
ルジェーナは自分の着ているものを引っ張って見せた。
【ふうん】
【レオシュたちには、その上から着られるような防寒具を用意しておくわね】
【何から何まで、ありがとう】
【お願いしているのはこっちなんだから、お礼なんて変よ】
【そんなことないよ。放っておいたら、このドームだって危険だったんだから】
【まあ、それはそうだけど。とにかく、準備は万全だから、安心して飛び出してきて】
その言葉に甘い気持ちが湧き起こって、レオシュはつい、
【ルジェーナの胸に向かって?】と言ってしまって、顔を紅くした。
【ええ、もちろん】
彼女は、満面の笑みで両手を広げた。いましもレオシュを迎え入れてくれそうだった。
【それなら、思い切って飛び出して行けそうだ】
【うん。明日は、初めてお話できるわね】
【?】
【だって、まだレオシュの声、聞いたことないもの】
【ほんとだ。ルジェーナの声をやっと聞けるんだね】
【明日は、ほんの少ししか時間がないけど、レオシュと直接会えるの、楽しみにしてる】
【ぼくも楽しみだよ。さっきまでは、何だか恐ろしい気分だったんだけど、そうだよね、ルジェーナに会えるんだもんね】
【そうよ】
ルジェーナは右手を腰に当てて胸を反らし、自慢げな表情を作った。
【そうだね】
【それじゃあ、今日はゆっくり寝て、明日に備えて】
【分かったよ。じゃあ明日】
レオシュはとても眠れそうにない、と思いながらそう言った。
【ええ、また明日ね】
【あのさ、ルジェーナ、スノードームって知ってる?】
彼は急に、ルジェーナにそれを聞いてみたくなった。最初からずっと、微かに引っかかるような違和感が、レオシュの中には存在したのだ。
【スノードーム?】
【うん、このくらいの大きさのガラス玉なんだけど、中に町があって、雪が降るんだ】
【ごめん。知らないわ。そのスノードームがどうかしたの?】
【いいんだ。その内また話すよ】
【そう?それじゃあ、その時まで楽しみにしておくわ】
【うん】
【暗くなってからの方がいいと思うの】
【ぼくたちもそう思ってた】
今回は、〝たち〟という複数形を自分から抵抗なく使えた。
【家、出られる?】
【何とかするよ】
【ほかのみんなも?】
【みんなもかなりの覚悟で来てくれるから大丈夫だよ】
連絡の後、二コーラやジェトゥリオと会った時の話では、説得するというよりも、話が盛り上がってその人数になった、ということらしい。
ジェトゥリオは、今日の最終確認の場に、せめて二コーラと自分くらいは同席させるべきだと主張したが、二コーラが二人にしてあげようと言ってくれた。
【そう。それなら安心ね。集合場所とかは決まっているの?】
【バルブの一番近くのパークに集まることになってる】
【パーク?】
【知らないの? フェイクグリーンやファウンテン、それからベンチなんかがあるところ】
【ああ、私たちは公園て呼んでるわ】
【見たことあるよ、その字。その公園。バルブ近くの公園で集合ってことになってる】
【時間は決めておくけど、タイミングは任せるわ。全員で一気にバルブまで行って。だけどバルブを開けたら、通路は、一人ずつ間を置いて進んで。通路の長さは百メートルくらいだから、十秒毎に走り始めてくれるとちょうど良さそう】
【分かった】
【通路の外に小型四輪を置いておく。八人分ね】
【小型四輪?】
【ほら、その、いつもレオシュが乗ってくるような】
そう言って、ルジェーナはレオシュの後方を指差した。振り返ると、そこには彼のMRがある。
【ああ、あれね。いつも思うけど、同じものを呼ぶのに、名前が違うことが多いんだね】
【ほんとね。このドームではあれは何て呼ぶの?】
【MR。モーター・ライドの略】
【ふうん。そのMRみたいなのを、通路を出たところに用意しておく】
【自分たちで移動するの?】
【ごめんね。案内役くらいはつけるつもりだったんだけど、人員配置を考えたら、どうしても無理だったの】
【それは仕方ないね】
【でも、場所は分かるように、ナビゲーション・システムにセットしておくから。ドーム内しか場所を設定できないから、私たちのドームが目的地だけどね。その途中に一時待機場所があるから安心して】
【分かった】
【食糧や水、衣類も一時待機場所に用意してあるけど、自分のものでないと嫌な人は、遠慮せずに荷物を持ってきて】
【下着くらいはね】
【そうね。それから路面状態がよくないから、万一に備えて、水と軽食くらいは、そのMRに載せておくわね】
【うん】
【それから防寒具も】
【防寒具?】
【そうよね。ドームに住んでいる人間は、普通は一生知ることはないんだけど、外は冬で、とっても寒いの】
そう言うと、口を大きく開けて白い息を見せた。
【ほらね】
【そうか、冬は寒いんだよね。だから息の中の水分が液体化するんだ】
【そう。だから、防寒用の服が必要なの。私は、保温性の高いものを最初から着ているから平気だけど】
ルジェーナは自分の着ているものを引っ張って見せた。
【ふうん】
【レオシュたちには、その上から着られるような防寒具を用意しておくわね】
【何から何まで、ありがとう】
【お願いしているのはこっちなんだから、お礼なんて変よ】
【そんなことないよ。放っておいたら、このドームだって危険だったんだから】
【まあ、それはそうだけど。とにかく、準備は万全だから、安心して飛び出してきて】
その言葉に甘い気持ちが湧き起こって、レオシュはつい、
【ルジェーナの胸に向かって?】と言ってしまって、顔を紅くした。
【ええ、もちろん】
彼女は、満面の笑みで両手を広げた。いましもレオシュを迎え入れてくれそうだった。
【それなら、思い切って飛び出して行けそうだ】
【うん。明日は、初めてお話できるわね】
【?】
【だって、まだレオシュの声、聞いたことないもの】
【ほんとだ。ルジェーナの声をやっと聞けるんだね】
【明日は、ほんの少ししか時間がないけど、レオシュと直接会えるの、楽しみにしてる】
【ぼくも楽しみだよ。さっきまでは、何だか恐ろしい気分だったんだけど、そうだよね、ルジェーナに会えるんだもんね】
【そうよ】
ルジェーナは右手を腰に当てて胸を反らし、自慢げな表情を作った。
【そうだね】
【それじゃあ、今日はゆっくり寝て、明日に備えて】
【分かったよ。じゃあ明日】
レオシュはとても眠れそうにない、と思いながらそう言った。
【ええ、また明日ね】
【あのさ、ルジェーナ、スノードームって知ってる?】
彼は急に、ルジェーナにそれを聞いてみたくなった。最初からずっと、微かに引っかかるような違和感が、レオシュの中には存在したのだ。
【スノードーム?】
【うん、このくらいの大きさのガラス玉なんだけど、中に町があって、雪が降るんだ】
【ごめん。知らないわ。そのスノードームがどうかしたの?】
【いいんだ。その内また話すよ】
【そう?それじゃあ、その時まで楽しみにしておくわ】
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