ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海

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第2章︙魔法都市編

古代の遺物4

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「………お前か。白い魔獣を使って主を傷つけようとしたのは」


無表情で淡々と言葉を放つクロスは、呆然とした大神官に向かって手をかざす。


「……僕が扱う魔法は、今の人類が使っている魔法とは違うし、精霊が使う魔法でもない。一番『至高』に近い魔法の使い方をしていたと思ったけど、主の『理』の魔法を見て思い知らされたよ」

苦笑しながら何重にも魔法陣を展開させ、魔力を次々と張り巡らせていく。

「……僕の魔法は『理』に近いけど違う。強いて言えば『根源』を扱う魔法に近い。だからね……僕の魔法は、そんな模造品ニセの魔獣に阻まれる程軟弱じゃないよ」

慌てて白マリモの影に隠れた大神官に容赦なく魔法を放つクロスは、機嫌が悪そうに片眉を上げた。


「しつこいね。のくせに忌々しい」

「き……貴様!!今なんと言った!!」

「失敗作って言ったんだよ。所詮は悪魔になれなかった魔族の成れの果ての分際で、主に手を出して許されるとでも?」

 クロスが指をパチンと鳴らすと、停止していた白マリモ達がみるみるうちに崩れ去っていく。

「え……あ…」

「この魔獣って『大戦』のときに精霊街を襲いに来てたよね。大方悪魔共が精霊の力が欲しくてけしかけたんだろうけど、僕とクロウが跡形もなく殲滅したはず。残党が生き残っているはずがないし、なんでまだ存在しているのかな?」

サラサラと砂のように散っていく白マリモを冷淡な目で見つめながら、静かに視線を大神官の方へ向ける。

「もうお前を守るものはない。そろそろ大人しく降参したらどう?」

「だ……誰が貴様の言う事に従うか!!お前らごとき私一人で十分よ!」

「あ、そう。僕は別にお前みたいな奴が何をしようと興味ないんだけど、主に手を出したんだからまた何か企んでもらっちゃ困るわけ。……じゃあね」

クロスが手を上げて大神官の動きを止めると、止めを刺そうと魔力を練り上げる。


「あ、ダメダメ!!クロス!!」

「えー、でも主。こいつ主を殺そうとしたんだよ?いくら優しい主でも不穏分子を野放しにはしておけないでしょ?」

「あ、ちがうちがう」

「…え?」

「しっかりじょーほーを、しぼりつくしてやらないと。ごーもんなりなんなりして、しっかりききだすんだぞ」

「え……え?」

「そんなすぐころしちゃダメダメ。つかえるものは、しっかりつかいなさいって……おれ、いわれたもん」

目を見開いて半ば愕然とするクロス。

「………主は凄まじいね」


心底驚いたような顔で呟くクロスは、クロスにしては珍しく結構動揺しているようだった。

「でもまあ、主の言う事も一理あるから、悔しいけど生け捕りにしてあげるね。僕もいくつか聞きたいことがあるし」

クロスは魔法で鎖を生成して大神官を縛り付けると、詠唱が唱えられないようにするためなのか口を塞ぎ、いつの間にか動けるようになっていたギルド長のもとへ投げ飛ばす。

まだ他の人は停止している状態だし、ギルド長が動けるのは……やはりものすごく強いエルフなのかもしれない。
余りにギルド長が俺より子供っぽい言動だったからそんなこと思ったこともなかったけど、ギルド長という座についているのだからそりゃ強いに決まってる。

「ひとまず危険は片付いたけど……問題はこれだね」

俺たちが見上げた先にある結界は、頂上だけクロスにより強引に壊されていたけど、未だに健在のまま。

「精霊王様ならば、あの結界を壊せるのではないですか?」

ギルド長がクロスに恭しく問いかけると、問いかけられた本人は目を瞬いて面白そうに口角をあげた。

「壊せるか壊せないかって言われたら壊せるけど、できないだろうね。この辺り一帯焦土になって意味がなくなっちゃう」

「そのことに関してですが、我々で保護魔法を……」

「僕の話は終わってないよ。そもそも何故僕がやらなくちゃいけないのかな?」

「何故……とは?」

「うん。僕は主の契約者であるから今回動いただけで、別にこの都市のことなんかどうでもいいんだよね。主が無事なら何でもいいんだよ」


本来精霊という生き物は、情が薄い生き物。
それは精霊の頂点に立つクロスも例外ではなく、彼自身が渇望した『ダイキ』という存在、そして何百、何千年と時を経て精霊王として精霊達を守っている以外に情が芽生えることなどあるわけもなく。

自分の大切なもの以外は無関心。

クロスという精霊王の性格を簡潔に述べると以下の通りになる。



「別に、君達都市の人間を邪険に思っているわけでもないし、かといって特別に思いがあるわけでもない。なのに何故わざわざ僕が動かないといけないのかな?」

「そ、れは……」

言葉に詰まるギルド長は、視線を泳がせて必死に打開策を練ろうと考えるが、生半かな言葉で精霊王の心が動くとは思えない。


「ちっちっち……ごほん。えー、クロスくん。きみはダメダメなせーれーさんだな。そんなんで、けーやくしゃのおれ、はずかしい」

「え……恥ずか、しい…?え?主に恥ずかしいって……言われたの?」


予想外の方向から途轍もないほどにダメージを受けたクロスはよろめく。


「すまんな、ギルドちょー。クロスは、シルをまもってくれたまちのひとたちを、ほっとこーってしてた。ひどいやつだ」

「ひどっ……!?」

膝をついて胸を抑えるクロス。


「おれは、かあいーわんこ、シルをたすけてくれたみんなを、ぜったいにみすてたりはしない!!ほら、しっかりしろクロス。へこたれるんじゃないぞ!!」

ベシベシと容赦なく精霊王クロスを叩いているダイキは、今にも心が折れそうなクロスを立たせると、咳払いをして気分を入れ替える。


「このけっかい、クロスくんは……どんなのした?」

「………別に、ちょっと硬い魔力とは違う原初の力が入り混じった結界だったよ」

我ここにあらずみたいな顔で答えたクロスを尻目に、俺は魔力を練り上げてグリモアを取り出すと、魔力を思いっ切り流し込んだ。

「ダイキお前、何やるつもりだ?」

怪訝そうな顔をして質問してくるレオンは、少し嫌そうな様子で聞いてくる。

「むむ……かーせきできたから、ぜったいせーこーするはず……たぶん。いけるとおもう?」


この結界、あの白い場所にそっくりな雰囲気がするのだ。それでいて嫌な感じがするから、あの白い場所に似ている悪い場所、という抽象的なことしか頭になかった。
しかし、有能で優秀な俺はそんなボンヤリとしたイメージのままにするわけがなく、白マリモから逃げ回りながら少しずつ調べていたのだ。

もともと予想してたことだから確認と言ったほうが正しいか。
俺はこの結界の一番おかしな所「魔力で生成されたものではない」という、もはや魔法の一つである結界と呼んでいいのかどうかさえ怪しい所に目をつけた。


まあ、当たり前なんだろうけど、なんとこの結界、直接『理』に組み込まれていたのだ。
魔力が無くても、世界の根源とも言えるだろうエネルギーで稼働してるんだから、そりゃめっちゃ強い精霊のクロスが「硬い」発言するわけだ。

それで一応解析できたわけだけど、下手に結界を破壊して白マリモを飛び散らせると後々もっと面倒になるのでできなかったというわけ。
それもクロスがぱぱっと片付けてくれたから……

ていうかクロスは一点突破のゴリ押しをしてきたわけだし、本当に強いんだよな。流石は俺の助手くんなだけある。


「みんな、あたまさげて」

俺はグリモアと『理』を繋げて魔法を発動させる。
今回はちょっとマイナーな魔法で『共有魔法』という発動してメリットがあるのか不思議に思われる魔法だが、俺はこの特殊な状況では化けると確信できた。

俺は『グリモア』を共有魔法で結界全体と繋げると、少しずつネジを外していくように結界を『理』から引き剥がしていく。



「くだけろ」


結界が粉々に砕け散り、莫大な魔力が放出された。





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デオライトSIDE


「ダイキお前、何やるつもりだ?」

「むむ……かーせきできたから、ぜったいせーこーするはず……たぶん。いけるとおもう?」


また何かやらかそうとしてる、最近冒険者登録したばかりのちびっ子に、私は頭を抱えた。

事の発端は大神官を偽った彼女だが、何故こんなにも面倒事が立て続けに起きてしまうのか。
しかも本人は全く悪気がないので、怒ろうにも怒れないこの歯がゆさが……
最初の頃は、この人族よりかは白い従魔の方に注意していたが、それは間違いだと早々に気付かされた。


そして今。
この幼子は本の形をした魔道具を取り出すと、エルフでも目がくらむような魔力を流し込み、繊細に練り上げていく。
周りを取り囲むように文字群が本の魔道具から浮かび上がり、普通の魔法ではない神秘的な景色を創り出す。


「みんな、あたまさげて」


その一言で慌てて私は守護魔法の結界を構築して辺りを覆うと、ほんの魔道具の中で練り上げられた魔力が、大神官が張った結界に光の線を描くように伝っていくのが分かった。

私たち以外すべてが停止したこの世界で、まだ幼い子は奇跡を起こそうとしていた。


「くだけろ」


いつもの雰囲気とは違う声で解き放たれた『奇跡』は、砕かれた結界、都市に渦巻く清涼な魔力の残滓、そして中心に一人佇む魔法使い。



………あぁ。



精霊王様と契約できた異世界からの人族。
この清涼で『想い』が籠もった温かい魔力。
そして奇跡のような、魔法。



魔法王。


私は不覚にもたった一人の幼子が、今は亡き彼に重なって見えた。



----------------

いつも読んでくださりありがとうございます!


魔物と魔獣の違いについて


『魔物』

ゴブリンやオーク、ワーウルフのような沢山生息している魔力を持った人に害をなす危険性のある生き物のことを指す。
比較的弱い魔物しかいないので、たくさん生息している。魔力は微量持っているが、知能が低いので意味が無い。

『魔獣』

魔物の完全上位互換。
魔物と違ってそれぞれの魔獣は一体しか個体が存在しない。
現在世界各地に魔獣が生息しているが、魔獣は知能が高く相互不干渉の関係で成り立っている。
魔獣の戦闘力は一国に匹敵、また上回るほどだと言われている。


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