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第2章︙魔法都市編

ダンジョン攻略3

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「……どう思いますか。精霊王様」

ワーウルフの群れに果敢に立ち向かっていくダイキとレオンを見つめながら、レイシアはクロスに問いかける。

「僕個人の意見としてだけどね………まあ、しっかりと息のあった戦い方を維持できれば、倒せるだろうね。一番の懸念は、あのハイエルフの体力かな」

「その……普通は、魔力を使う後方支援のダイキ君の方を心配すると思うのですが…」


通常、前衛の体力より遥かに減りの速い魔力を使う魔法使い、治癒師などは、前衛よりも先に力尽きることが多い。
冒険者パーティーの死亡原因の大半は、後衛が力尽き、前衛の人が維持できず連携が崩壊してしまうので、後衛のダイキのほうが不安要素が多いように感じられるのだ。

(契約者としての欲目かしら?流石にレオナルド君は前々から冒険者活動をしているから、そんなことはあまり心配ないと思うけど)

「主の魔力量は僕を遥かに上回るから。それこそ、国全体に影響を及ぼす大魔法を発動させても魔力切れは起こらないくらいだろうね。だからまだ主は魔力の扱いに慣れていないけど、あれは魔力量で補っているようものだよね」

「そ、そうですか……」

「うん。女神様を魔力で降臨させるような主だからね。この程度で魔力切れなんて起こるわけない」


あまりに的確な考察に言葉を失うレイシア達。
元々ダイキが精霊と契約しているのは薄々知っていた……というかダイキ自身そう言っていたのだが、まさか、かの精霊王だとは思わなかった。
流石は何千年も生きている精霊王は、接触すればするほど違いを見せつけられる。

……あの子はどうやって精霊王と対等に接することができるのだろうか。
そう思ってしまうほど、この世界の住人にとって精霊王とは畏敬の存在だった。

「だからね。主の強さは輝けば輝くほど自身にも、そして周りにも影響が出る。そこらの聖女や大賢者の比じゃないんだ。そもそも主に限界があるのかどうかすら危ういね」

精霊王と契約できる存在もまた、精霊王に劣らない、そして上回る存在でなければならない。
それはこの世界の理であり、絶対的な力を持つ者にしか許されないことだった。
だからこそ、クロスにも不安があった。

「今回はワーウルフ、それも亜種が率いる群れだけれど、主とあのハイエルフ……レオナルド君は乗り越えなければならない。おそらく、悪魔の襲撃この前のことがこれから何度も起こるだろうから」


ダイキの存在が大きくさらけ出されてしまった今、平和に楽しく暮らすことはもうできなくなってしまった。
なにより、ダイキ自身が冒険者になりたいと言っていたのだ。もう隠し通すことはできない。
いつかまたアスモデウスのような世界を握る者がダイキの特別さに惹かれ近づいてくる。
だからこそ、主には多少予想外な事態にも対応できるように成長してほしい。

じゃないと、生き残れないかもしれないから。

今回は今すぐ助けに入ることができる僕達がいるから、亜種が来ても傍観することにしたのだ。


(それにもう……聖女から主についての情報が寄せられているのに目を通したけど、もう主を狙って動き出している人間もいるようだし)

クロスはポツリと心のなかでそう呟いたのだった。






「ダイキ!!前2匹は俺が相手するから、お前は後ろで邪魔できないよう牽制してくれ!」

クロスたちが見守る中、交戦中であるダイキとレオンは現在順調に連携を取っていた。
基本、牽制しながら少しずつ群れを削っていく作戦はうまくいっているが、やはり普通のワーウルフの群れではなかった。
少しずつ対策をとられ始め、今では互いに牽制しあうという半分膠着状態に陥っていた。

しかもこのワーウルフの群れ、俺たちの集中力と体力を削るため少しずつちょっかいを掛けてくるのだ。
しかもすぐに身を引くから仕留め損なってまた膠着状態。このままでは俺達が負けることは火を見るよりも明らかだった。
さっきもやっとレオンが2匹倒しただけ。 

「不味いぞダイキ」

「わかってる……ちょっとまって…」

なにか策、この状況を突破できる策があれば…
ワーウルフを警戒しながらじっと見つめていると、なにやら奥の方に僅かだけど毛色の違うワーウルフがチラリと見えた。
………もしかしたら、あれが親分かも。

戦いにおける重要な指揮役を潰すことで、この厄介なワーウルフの連携も崩れるかもしれない。
俺は取り敢えず多めに魔力を込めた矢を奧に放つ。
勿論当たるなんてはなから期待していなかった。そんなことより、俺が注目していたのは周りのワーウルフたちの方だった。
明らかにあのワーウルフだけを厳重に守っているな。つまり、あいつが親分でほぼ確定ってことか。

ふふっ、もう弱点を見つけたからには容赦はせん。徹底的に利用してとことん追い詰めてくれる!!
もう昼頃でお腹が空いているから、そろそろ決着をつけようではないか。


「レオン。おれがあいずしたら、ぜんりょくでこーげきできる?」


「………おい。なにやる気だ?」


あの親分をどうにかすれば俺たちの勝ちなのだ。
俺は矢を番えて、慎重に狙いを定める。

「えっと……ほい!」


俺は矢を火属性の魔力だけ込めて、馬鹿にならないほどの火の矢を放った。
矢はワーウルフ達の頭上を通り越して、後ろの方へいって木に着弾した。
瞬く間に燃え上がる木に、俺は弓を放ちながらレオンに合図した。

「あのき、たおして!」

「はあ?無茶言うな!」

文句を言いながらも、俺が叫ぶと同時に俺の矢に乗じて飛び出すレオン。
俺はレオンの周りに次々と矢を放ってワーウルフを近づけさせないようにし、レオンに道を作ってあげた。


バキッ


レオンが放った斬撃に半分ほど切れた樹木は、俺が火の矢でさらに衝撃を与え後ろの方に倒れた。
丁度あの親分が避けた隙を狙い火の矢を乱射して群れと引き離す。
本来この火を使った戦法はご法度だけど、俺には唯一使える魔法、ウォーターハントがあるからな。大丈夫だろう。

群れの方をみると突然自分たちに降ってきた火にパニックになっているようで暴れまくっている。その中をレオンが避けながらこっちへ戻ってきた。


「………アレが元凶か。亜種ワーウルフなんて討伐依頼初日から遭遇していい魔物じゃないだろ。とにかく引き離せたし、あとはこの亜種を倒せばいいんだな?」

「そーだ。おれのおなかがぐーぐーするから、はやくやるぞ」

「…よくこの状況で昼食のことを考えられるな」



俺達は警戒しながら親分を睨みつける。
一方の親分もこちらを静かに見つめていた。周りの火なんか目もくれず、こっちを警戒する姿にやはり高い知性を感じる。
緊迫した時間の中、最初に動いたのは親分の方だった。

一声鳴き足を踏みしめると、地面が徐々に動き出した。

「な!?まさか、まほうつかいおーかみ!!」

「そんな場合じゃないだろ。どうするダイキ。これじゃあ俺たちが火に包囲されたぞ」

あの親分、俺がつけて燃え広がった火を利用して地面を動かし、俺たちを火が囲むようにした。
これで完全に俺とレオン、そして親分だけ隔離されてしまった。

わざわざシルにも及ばないショボい魔法のなか悪いが、俺達には大変都合がいい状況だ。
これならまさに親分と俺……とレオンの、レオンはおまけのようなものだから一騎打ちができる。


「ダイキ。あと魔力はどれくらい残ってるか?」

「ぜんぜんだーじょーぶ。まだまだうてる」

「おっし。じゃあ、俺たちも準備万端だしそろそろ始めようぜ」



今から本気でいくから。そう言いレオンは剣を構え俺は魔力を練り上げ矢を番える。

俺達は同時に駆け出した。


----------------

精霊王について

神話時代から存在する太古の存在。
膨大な魔力量と、類稀な魔力親和力で全属性の魔法を使うことができる。
しかし、本人唯一の属性である時空間のほうが使い勝手が良く強力なので基本使わない。

何千年も孤高の存在であったが、最近はデレデレの親バカ精霊の道を歩み始めた。
また、契約者であるダイキの料理をよく一緒に食べるため、舌も肥えてきている。
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