16 / 34
16 不透明な原因
しおりを挟む
【ちょっと待って】
【どうしたの?】
【このまま決行当日、っていうのもお互いに不安じゃない?前日、最終確認しましょうよ】
【確かに。もう一度、行動を確認しておいた方が、ぼくも安心だ】
【大丈夫だとは思っているけど、もしかすると二週間で準備が整わないかも知れないし、別のアクシデントがあるかも知れないしね】
【それもそうだね】
【お友だちも、もしかすると、それまでに疑問とか出てくるかも知れない】
【そうだね。そうしよう】
【じゃあ、この時間に、この場所で】
【了解。じゃあ、またね】
【またね】
ルジェーナの去っていく背中を境界越しに見ながら、レオシュは、呆然としていた。
一体、どうしたら十人もの人間に、自分の言葉を伝え、理解してもらえるのだろうか。そう思うと、思考が停止してしまう。
「二週間か」と口に出してみた。
もっと時間をもらったからといって、どうにかなるとも思えなかったが、それでも時間が少しでも長い方が可能性を感じることができる。
MRのサドルに腰かけても、レオシュは、しばらく動き出す気になれなかった。
ルジェーナの笑顔を曇らせたくない。誰かにこの関係を奪われたくない。それらの気持ちだけで、彼女の望む答えを口にしてしまった。そこには見込みや勝算など何もなかったことは、最初から分かっていたのだが、彼女を前にして、それを冷静に判断することは彼にはできなかった。
最終的に要望に応えられないのなら、最初から断っておく方が、何倍も誠実であることは、レオシュも理解していたのだが。
MRをいつもよりもゆっくりと走らせて、間もなく家に到着するというところで、彼の方に向かってMRを並べて走行して来る二コーラとジェトゥリオが見えた。
チャンスだとは思ったが、どうしても彼らと友だちであった自分自身を信じることができなかった。ほかの誰かに話すことなど、もっと考えられないことなのに、それでも、いま、二人と話をする億劫さを乗り越えることができない。
二人が、こちらを見ていることを感じたが、それでも彼は無視して通り過ぎようした。
「ちょっと、レオシュ」
二コーラがMRを降りて、行く手を阻みながら、彼に声をかけてきた。その顔を見ると、ちょっと怒っているようだ。
「やあ、二コーラ」
「やあ、二コーラ、じゃないわよ」
「何を怒ってるの?」
「別に怒ってるわけじゃないけど、一度ちゃんと話さなきゃと思ってたの」
やめておけ、という意味なのか、こちらもMRを降りたジェトゥリオが、二コーラの横へ来て、その腕を突いた。
「話って?」
「どうしてわたしたちのことを避けるの?」
「別に避けてるわけじゃないよ」
「避けてるじゃない。話しかけても、適当に相槌を打つだけで、すぐに逃げるようにいなくなっちゃうでしょ?」
「そんなつもりはないけど」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、三人で少し話しましょう、昔みたいに」
「別にいいけど……」
「どうして、最近はわたしたちとあまり話をしないの?」
「さあ、特に理由はないよ」
「あまり話をしていないことは認めるのね」
ニコーラに引っかけられたと思ったが、もう仕方がない。
「まあ、それはね」
「そして、自分の方に原因があるのも自覚しているってわけね?」
「原因て言われても……」
「原因、という言葉に問題があるのなら、責任でも要因でも、何でもいいけど、レオシュの方が話さないようにしているのは間違いないのよ」
「そうかも知れないけど、本当に、理由があるわけじゃなくて、ただ、何となくなんだ」
「そう。それじゃあ、わたしやジェトゥリオのことを嫌いになったとか、誰かにわたしたちの悪口を吹き込まれたとかじゃないのね?」
「何だよ、悪口って?」
「例えばよ」
「そんなことないよ」
「わたし、レオシュを傷つけるようなことをしたんじゃないかって気にしていたのよ」
「そんなことないよ」
「安心したわ。ねえ、ジェトゥリオ」
「ああ」
「でも、だったらどうしてなの?」
「分かんないよ」
レオシュはイライラした。
そんなことを聞かれても、本当に分からない。口にはできないが、急に友だちだと思えなくなった、としか表現のしようがない。それで徐々に話しづらくなったのだ。
それまでは何の疑いもなく、同じように感じ、同じように考えていると思っていた二人が、急に遠くに見えたような気がした。二人が笑っていても、ちっともおかしくなかった。二人が怒っていても、それほど腹が立たなかった。
自分が無感動な人間になってしまったのか、と思った。しかしそうではない。何か得体の知れない漠然としたものに憤ったり、悲しくなったりはしていたのだ。
それが大人になった、ということであるなら問題ないのかも知れないが、どうも自分が大人っぽくなったという気もしない。かえって子供に退化しているような自覚があった。
だから、二人と一緒にいると苦しさしか感じられなくなったのだ。かといってクラスのほかの人たちと仲よくできるようになったわけでない。
「それにレオシュ、最近は特に変よ」
「えっ」
【どうしたの?】
【このまま決行当日、っていうのもお互いに不安じゃない?前日、最終確認しましょうよ】
【確かに。もう一度、行動を確認しておいた方が、ぼくも安心だ】
【大丈夫だとは思っているけど、もしかすると二週間で準備が整わないかも知れないし、別のアクシデントがあるかも知れないしね】
【それもそうだね】
【お友だちも、もしかすると、それまでに疑問とか出てくるかも知れない】
【そうだね。そうしよう】
【じゃあ、この時間に、この場所で】
【了解。じゃあ、またね】
【またね】
ルジェーナの去っていく背中を境界越しに見ながら、レオシュは、呆然としていた。
一体、どうしたら十人もの人間に、自分の言葉を伝え、理解してもらえるのだろうか。そう思うと、思考が停止してしまう。
「二週間か」と口に出してみた。
もっと時間をもらったからといって、どうにかなるとも思えなかったが、それでも時間が少しでも長い方が可能性を感じることができる。
MRのサドルに腰かけても、レオシュは、しばらく動き出す気になれなかった。
ルジェーナの笑顔を曇らせたくない。誰かにこの関係を奪われたくない。それらの気持ちだけで、彼女の望む答えを口にしてしまった。そこには見込みや勝算など何もなかったことは、最初から分かっていたのだが、彼女を前にして、それを冷静に判断することは彼にはできなかった。
最終的に要望に応えられないのなら、最初から断っておく方が、何倍も誠実であることは、レオシュも理解していたのだが。
MRをいつもよりもゆっくりと走らせて、間もなく家に到着するというところで、彼の方に向かってMRを並べて走行して来る二コーラとジェトゥリオが見えた。
チャンスだとは思ったが、どうしても彼らと友だちであった自分自身を信じることができなかった。ほかの誰かに話すことなど、もっと考えられないことなのに、それでも、いま、二人と話をする億劫さを乗り越えることができない。
二人が、こちらを見ていることを感じたが、それでも彼は無視して通り過ぎようした。
「ちょっと、レオシュ」
二コーラがMRを降りて、行く手を阻みながら、彼に声をかけてきた。その顔を見ると、ちょっと怒っているようだ。
「やあ、二コーラ」
「やあ、二コーラ、じゃないわよ」
「何を怒ってるの?」
「別に怒ってるわけじゃないけど、一度ちゃんと話さなきゃと思ってたの」
やめておけ、という意味なのか、こちらもMRを降りたジェトゥリオが、二コーラの横へ来て、その腕を突いた。
「話って?」
「どうしてわたしたちのことを避けるの?」
「別に避けてるわけじゃないよ」
「避けてるじゃない。話しかけても、適当に相槌を打つだけで、すぐに逃げるようにいなくなっちゃうでしょ?」
「そんなつもりはないけど」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ、三人で少し話しましょう、昔みたいに」
「別にいいけど……」
「どうして、最近はわたしたちとあまり話をしないの?」
「さあ、特に理由はないよ」
「あまり話をしていないことは認めるのね」
ニコーラに引っかけられたと思ったが、もう仕方がない。
「まあ、それはね」
「そして、自分の方に原因があるのも自覚しているってわけね?」
「原因て言われても……」
「原因、という言葉に問題があるのなら、責任でも要因でも、何でもいいけど、レオシュの方が話さないようにしているのは間違いないのよ」
「そうかも知れないけど、本当に、理由があるわけじゃなくて、ただ、何となくなんだ」
「そう。それじゃあ、わたしやジェトゥリオのことを嫌いになったとか、誰かにわたしたちの悪口を吹き込まれたとかじゃないのね?」
「何だよ、悪口って?」
「例えばよ」
「そんなことないよ」
「わたし、レオシュを傷つけるようなことをしたんじゃないかって気にしていたのよ」
「そんなことないよ」
「安心したわ。ねえ、ジェトゥリオ」
「ああ」
「でも、だったらどうしてなの?」
「分かんないよ」
レオシュはイライラした。
そんなことを聞かれても、本当に分からない。口にはできないが、急に友だちだと思えなくなった、としか表現のしようがない。それで徐々に話しづらくなったのだ。
それまでは何の疑いもなく、同じように感じ、同じように考えていると思っていた二人が、急に遠くに見えたような気がした。二人が笑っていても、ちっともおかしくなかった。二人が怒っていても、それほど腹が立たなかった。
自分が無感動な人間になってしまったのか、と思った。しかしそうではない。何か得体の知れない漠然としたものに憤ったり、悲しくなったりはしていたのだ。
それが大人になった、ということであるなら問題ないのかも知れないが、どうも自分が大人っぽくなったという気もしない。かえって子供に退化しているような自覚があった。
だから、二人と一緒にいると苦しさしか感じられなくなったのだ。かといってクラスのほかの人たちと仲よくできるようになったわけでない。
「それにレオシュ、最近は特に変よ」
「えっ」
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説


日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
桃華の戦機~トウカノセンキ~
武無由乃
SF
西暦2090年。日本は深海エネルギー結晶『エネラス』の発見によって資源大国となっていた。
しかしそれは、多くの争いを日本にもたらし。それに対抗する手段を日本に求めたのである。
そして、一人の少女の戦いが始まる。
作品解説:
巨大人型兵器×サイバーパンク×超能力な世界観(+美少女成分)を舞台にしたミリタリーファンタジー。
作者独自の作品群『rev.シリーズ』のWeb公開作品の第一弾。
一応SFジャンルにしていますが、正確には近未来ファンタジー作品です。SF科学考証とかあったもんじゃありません。
作者は、それほど世界情勢とかにも詳しくないので、いろいろ歪んだ世界観になっているかもしれませんのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる