スノードーム・リテラシー

棚引日向

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14 不適格な人々

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【両方で同時にドームを開放して、その出入口を確保するんだから、レオシュたちは、私たちのドームに入ってもらうのも難しいと思う。だから、一時待機場所を用意しなきゃ】
【一時待機場所?】
【そう、レオシュたちを匿う場所よ】
【ルジェーナのドームで、中から開閉口を開ける担当の人たちは?】
【彼らなら、大丈夫。開閉口を開けると同時に、その確保を手助けするから】
【ぼくはいいの?】
【何が?】
【ぼくは、バルブの確保を手伝わなくていいの?】
【いいのよ。レオシュはバルブを開けてくれるだけで十分】
【でも】
【気が引ける?】
【うん】
 本当は、その場に留まりたいだけだったのだが。
【それを担当するのは、屈強な人たちよ。私だって、技術や理論のサポートだけ。レオシュにできることじゃないの】
【そりゃあ、ぼくじゃ足手まといだよね】
 先ほどまで実行自体に躊躇していたのに、今度は手伝いたいと言う。男心というのも複雑だ、と彼は思う。
【はっきり言えば、そうね】
【ずいぶん、はっきり言うんだね】
 レオシュは、ルジェーナの言葉に一喜一憂する。
【でも、レオシュは、このドームのバルブを開けてくれるだけで、本当に十分なの。だって、時間をかけて説得して、少しずつ同志を集めたのよ。実行できるだけの人数を集めるのに、どれだけかかったか。そうまでして人を集めても、この計画にどうしても必要な最後のピースは、入手がかなり困難だと分かっていたの。それが隣接ドームの内通者。だって、通信手段も何もない。たとえこの危機に気づいている人がいたとしても、その人とコンタクトを取れるなんて、不可能に近い。たまたま会った人に分かってもらえるかどうかも運でしょ。だから、レオシュがここにいてくれたことが、私にとっては奇跡のように幸運なことなのよ】
【ありがとう】
【お礼を言うのはこっちの方。本当にありがとう】
【ぼくが、ルジェーナの計画を聞いて、拒否するどころか騒ぎ出したら、どうするつもりだったの?】
【まあ、ほとぼりが冷めるのを、しばらく待つだけよ。でも、レオシュを見て、この人なら、と思ったの】
【どうして?】
【勘よ】
【そんな根拠の弱いものに賭けたの?】
【勘をバカにするもんじゃないわ。でも、本当は、話す内に、私の話を真剣に聞いて、冷静な対処をしてくれそうだと思ったの】
【実際には話してないけどね】
【そうね。相手の声も聞こえないものね。でも、表情は見えるから】
 その時、ルジェーナの視線が急に画面の右上に動いた。
【どうしたの?】
【いつも時間がすぐに経っちゃうわね】
【そうだね】
【もう行かなくちゃいけないけど、まだ決めることがたくさんあるの】
【うん】
【一番大事な、決行日をいつにするか、とかね】
【そうだね。まあぼくの方は、ルジェーナの決定に従うだけだけど】
【従うなんて】
【言い方が悪かった?いずれにしても、ぼくには何をいつ行うかを決めることはできないもの。ルジェーナが決めて教えてくれればいい】
【わかった。じゃあ明日また会いましょう。いい?】
【うん】
【今日と同じ時間で構わない?】
【大丈夫だよ。いつも来てるじゃない】
【そうね。じゃあ、また明日。それまでに、いろいろと決めて来るわね】
 ルジェーナは、笑顔で手を振った。
【分かった。じゃあ、また明日】

 レオシュは、その夜、眠れなかった。一つは、これから自分が成すべきことの大きさで。一つは、誰か賛同者を、それもある程度の人数を見つけなければならないということで。
 前者よりも、後者の困難さが彼を苦しめていた。
 最初に頭に浮かんだのは、二コーラとジェトゥリオのことだったが、すぐに打ち消した。どんな風に話したらいいのか、さっぱり分からない。
 しかしそれは、ほかの誰でも同じことだった。果たして、ドームの外が安全だなんて話を信じてくれる人などいるのだろうか。
 とすると、両親が適切か。いや、彼らも駄目だ。息子が言うのもなんだが、彼らには自分たちの子供に対する愛情が足りない。そういう人間は、子供の言葉を決して信じない。自分の想像や推測、あるいは願望の範囲でしか息子を見ようとしていない気がする。そんな親が、予想外の話に対する聞く耳なんて、持っているわけがないだろう。
 父親は、自分の話しかしない。どうやら自慢話をしているようだが、自慢にもならない話ばかりだ。息子と十分なコミュニケーションを取る必要性を感じ、それを実行しているのかも知れないが、結局は一方的に自分の話を聞かせるだけで、子供の言うこと、言いたいことを聞こうという姿勢が感じられない。コミュニケーションとは、相手の話を聞くことではないか、とレオシュは思う。そんな人間と、自分の一大事について語り合うことなどできるわけがない。
 母親は、親と子の関係を、現実を無視して理解した気になる。親は子供を教え指導する立場にある。自分もそれができなければいけない。それらの考えがどこで捻じれたのか、自分もきちんとできている、という前提で話をする。残念ながら、人間を導くだけの見識を有しているとは思えない。能力がないのは仕方ない。しかし、能力がないのに、能力があるという前提で息子に対するのは我慢がならない。要は、子供を一人の独立した人間として尊重する気持ちが足りないのだ。答えをあらかじめ決めた上で質問し、想定から外れれば、不快を示したり、パニックを起こしたりする人だ。そんな人間が、息子の身に起こった想像を超えるような事態を受け入れることなどできないだろう。
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