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第2章︙魔法都市編
古代の遺物3
しおりを挟む【夢幻雪】
とある吟遊詩人が大地を覆い尽くす『夢幻雪』を発見し、まるで幻のような光景の絶望の雪だと言ったことから『夢幻雪』と名付けられた原因と考えられている
神話時代にいたとされる魔獣。強大な力を持ち、増殖能力がずば抜けていて現在は神話級魔物に指定されている。
最後に発見された約二千年前の『大戦』以降、全く姿を現すことはなくなり、『大戦』を最後に全ての個体が消えたと言われていた。
突然だが俺は今、大量の白いマリモに追われている。
「むー……あたっく!!」
俺は風で、竜巻を起こして白いマリモの大群にぶつけるけど、まさに焼け石に水。
「魔術の檻へと閉じ込められよ、ウォーターハント!!」
「天空に貫かれよ、サンダー!!」
「灼熱の花を咲かせよ、ファイアフラワー!!」
街の人達も白マリモを止めようと魔法を使ってくれてるけど……あの呪文はなに?
厨二病が言いそうなセリフを汗を垂らしながら懸命に言ってる姿は、状況が状況だから何ともいえない気持ちになってしまう。
しかも、ウォーターハントとかも俺が使ってるやつよりちっちゃくて脆く、白マリモには全く効いている様子がない。
………なんか、うん。俺は応援してるぞ。
そんな無駄なことを考えている傍ら、次々と襲ってくる白マリモを魔法で片っ端から殲滅しながらシルに乗って逃げ回っているけど、流石にそろそろ不味くなってきた。
余りにも白マリモが量産され過ぎて、逃げ場がなくなってきている。
俺にしか襲わないから周りに致命的な被害が出ていないのが幸いか。
しかし、ここでずっと粘っててもあの結界のせいで実質詰みになっているが……ここはちょっとばかし本気を出して差し上げようではないか!!
「ウォーターハント!!おぼれろ!!」
俺はお馴染み水魔法で大量のマリモを閉じ込めると、風魔法でグルグルかき混ぜてあげて、最後に燃え盛る白い炎で炙り焼きにする。
ここで一通り調理して大半の白マリモは死滅するけど、ごくわずかに生き残ったしぶとい奴らが分裂しまた増え始める。
「ちぇ……まるでゴキブ……みすたージーにそっくりだ、つぶしてもつぶしてもわいてくる」
シルに乗って逃げながらつい舌打ちをついてしまうけど、本当にこの白マリモえげつないのだ。
数秒で家一件分を埋められるような勢いで増えているこの白マリモたちを全滅させようなんて思ったら、それこそ俺か全力を出してシルにも手伝ってもらって、あと色々条件が重なってこの都市を更地にできる魔法を放つことくらいだと思う。
無論そんなことしたら俺たちもお陀仏なのでやらないけど、現状それ以外に方法がないのだ。
「おいダイキ!!もう少し集めてから来い!!」
さっきは少し多く集めてしまったから一度殲滅したけど、今度は少なすぎたか。
俺はさっきと同じように駆け回って白マリモたちの注意を引いて、ギルド長とレオン達が待機している場所までいく。
「今だ」
ギルド長の合図で冒険者たちの集中砲火を食らった白マリモ達は跡形もなく消え失せる。
しかし直ぐに他の場所から増殖して全く意味を成してない。
「………どうするおつもりですか、ギルド長」
勿論このままではジリ貧で体力が尽きてしまうことが明白なので、いち早く状況を見抜いている冒険者たちは焦っているけれど、これに関しては俺に秘策があるのだ。
「……最悪、この子を引き渡して後から追跡させて奪い返すか……しかし、この方法は余りにも成功率が低い……」
「ギルドちょー、おれ、シロマリモつかまえる?」
「しろま……は?」
「シロマリモ」
何だか不思議そうな顔で俺を見てくるが……あ、白マリモって俺が勝手につけた名前だから不思議なんだな。じつは違う名前……というかほぼ絶対違う名前なのでほぼ混乱したに違いない。
訂正しようとした俺よりも早くギルド長は白マリモが何なのか気づいたようで、片手を上げて首を傾げた。
「何故だ?そもそもあんなもの捕まえたところで何の利益もないではないか。そんな危険なことするほうがどう見ても悪手だと……」
「ちがう、ちがう。ギルドちょー、わかってないな!シロマリモつかまえて、じっくりじゃくてんをさがすんだぞ!!」
「………。」
「ちぎったり、きったり、つぶしたりして……どんなこーげきがいちばんか、しっかりしらべないとだぞ!!」
「………お前、その年で中々に残酷で鬼畜なことが思いつくな」
……何を今更。
魔法で焼いたり細切れにしたり溺れさせたりしている代表が冒険者のくせに、そのトップにいるギルド長が俺のことを鬼畜と言うのか?
これだからもう……全くこの世の常識というやつが染み付いてないな。やはりギルド長は精神が俺より子供だったか。
「フンッ……よのなか、せちからいからな。おとなのおれは、しっかりわかってるからな」
「ほう。よく意味がわからないが侮辱されたことだけは分かった。だったらほれ、お前はなにか解決策があるのか?」
「それは……」
ギルド長に逆に詰め寄られて答えに窮した俺は、また白マリモが湧いてきたのでシルに乗って戦略的撤退をすることにした。
決して答えられなかったわけではない。ただ間が悪かっただけ。それに俺は一応秘策があるし……
俺が考えた最終手段は一つの問題は解決するけど、もう一つ新たな問題が生まれて意味がなくなってしまうのだ。
要はプラマイゼロになってしまうので、そうならないためにもじっとこのまま耐えるしかない。
「頑張れよクロちゃん!!」
突然声をかけられて俺は後ろを振り向くと、あの屋台のおばさんが、屋台の人には全く似つかわしくない大剣をぶん回しながら俺に向かって大きく手を振っていた。
「こっちは気にせんでいいよ、こんな白いのにあたし達がノコノコやられるわけないね。クロちゃんがなにか考えてるのもあたしゃ分かるからさ。クロちゃんの味方だよ」
「うん………うん!ありがとおばちゃん!!」
白マリモを殲滅しながらジーンとなっていると、折角の感動な雰囲気に邪魔が入った。
「しぶといですね、このままでは貴方方全員死ぬというのに、底辺同士の傷のなめ合いですか?しっかりと現実を見なければ生き残れないことを分かっていて?」
白マリモに囲まれた大神官が、白マリモを愛しげに撫でながらこっちに軽蔑した視線を投げてくる。
「こんな人族何かのためにどこまで耐えられるか見物ですね。さて……私はあと半日にかけましょうか」
愉しげに口元を歪めて物思いにふけっている大神官に悪いが、俺はそれをボーっと見ているほど馬鹿じゃないし優しくもない。
「えい」
巨大な火球を放って大神官ごと燃やし尽くそうとしたけど、白マリモに阻まれて結局届かない。
勿論こんなのは想定内。
俺は今度は火球を分裂させ数を増やすと、腕を振り上げて大神官に攻撃する。
「だからそんな稚拙な攻撃で私が……あ?」
白マリモにぶつかった火球は爆発を起こし、他の火球に伝染して連鎖爆発を起こす。
先程放ったただの火球は、大神官を油断させるためのブラフであり、今はなったのは『理』仕込みの特別な火球だ。
「が……ぁ…」
「あーらあーら!!みにくいおばさん、おれのちせつなまほうでズタボロだな!かあいそー、とってもキモいなって……えぇー!?」
ここぞとばかりに俺は大人の煽りを入れてやると、案の定大神官は怒りに包まれた様子。
そしてなんと驚いたことに火傷した肌が再生されていく。
魔法陣や詠唱を使って光に包まれる治癒魔法とは違う、まるで動画を逆再生したかのような治り方に、俺は驚きを隠せなかった。
………こいつ、もしかしなくても人間ではないな?
「このガキ!!よくも私の高貴な身体を………いいわ。もうこんなんじゃ埒が明かない。私直々にお前を殺してあげる」
大神官が片手を上げて詠唱を始めると、白マリモ達がこちらに一直線に向かってくる。
嫌な魔力を撒き散らしながら詠唱をしている大神官は、俺を殺意のこもった目で見ながらヒクリと口元を歪めた。
「大体お前達がまさか『鏡』から脱出したから計画にズレが生じたのよ。お陰でこっちはもう表立って活動することが難しくなったわ。その代償は命をもって償ってもらわないとね」
「ふざけんな。だれが……だれが、おまえのいうとーりにするか」
大神官が放ってきた魔法を魔法で相殺して、周りに被害が広がらないよう全力で大神官を相手にしていると、四方八方から白マリモが襲ってくる。
「消えろっ!!」
俺の周りの白マリモを切り倒したレオンが、俺に白マリモが近づかないようにしてくれている。
「はあ……面倒ね」
大神官は突然魔法攻撃をやめてレオンに手を向けた。
するとどこからともなく現れた透明な鎖がレオンを縛り付け、空中に高く吊り上げる。
「放せ!!くそっ!!」
「ほら、あのエルフは私の掌の上にあるわ。生きるも死ぬも私が決められる……ほら、抵抗をやめなさいな」
こ、こいつ……なんて卑怯な!!
まだお子様のレオンを人質にするなんて、悪逆非道で下劣で外道、愚図なやつがすることなのに!!
「あら?さっさと投降しなさいよ。こいつがどうなってもいいの?」
にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべて俺を挑発してくるが、悔しいことに万事休すな俺は渋々魔法を使うのをやめると、シルから降りて大神官のもとへ向かった。
「ダイキっ…!お前何して!?」
「うるさいレオン。ちょっとしゅーちゅーしてるから、だまってて」
レオンが驚いたように目を見開いて必死に俺を止めようとしてくるけど、どうせ最初から選択肢なんてないのだ。レオンを見捨てるほど俺は落ちぶれてないし、そこまで無情なやつでもない。
「そうよ。ほら、もう少しこちらによって……」
俺は素直に近づくと、大神官はニヤッと口角を上げて俺に手を伸ばした。
「止まれ」
声が響き渡ると同時に、この世界から全ての音が消えた。
周りをみると宙に浮いたまま静止している瓦礫の破片、魔法、そして人々。
白マリモの増殖は勿論、動きも停止していた。
俺の他に動けるレオン、大神官は呆然と周りを見渡して空を見上げる。
大神官が張った結界の頂点に、一筋の月明かりが差し込んでいた。
「助けに来たよ、主」
----------------
いつも読んでくださりありがとうございます!
すみません。体調不良で更新が遅くなりました。今年は風が何故か結構ひく年になりましたが、今考えたらあと一ヶ月で2024年が終わりますね。
この作品も、そろそろ半年を迎えるので時が経つのは早いですね……
これからも末永く仲良くしてくださると嬉しいです。よろしくお願いします(^^)
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