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第2章︙魔法都市編
ハイエルフの里4
しおりを挟むアーサー(レオンパパ)SIDE
類稀なる魔力に恵まれ、神聖な加護を宿す種族であるエルフ。
更に、エルフの中でも能力が抜けて高く希少な存在であるハイエルフ。
そんなハイエルフとして生を受けた私は、今まで順調に、そして円滑に人生を歩み謳歌してきた。
友に恵まれ、家族に恵まれ、エルフ達からの信頼も得ている私にとって、これ以上私に足りないものはないと思っていた。
完全な存在とまではいかずとも、確かにあの頃私は己に自惚れていたのだ。
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いや、幸せと言っては語弊があるだろう。私は周りから見て完璧な家族を作り上げたのだ。
ある賢者はこう言った。
誰しも失敗する。そして成功は失敗を元に成り立っているのだと。
今まで失敗したことがない私には縁のない言葉。
きっとこれからもそうだろう。
そう思っていた私は、次男のレオナルドが生まれたことによりそんな考えは粉々に砕け散った。
「ちちうえ!今日こそ、わたしといっしょにあそんで…」
「忙しい。お前に構っている時間なんぞない」
突如として私の人生に転がり込んできた『失敗』。
魔力が極端に少なかったレオナルドは、エルフにとって最も重要な要素が欠けているも同然。
こんな者に時間を費やすくらいならば、長男を立派な後継者にすることが大事だ。
私はレオナルドに素っ気なく接していたが、妻は違った。
「レオナルド、おいで」
「ははうえ!」
妻は長男と別け隔てなく接しレオナルドを育てていた。
こんな失敗にわざわざ時間をかける理由があるのか。
そう思っていた私は妻に何故レオナルドを甘やかすのか聞いてみることにした。
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「しかし、君になんの利益もないだろう。なぜあそこまでアレを気に掛ける?」
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「貴方みたいに魔力だけでレオナルドを見ているわけではありません。あの子は感情のある元気なエルフです。貴方があの子に冷たく当たっている事は知っています。そしてレオナルドも当然知っているはずです。
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冷ややかに淡々と言い放った妻は、今でもハッキリと私の脳裏に焼き付いている。
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原因はレオナルドを周りから守ることのストレスで、もともと患っていた魔力過多症が再発してしまっていたとのこと。
あんな失敗のせいで、結局お前まで被害を被ってしまったではないか。
それでも死に際までレオナルドに笑顔を見せていた妻は、満足そうな表情でこの世界から旅立っていった。
ある賢者はこう言った。
誰しも失敗する。そして成功は失敗を元に成り立っているのだと。
私は妻の今までの行いはなにも生まず、何の生産性もない『失敗』だと思っていた。
それから母親を失ったレオナルドは、周りから疎遠にされ疎まれていた。
私はそれを知っていたが、別にどうってことはない。
失敗に時間をかけるほうが間違っているのだ。これは皮肉にも亡き妻が証明してくれた。
そして何事もなく一年が経ったある日。
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「あら?私は何も悪いことはしてないわ。逆にこちらから聞きたいのだけど、なぜ私が責められないといけないわけ?」
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「貴方達エルフがなんでレオナルド君のことで怒るのかしら?」
「何故!?聖女様は我々の宝であるハイエルフを……」
「だから?貴方達レオナルド君のこと冷遇してたらしいじゃないの。それにレオナルド君自らの意志でここを出たのよ。礼儀正しいあの子が挨拶もしない出ていきたいなんて、余程ここを出たい事情があったんでしょうね」
「………。」
図星だった。
今までレオナルドを邪険に扱ってきた私、そして上辺だけのの敬意で接していたエルフ達も聖女に言葉を返すことはできなかった。
「ああ、あの子も上手くやっていることだし貴方達エルフがあの子の邪魔をしないように願いたいわね」
「ですがレオナルド様は…」
「あら?私はお願いをしているの。貴方達だって、ハイエルフの子供を放置していたなんてことが世間に露見するのは嫌でしょう?」
笑顔で容赦無く追い詰めていく聖女は、先代の弱気な聖女や先々代の無知な聖女とは訳が違った。
(何故神殿が聖女を飼い殺しにできなかったのか……理由が分かった気がするな)
この聖女は違う。
この世界に完璧に適応している。
だからこそこのような強気な態度をとることができるのだろう。
聖女はレオナルドという手札があることをしっかりと心得ていた。
また、それが今の私、そしてエルフ達の弱点だということもしっかりと理解しているのだ。
「それじゃ、あの子が自ら戻ってくるまでは邪魔しないようにお願いしますね」
聖女は手を振りながらスッと姿を消した。
今のは……光の精霊の力?
それも余程高位な光の精霊の……
様々な疑問を残し姿を消した聖女に、里は暫く騒然としていた。
それでも平等に月日は流れていく。
聖女が立ち去って間もない頃、風の便りで不思議な話を聞いた。
「知ってますか?魔法都市ミネルヴァで女神降臨を成功させた子どもが現れたらしいんです」
「それは……まことか?」
聖都の大神官だというデイルは、相変わらず感情の読めない顔で私に面白い話をしてくれた。
女神降臨を成功させた、それも精霊や魔族ではないのだ。
話によれば、女神降臨に携わった子供は二人。
一人は黒髪黒目の見目麗しい幼子で、白い強大な力を持った狼型魔物を従魔としているらしい。
なんとも珍しい人族だが、黒髪黒目というからにはおそらく異世界人なのだろう。
そしてもう一人の子供はエルフで、金髪蒼眼の冒険者をしているのだとか。
本来金髪蒼眼のエルフなんてそうそういない。
ましてや子どもとなればなおさらだろう。
「……そのエルフの名前は?」
「そうですね……確か、レオナルドとかなんとか…」
……これは嬉しくも不味い知らせだった。
私は聖女の忠告などとうに忘れ手紙を送った。
今のレオナルドの影響力は存外に高い。我々のことを喋られたらエルフとしての尊厳が落ちてしまう。
(しかし、これであわよくば女神降臨の詳細をレオナルドから聞き出せば、我々エルフは他種族から優位に立てるかもしれない)
私は魔術を使い早急に魔法都市の冒険者ギルドに送還すると、一日も経たず手紙の返事が戻ってきた。
拝啓、レオンの家族へ。
いつもレオンがお世話になってます。このお子様は問題ばかり起こして大変ですが、俺は大人なのでしっかりと面倒を見てあげています。
それから、これからは家族面してこうやって手紙を送るのはやめてください。
本人が嫌がっているし、レオンが有名になったからと都合よく集ろうとする行為は見苦しいです。
いい年した大人がキモすぎる、とレオンも言っていました。
理解したならさっさとくたばれ。
レオンより
……なんだこれは。
そもそも文体からしてレオナルドが書いたものだとは思えない。
悪戯かと思ったが、精密な魔法でこちらまで届いた手紙に、ここまで手を込んで悪戯する理由もない。
そんなこんなで混乱している間に一週間が経っていた。
私はいつものように我が家の中を歩いていると、なんと長男が魔法で水球に閉じ込められていた。
「おい!私の息子に何をしている!!」
私は魔力を撃ち出しあの水球を消そうとしたが、ほんの僅か水球を鈍らせる程度だった。
ハイエルフの魔法を容易く弾く魔法。
しかもそれを発動しているのはおそらくあの黒髪黒目の子供だ。
幸い長男は自力で脱出でき事無きを得たが、問題はこれからだった。
私は里を出たレオナルドに家族と呼ばれる謂れはないといい、レオナルドを叱っているともう一人の黒髪の子供が口を挟んできた。
ハイエルフの会話に口を挟むなんて、まったくもって教養のない子供だが、さらにあの子供は私を侮辱し始めた。
生まれて初めてこんなにも侮辱されたことがなかった私は、つい怒りのあまり容赦無く魔法を発動しようとしたが、精霊の加護が消えていた。
呆然としている私に、更には銀髪の精霊が私が今まで見たこともないような魔力を放出しながら脅しをかけてきた。
……分からない。
今まで私は恵まれた存在だと思っていた。実際、私は恵まれていたはずだ。
しかし、現状で私は矮小な存在でしかなかった。
あの白い魔物の威圧に怯え、高位精霊から警戒されている私は、あまりにも無力だったのだ。
ある賢者はこう言った。
誰しも失敗する。そして成功は失敗を元に成り立っているのだと。
私は本当の『失敗』を知らなった。
もう取り返しのつかない失敗は、修復することは愚か一生背負っていくしかないのだ。
魔力もないハイエルフが、今では私より恵まれた環境にいて、反して私は精霊の加護を失った加護なしハイエルフとなった。
周りのエルフは私を見捨てるだろう。私がレオナルドにしてきたように、冷遇されるに違いなかった。
ああ、お前の言っていることが正しかったのかもしれない。
魔力もないハイエルフに愛情を注いで大切に育てた妻は、この事を知りもしないだろう。
結局私は失敗を知らなかったゆえに、取り返しのつかない失敗を犯してしまったのだ。
暫くし、私はエルフの長から降りることが決定されたのだった。
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いつも読んでくださりありがとうございます!
そしていいねしてくださる方もありがとー!
エールしてくださる方は言わずもがな神です。
えー、何故かまた熱が再発しだしてでですね。なんの無理もしてないのですのに、何故でしょうかね?
前回風邪には気を付けてとか言っといて、流石にこれはあり得ない……
恥ずかしい限りです…。
皆さん、風邪が再発しないように気をつけていきましょう!
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