ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海

文字の大きさ
上 下
33 / 78
第2章︙魔法都市編

宿でのハプニング

しおりを挟む


「あら、お帰りなさい!!冒険者ギルドでの用事は済ませた?今日は温かいスープが………あら?もう一人可愛いのがいるじゃないの。どうしたの?」


可愛いの? 

俺はキョロキョロ周りを見渡しても見当たらないので、意味がわからなくて首を傾げた。
……もしかして、遠回しに自分のことを可愛いって言ってるのか?変わった人だなー。

「こいつはダイキ。何故か道のところで寝てたんだよ。それでなんだかんだあって部屋を一晩貸すことになった」

「おれはダイキ。ぼーけんしゃになったおとこだ。よろしくたのむ」

「………変わった子供ね」


変わり者扱いされてしまった。
確かにさっきの挨拶は子供がするような挨拶にしてはレベルが高かったのかもしれない。
俺の精神年齢が大人なことに薄々気がついているなんて、中々見る目があるな。

「じゃあ今日は優しいレオナルド君には特別に大浴場は無料にしてあげるわ」

「お、ありがとう」

「だーよくじょーか……おれ、たのしみだ」

そういえばこの世界に来てからお風呂というものに入ったことがなかった。
水の精霊さん達に頼めば一瞬でキレイにすることができたから、すっかり忘れていた。
あの浸かったときの気持ちよさといったらまるで天国にいるようだからな……それでも子供の頃はお風呂を嫌がっていたなんて、俺も年をとったものだよ。

「その前に食事だ」

レオンは俺の手を繋いで机の方を指差すと、容赦なくスタスタ歩きはじめた。
少し速く歩きながら机の方に向かうと、机の上にメニュー表らしきものが置いてあった。

「贅沢はできないからな。値段の安いメニューで我慢しろよ」


ふむふむ…………なんだこれは!!
安いものから見ていくと、ベア肉の煮物、小麦の粥にミルクのセットが最安値なのだが俺の知らない料理ばかりだったので必殺技を使うことにした。
そう。最近活躍していなかったグリモアさんが再び脚光を浴びることになったのである。

俺はメニュー表の横にグリさんをドンッと乗せると、ページを開いてどんな料理か調べてみた。


【ベアの煮物】

C級魔物のベアを材料として作られた煮物。
臭みが強く長時間煮込むことにより臭さを抑え、塩胡椒とソースで味付けしたもの。
出汁があまりとれないため味は普通であり、一般料理としてよく作られる。


【小麦の粥】

小麦から作られた粥。食感、味は薄く旨さはあまり感じられないため、ミルクを入れて食べることが多い。



………ま、まあ、グリさんがそう言ってるだけだし……ほら、百聞は一見にしかずと言うからな。

「ベアのにもの、みせてくれないか?」

「あら?ベアの煮物なんて珍しくもなんともないけど……どうしたの?」

俺が料理を見せてくれと言うと、宿のお姉さんは不思議そうに首を傾げた。

「ほ、ほら、おれ、ここにきたばかりだから、ここのりょーりみたことないんだ」

「……?別にここだけじゃなくても大して珍しくもないけれど……もしかして、箱入り育ちなのかしら?あ、ほら。あれがベアの煮物よ。ちょうど出来上がったところね」

ちょうどお姉さんが指差した方向には、湯気がたった木製のお皿が運ばれてきていた。
俺はシュタッと椅子から降りると、一目散に煮物に駆け寄りお皿を覗き込んだ。


………こりゃ駄目だ。

見た目はいいが、匂いが胡椒のかけ過ぎで少しキツいのと、あと出汁特有の汁じゃない。
あの濁った感じがしないから、おそらく味もその通りなんだろう。
これはここの料理が駄目なのか、はたまた異世界の料理レベルがまだこのくらいなのか……。
とにかく、ここは潔く辞退したほうが良さそうだ。

「どうしたの?さっきからベアの煮物をじっと見てるけど、もしかして欲しいの?」

「……いや、おれはおとなだから、ひとさまのりょーりはよこどりしない。ぞんぶんにしょくじをたのしむんだぞ」

俺はフッと格好良く髪をかきあげてレオンの方にササッと戻ると、レオンからメニュー表を取り上げてバシッと手を掴んだ。
そしてバッとお姉さんの方を振り向くと、両腕を上げてビシッとお願いをする。

「ここのちゅーぼーをかしてくれ、おれ、じぶんでりょーりする」


決まった。
大人の基本である45度のお辞儀とハキハキした声、そしてビシッとした姿勢に表情。これはもう欠点の付け所がなく完璧なお願いの仕方…。これで断られるなんてことは天地がひっくり返ってもありえないのだ。

「えーっと……まだ子供なのに料理をさせるなんて危なすぎて駄目よ。それに今は夕食の時間だから、別館のキッチンしか使えないけど、あそこ埃がすごいから多分無理よ」

………これだから見た目というやつは!!
いくら礼儀正しい姿を見せてもこの少しばかりちっさなボディというだけで拒否されたではないではないか!!
誰だ、『人は見た目じゃなくて中身だ大事なのよ』って言ったやつは!!嘘つきじゃないか!!
やはり見た目八割、中身が二割。これが現実なのか。

「じゃーおれ、べっかんのキッチンつかう。それならいーでしょ?もしつかえないならあきらめるから!!」

「えー、でも……」

「おねがいっ!!」

俺は両手を組んでお姉さんをじっと見つめお願いすると、何故かたじろいでお姉さんは渋々と許可を出してくれた。

「まあ、いいわ。でも、『別館のキッチンが使えたら』よ。もし使えなかったら諦めなさいね」

「あ、ありがとー!!」


勝利は俺の手に!!ついにキッチンの権利を獲得したぞ!!
俺は嬉しさでピョンピョン飛び跳ねていると、レオンに後ろからグイッと襟首を掴まれた。

「なーにさっきから好き放題やってるんだ馬鹿。大体なんで突然キッチンを借りるなんて言い出したんだよ。まさか自炊するって言うんじゃないだろうな」

……ん?

「そーだけど、なに?」

俺は意味がわからないと顔をかしげると、あからさまに大きなため息をついたレオンが俺の手を引いて宿から出た。


「……ほら、どうせお前のことだから言っても聞かないんだろ。ここが別館のキッチンだ」

なにかを諦めたような表情で別館に案内してくれたレオンは、グーグー鳴るお腹を押さえながら壁に寄りかかった。
そして肝心の別館には何年も掃除していないようで、蜘蛛の巣や埃がえげつない。

「ほら、分かったか?ここで料理しようだなんて正気の沙汰じゃないだろ。分かったら大人しく戻る……お前、なにやってんだ?」

「このキッチン、ばっちいからな。おれがキレーにしようとおもって」


俺は指をキッチンに向けると、食事をかけた本気の掃除を始めた。


「ウォーターハント!!」


ダイキの制限なしの魔法は、一つの部屋にはとどまるわけがない。
突如別館がまさかの中級魔法に生み出された水により包まれたのだった。


----------------

いつも読んでくださりありがとうございます!
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

扇風機を持って異世界転移!? もふもふ達と共に俺は扇風機を操りこの世界を生き延びる!!

ありぽん☆書籍発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く青年、風間涼(かざまりょう)は。ある深夜残業の帰り道、謎の魔法陣に巻き込まれ、異世界へと転移してしまう。 気がつけばそこは、木々が生い茂る森の中。しかも手元にあったのは、なぜか愛用の扇風機だけで。 状況が飲み込めないまま森をさまよっていると、森で暮らす男性に助けられ、ひとまず世話になることに。やがてこの世界が 剣と魔法の世界 だと知り、ワクワク、ドキドキしながら、自身の能力を調べるが……。 「剣の才能なし! 魔法の才能もなし!」 まさかの判定に、ショックを受ける涼。しかし、涼はまだこの時、気づいていなかった。改めて自分のステータスを確認すると、そこには『扇風機』の文字が。そしてこの異世界には存在しない 扇風機を使いこなすことで、涼は思わぬ活躍を見せ始める。 涼むだけではなく、敵の攻撃を吹き飛ばし、逆に攻撃し、さらには飛行まで!? 他にも様々な力を発揮する扇風機。 そんなある日、彼はもふもふでふわふわな、シルフという名の魔獣と出会う。扇風機の風に興味津々なシルフ。だがこのシルフ、可愛いだけの魔獣だと思っていたが、実は風の精霊王だった!? 「もっと風を送って! う〜ん、気持ちいい~!」 「いや、お前、風の精霊王だろ!?」 こうしてもふもふの相棒と共に、扇風機で異世界を生き延びることになった涼。果たして彼は異世界で、快適な風を送りつつ、スローライフな生活を送ることができるのか!?

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

Age43の異世界生活…おじさんなのでほのぼの暮します

夏田スイカ
ファンタジー
異世界に転生した一方で、何故かおじさんのままだった主人公・沢村英司が、薬師となって様々な人助けをする物語です。 この説明をご覧になった読者の方は、是非一読お願いします。 ※更新スパンは週1~2話程度を予定しております。

異世界でチート無双! いやいや神の使いのミスによる、僕の相棒もふもふの成長物語

ありぽん☆書籍発売中
ファンタジー
ある異世界で生きるアーベル。アーベルにはある秘密があった。何故か彼は地球での記憶をそのままに転生していたのだ。 彼の地球での一生は、仕事ばかりで家族を顧みず、そのせいで彼の周りからは人が離れていき。最後は1人きりで寿命を終えるという寂しいもので。 そのため新たな人生は、家族のために生きようと誓い、そしてできるならばまったりと暮らしたいと思っていた。   そんなマーベルは5歳の誕生日を迎え、神からの贈り物を授かるために教会へ。しかし同じ歳の子供達が、さまざまな素晴らしい力を授かる中、何故かアーベルが授かった力はあまりにも弱く。 だがアーベルはまったく気にならなかった。何故なら授かった力は、彼にとっては素晴らしい物だったからだ。 その力を使い、家族にもふもふ魔獣達を迎え、充実した生活を送っていたアーベル。 しかし変化の時は突然訪れた。そしてその変化により、彼ともふもふ魔獣達の理想としている生活から徐々に離れ始め? これはアーベルの成長物語、いやいや彼のもふもふ達の成長物語である。

転生獣医師、テイマースキルが覚醒したので戦わずしてモンスターを仲間にして世界平和を目指します

burazu
ファンタジー
子供の頃より動物が好きで動物に好かれる性質を持つ獣医師西田浩司は過労がたたり命を落とし異世界で新たにボールト王国クッキ領主の嫡男ニック・テリナンとして性を受ける。 ボールト王国は近隣諸国との緊張状態、そしてモンスターの脅威にさらされるがニックはテイマースキルが覚醒しモンスターの凶暴性を打ち消し難を逃れる。 モンスターの凶暴性を打ち消せるスキルを活かしつつ近隣諸国との緊張を緩和する為にニックはモンスターと人間両方の仲間と共に奮闘する。 この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも連載しています。

処理中です...