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12 不相応な提案
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【ルジェーナたちが、境界の周囲を平気で歩いて見せたら?】
【それこそ何かの陰謀だと思われるわ】
【だって、そうやって、ATSも何も着けずにそこにいるじゃない?】
【悪意の目で見れば、これだって、何か仕掛けがあると考えられるでしょ?】
【まあね】
【それに、うちのドームの偉い人たちにも怒られちゃうし】
ルジェーナのちょっと子供っぽい笑顔が、レオシュをドキリとさせた。
【ぼくたちがパニックを起こすから駄目なんだっけ?】
【そういうことにしているだけなんだけどね】
【ああ、そうか】
【これは、どのドームにも共通していることだけど、自分たちのドームを有利な立場にしておきたいのよ。もしも、このドームの人たちが、外が安全だということを信じたら、それはうちのドームの人間たちには厄介なことになる。だから信じてくれない方が、そういう人たちには都合がいいの】
【資源のこと?】
【そう。このドームの人たちだって、昔は天然資源の採掘に躍起になっていたわけだし】
【外が安全だと分かれば、ほかのドームに渡すもんかって、必死に掘り始めるね】
【でも、今は違う。自分たちが知らないことを、ほかのドームの連中が知るわけがないという根拠のない自信に凝り固まっているから】
彼女の顔はまた悲しげになった。
【それで、ルジェーナはどうしたいの?】
【資源の争奪戦を始めさせたい】
【えっ?】
【資源をどこが独占するかなんて、人類の存続に比べれば大した問題じゃないって言ってるの】
【そりゃあ、そうだろうけど】
【言ったでしょ。ドームは人間が永遠に住めるところじゃないの。みんなここから出なきゃ駄目なのよ。そのためには、資源の争奪戦くらい、どうっていうことはない】
彼女の言葉はモニターに表示されるだけなのだが、レオシュには、その叫び声が聞こえるようだった。
【為政者たちは、人類が存続の危機にあることを理解していない。いいえ、理解しようとしていない。それも違うわね。自分たちの権力の維持にしか興味がないんでしょうね】
【権力なんて、人間が生きていればこそじゃないか】
【当たり前よ。でも、その当たり前のことが、権力を握ると分からなくなっちゃうみたい】
【権力者って頭がいいんじゃないの?】
【権力者があってこその国家。国家があってこその人間。そう考えているんでしょうね】
【そんなの逆だよ】
【もちろんよ。極論だけど、あの手の人たちは、自分が権力を握っていない集団が無事なことよりも、自分が権力者でいられる集団が滅ぶ方がましだと思うかも知れない】
【そんな人たちと話し合っても無駄だね】
【そういうこと。だから、強硬策しかないの】
【どんな?】
【ここのドームの開閉口を開けるの、無断で】
【えっ、バルブを?】
ドームの中と外との結合部、人間が出入りできる開閉口は、レオシュたちのドームでは〝バルブ〟と呼ばれていた。
【そう。知らない人たちがドームの外を歩いているだけじゃ駄目なの。バルブだったっけ?そのバルブを開けて、中から誰かが外に出て、平気だというところをみんなに見せなきゃ。そうして巷で噂になって、大騒ぎになってこそ、やっと為政者たちは何とかしなければ、と思うんじゃないかな。予想外でコントロールできない民意は、自分たちの権力を脅かすから】
【バルブを開けるの?】
【恐い?】
【そりゃあ、恐いよ。だって、外は危険だって、ずっと教えられてきたんだから】
【もう平気なのよ。ほら】
彼女は両手を広げて、その場でクルッと回って見せた。
【理解したことはしたんだけど、平気だって聞いたのも、ほんの少し前だから】
【でも、外からは開閉口を開けることはできない。中から開けてもらうしかないの】
【中から?】
【そう。だって、中からしか開かないんだもの】
【まさか?】
【ご推察の通りよ】
ルジェーナの笑顔が、初めて恐ろしいものに思えた。
【ぼくが?バルブを?】
【そう。レオシュに、バルブを開けて外に飛び出してきてほしいの】
【ぼくが?】
【そうよ。できれば何人かで外に出てほしい】
【そんなあ。バルブを開けるなんて無理だよ】
彼は、できることなら勇敢に胸を張って見せたかったが、それよりも恐怖心の方が大きかった。
【そんなに難しいことじゃないわ】
【でも】
【お願い。レオシュに助けてほしいの】
そんな風に頼まれて、抗える少年などいるだろうか。
だから、レオシュは、
【本当に、ぼくにできるかな?】と言ってしまった。
【きっと、できるよ】
【そうかな】
もう、彼は心を決めていた。いや実際には決心などしてはいなかったが、ルジェーナにイエスの返事をすることだけは決めてしまっていたのだ。
【うちのドームの開閉口は、私のような研究者であれば出入り自由なの】
【それなら、例の人口減少は防げるんじゃない?】
【多少はいいと思う。でも、一部の人たちにしか外出許可は出ていないし、その外出できる一部の人も、ほかのドームの人たちとの接触はできない。その上、開閉するのはほんの短い時間だけに限られているの。これはあくまでも私の見解だけど、それでは本格的に人口減少を食い止めることはできない。あまり開かれた状態とは言えないもの】
【そうなんだ】
【もちろん、開閉口は厳重に警備されている。VGの濃度が希薄になったことは報じられているけど、まだ完全に安全性が確認されてはいないことになっている】
【実際の安全性はどうなの?】
【VGについては、もう大丈夫。独特の毒性を持つ植物が発見されてはいるけど、摂取すればともかく、触った程度で人間に大きな影響を与えるようなものはないわね】
【あのさ】
レオシュには、バルブを開ける以上の問題があった。
【それこそ何かの陰謀だと思われるわ】
【だって、そうやって、ATSも何も着けずにそこにいるじゃない?】
【悪意の目で見れば、これだって、何か仕掛けがあると考えられるでしょ?】
【まあね】
【それに、うちのドームの偉い人たちにも怒られちゃうし】
ルジェーナのちょっと子供っぽい笑顔が、レオシュをドキリとさせた。
【ぼくたちがパニックを起こすから駄目なんだっけ?】
【そういうことにしているだけなんだけどね】
【ああ、そうか】
【これは、どのドームにも共通していることだけど、自分たちのドームを有利な立場にしておきたいのよ。もしも、このドームの人たちが、外が安全だということを信じたら、それはうちのドームの人間たちには厄介なことになる。だから信じてくれない方が、そういう人たちには都合がいいの】
【資源のこと?】
【そう。このドームの人たちだって、昔は天然資源の採掘に躍起になっていたわけだし】
【外が安全だと分かれば、ほかのドームに渡すもんかって、必死に掘り始めるね】
【でも、今は違う。自分たちが知らないことを、ほかのドームの連中が知るわけがないという根拠のない自信に凝り固まっているから】
彼女の顔はまた悲しげになった。
【それで、ルジェーナはどうしたいの?】
【資源の争奪戦を始めさせたい】
【えっ?】
【資源をどこが独占するかなんて、人類の存続に比べれば大した問題じゃないって言ってるの】
【そりゃあ、そうだろうけど】
【言ったでしょ。ドームは人間が永遠に住めるところじゃないの。みんなここから出なきゃ駄目なのよ。そのためには、資源の争奪戦くらい、どうっていうことはない】
彼女の言葉はモニターに表示されるだけなのだが、レオシュには、その叫び声が聞こえるようだった。
【為政者たちは、人類が存続の危機にあることを理解していない。いいえ、理解しようとしていない。それも違うわね。自分たちの権力の維持にしか興味がないんでしょうね】
【権力なんて、人間が生きていればこそじゃないか】
【当たり前よ。でも、その当たり前のことが、権力を握ると分からなくなっちゃうみたい】
【権力者って頭がいいんじゃないの?】
【権力者があってこその国家。国家があってこその人間。そう考えているんでしょうね】
【そんなの逆だよ】
【もちろんよ。極論だけど、あの手の人たちは、自分が権力を握っていない集団が無事なことよりも、自分が権力者でいられる集団が滅ぶ方がましだと思うかも知れない】
【そんな人たちと話し合っても無駄だね】
【そういうこと。だから、強硬策しかないの】
【どんな?】
【ここのドームの開閉口を開けるの、無断で】
【えっ、バルブを?】
ドームの中と外との結合部、人間が出入りできる開閉口は、レオシュたちのドームでは〝バルブ〟と呼ばれていた。
【そう。知らない人たちがドームの外を歩いているだけじゃ駄目なの。バルブだったっけ?そのバルブを開けて、中から誰かが外に出て、平気だというところをみんなに見せなきゃ。そうして巷で噂になって、大騒ぎになってこそ、やっと為政者たちは何とかしなければ、と思うんじゃないかな。予想外でコントロールできない民意は、自分たちの権力を脅かすから】
【バルブを開けるの?】
【恐い?】
【そりゃあ、恐いよ。だって、外は危険だって、ずっと教えられてきたんだから】
【もう平気なのよ。ほら】
彼女は両手を広げて、その場でクルッと回って見せた。
【理解したことはしたんだけど、平気だって聞いたのも、ほんの少し前だから】
【でも、外からは開閉口を開けることはできない。中から開けてもらうしかないの】
【中から?】
【そう。だって、中からしか開かないんだもの】
【まさか?】
【ご推察の通りよ】
ルジェーナの笑顔が、初めて恐ろしいものに思えた。
【ぼくが?バルブを?】
【そう。レオシュに、バルブを開けて外に飛び出してきてほしいの】
【ぼくが?】
【そうよ。できれば何人かで外に出てほしい】
【そんなあ。バルブを開けるなんて無理だよ】
彼は、できることなら勇敢に胸を張って見せたかったが、それよりも恐怖心の方が大きかった。
【そんなに難しいことじゃないわ】
【でも】
【お願い。レオシュに助けてほしいの】
そんな風に頼まれて、抗える少年などいるだろうか。
だから、レオシュは、
【本当に、ぼくにできるかな?】と言ってしまった。
【きっと、できるよ】
【そうかな】
もう、彼は心を決めていた。いや実際には決心などしてはいなかったが、ルジェーナにイエスの返事をすることだけは決めてしまっていたのだ。
【うちのドームの開閉口は、私のような研究者であれば出入り自由なの】
【それなら、例の人口減少は防げるんじゃない?】
【多少はいいと思う。でも、一部の人たちにしか外出許可は出ていないし、その外出できる一部の人も、ほかのドームの人たちとの接触はできない。その上、開閉するのはほんの短い時間だけに限られているの。これはあくまでも私の見解だけど、それでは本格的に人口減少を食い止めることはできない。あまり開かれた状態とは言えないもの】
【そうなんだ】
【もちろん、開閉口は厳重に警備されている。VGの濃度が希薄になったことは報じられているけど、まだ完全に安全性が確認されてはいないことになっている】
【実際の安全性はどうなの?】
【VGについては、もう大丈夫。独特の毒性を持つ植物が発見されてはいるけど、摂取すればともかく、触った程度で人間に大きな影響を与えるようなものはないわね】
【あのさ】
レオシュには、バルブを開ける以上の問題があった。
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