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第2章︙魔法都市編
宿でのハプニング
しおりを挟む「あら、お帰りなさい!!冒険者ギルドでの用事は済ませた?今日は温かいスープが………あら?もう一人可愛いのがいるじゃないの。どうしたの?」
可愛いの?
俺はキョロキョロ周りを見渡しても見当たらないので、意味がわからなくて首を傾げた。
……もしかして、遠回しに自分のことを可愛いって言ってるのか?変わった人だなー。
「こいつはダイキ。何故か道のところで寝てたんだよ。それでなんだかんだあって部屋を一晩貸すことになった」
「おれはダイキ。ぼーけんしゃになったおとこだ。よろしくたのむ」
「………変わった子供ね」
変わり者扱いされてしまった。
確かにさっきの挨拶は子供がするような挨拶にしてはレベルが高かったのかもしれない。
俺の精神年齢が大人なことに薄々気がついているなんて、中々見る目があるな。
「じゃあ今日は優しいレオナルド君には特別に大浴場は無料にしてあげるわ」
「お、ありがとう」
「だーよくじょーか……おれ、たのしみだ」
そういえばこの世界に来てからお風呂というものに入ったことがなかった。
水の精霊さん達に頼めば一瞬でキレイにすることができたから、すっかり忘れていた。
あの浸かったときの気持ちよさといったらまるで天国にいるようだからな……それでも子供の頃はお風呂を嫌がっていたなんて、俺も年をとったものだよ。
「その前に食事だ」
レオンは俺の手を繋いで机の方を指差すと、容赦なくスタスタ歩きはじめた。
少し速く歩きながら机の方に向かうと、机の上にメニュー表らしきものが置いてあった。
「贅沢はできないからな。値段の安いメニューで我慢しろよ」
ふむふむ…………なんだこれは!!
安いものから見ていくと、ベア肉の煮物、小麦の粥にミルクのセットが最安値なのだが俺の知らない料理ばかりだったので必殺技を使うことにした。
そう。最近活躍していなかったグリモアさんが再び脚光を浴びることになったのである。
俺はメニュー表の横にグリさんをドンッと乗せると、ページを開いてどんな料理か調べてみた。
【ベアの煮物】
C級魔物のベアを材料として作られた煮物。
臭みが強く長時間煮込むことにより臭さを抑え、塩胡椒とソースで味付けしたもの。
出汁があまりとれないため味は普通であり、一般料理としてよく作られる。
【小麦の粥】
小麦から作られた粥。食感、味は薄く旨さはあまり感じられないため、ミルクを入れて食べることが多い。
………ま、まあ、グリさんがそう言ってるだけだし……ほら、百聞は一見にしかずと言うからな。
「ベアのにもの、みせてくれないか?」
「あら?ベアの煮物なんて珍しくもなんともないけど……どうしたの?」
俺が料理を見せてくれと言うと、宿のお姉さんは不思議そうに首を傾げた。
「ほ、ほら、おれ、ここにきたばかりだから、ここのりょーりみたことないんだ」
「……?別にここだけじゃなくても大して珍しくもないけれど……もしかして、箱入り育ちなのかしら?あ、ほら。あれがベアの煮物よ。ちょうど出来上がったところね」
ちょうどお姉さんが指差した方向には、湯気がたった木製のお皿が運ばれてきていた。
俺はシュタッと椅子から降りると、一目散に煮物に駆け寄りお皿を覗き込んだ。
………こりゃ駄目だ。
見た目はいいが、匂いが胡椒のかけ過ぎで少しキツいのと、あと出汁特有の汁じゃない。
あの濁った感じがしないから、おそらく味もその通りなんだろう。
これはここの料理が駄目なのか、はたまた異世界の料理レベルがまだこのくらいなのか……。
とにかく、ここは潔く辞退したほうが良さそうだ。
「どうしたの?さっきからベアの煮物をじっと見てるけど、もしかして欲しいの?」
「……いや、おれはおとなだから、ひとさまのりょーりはよこどりしない。ぞんぶんにしょくじをたのしむんだぞ」
俺はフッと格好良く髪をかきあげてレオンの方にササッと戻ると、レオンからメニュー表を取り上げてバシッと手を掴んだ。
そしてバッとお姉さんの方を振り向くと、両腕を上げてビシッとお願いをする。
「ここのちゅーぼーをかしてくれ、おれ、じぶんでりょーりする」
決まった。
大人の基本である45度のお辞儀とハキハキした声、そしてビシッとした姿勢に表情。これはもう欠点の付け所がなく完璧なお願いの仕方…。これで断られるなんてことは天地がひっくり返ってもありえないのだ。
「えーっと……まだ子供なのに料理をさせるなんて危なすぎて駄目よ。それに今は夕食の時間だから、別館のキッチンしか使えないけど、あそこ埃がすごいから多分無理よ」
………これだから見た目というやつは!!
いくら礼儀正しい姿を見せてもこの少しばかりちっさなボディというだけで拒否されたではないではないか!!
誰だ、『人は見た目じゃなくて中身だ大事なのよ』って言ったやつは!!嘘つきじゃないか!!
やはり見た目八割、中身が二割。これが現実なのか。
「じゃーおれ、べっかんのキッチンつかう。それならいーでしょ?もしつかえないならあきらめるから!!」
「えー、でも……」
「おねがいっ!!」
俺は両手を組んでお姉さんをじっと見つめお願いすると、何故かたじろいでお姉さんは渋々と許可を出してくれた。
「まあ、いいわ。でも、『別館のキッチンが使えたら』よ。もし使えなかったら諦めなさいね」
「あ、ありがとー!!」
勝利は俺の手に!!ついにキッチンの権利を獲得したぞ!!
俺は嬉しさでピョンピョン飛び跳ねていると、レオンに後ろからグイッと襟首を掴まれた。
「なーにさっきから好き放題やってるんだ馬鹿。大体なんで突然キッチンを借りるなんて言い出したんだよ。まさか自炊するって言うんじゃないだろうな」
……ん?
「そーだけど、なに?」
俺は意味がわからないと顔をかしげると、あからさまに大きなため息をついたレオンが俺の手を引いて宿から出た。
「……ほら、どうせお前のことだから言っても聞かないんだろ。ここが別館のキッチンだ」
なにかを諦めたような表情で別館に案内してくれたレオンは、グーグー鳴るお腹を押さえながら壁に寄りかかった。
そして肝心の別館には何年も掃除していないようで、蜘蛛の巣や埃がえげつない。
「ほら、分かったか?ここで料理しようだなんて正気の沙汰じゃないだろ。分かったら大人しく戻る……お前、なにやってんだ?」
「このキッチン、ばっちいからな。おれがキレーにしようとおもって」
俺は指をキッチンに向けると、食事をかけた本気の掃除を始めた。
「ウォーターハント!!」
ダイキの制限なしの魔法は、一つの部屋にはとどまるわけがない。
突如別館がまさかの中級魔法に生み出された水により包まれたのだった。
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