30 / 32
第2章︙モスタニア連合国編
総ギルド戦10
しおりを挟むウルクがものすごい速さでアリスに近づき剣を振るう。
しかし、アリスはそれを二本のナイフで受け止め、そして受け流しいなしていく。
周りの人達をシュノとヒュノが抑え込んでいるこの現状で、互いの力は拮抗していた。
ウルクは素早さに重きを置いた剣術を主流にして戦っているため、更に素早さで上回るアリスとはことごとく相性が悪かった。
それでも実力が拮抗しているのは、ひとえにウルクの経験値によるアドバンテージがあるからこそ。
キルケをシア達が倒し、ミルスギルドの団員たちはトールギルドの圧力により降伏を宣言。そしてトールギルドの団長であるオーディーンも退場した今、アリス達がこの戦いに打ち勝てば勝率は大幅に上がるのだ。
もともと実力派揃いのギルドなので、三大ギルド以外はさほど脅威でもない。
今年のギルド戦では、何故か和国ギルドが降伏を突然宣言したことにより早く退場し、三大ギルドと交戦する直前、手を組もうと提案してきたギルドが仮に襲ってきたとしても、アロとセイズで時間稼ぎくらいはできるだろう。
あとは他の団員が回復するのを待てば勝利は目前にあるのだ。
つまり、この戦いでシア達のギルドの勝敗が決まると言っても過言ではなかった。
「えいっ」
そんな可愛らしい掛け声とは裏腹に、物凄い速度でウルクの目の前に鋭利に研ぎ澄まされたナイフが迫ってくる。
「ふんっ……単純すぎる」
しかし、すでにナイフの動きをよんでいたウルクは楽々とは言わずとも、しっかりと受け止めていた。
(このままじゃジリ貧になる。体力的に先に私が倒れるはずだから、なんとかしないと。それにシュノとヒュノもこの精鋭人数をずっと相手するのは難しいはず)
少しずつアリスの攻撃速度が増していく。
ウルクも慎重にアリスの動きを見て攻撃を防いでいく。
ついに焦れたのかアリスの攻撃が段々と荒っぽくなっていった。
速度は増すが、単調な攻撃。
戦闘経験の豊富なウルクが防ぐことは容易だった。
「っ…………あ!?」
ついに足元を引っ掛けられ倒れたアリスの隙を逃さず、ウルクは剣を突きつけた。
「詰みだな」
首先に剣を突きつけられている今、少しでも動いたらその瞬間にアリスは戦闘不能になる。
魔法については知識がからっきしなアリスはウルクの剣から逃げることは出来なかった。
「………私の負けね。認めるわ。今の私はあんたには敵わない」
遂にアリス本人の言葉から負けを認める声が漏れる。ウルクはその言葉にかすかに違和感と、そして大きな優越感を感じていた。
「私には経験が足りない。ああ、本当に足りないわ。あんたに勝つことができなくて当然よ」
最早ここまで来ると優越感より違和感を感じていた。
あの「負けず嫌い」の代名詞であるアリスが自分を下だと認めるような発言を言う、それも何回も連発するなんて天地がひっくり返ってもありえないことなのだ。
………あまりにも怪しすぎる。
ウルクがアリスへの警戒を強めるも、それを全く気にせずに一人で喋り続けているアリス。
「おい。もう喋んじゃねぇ」
「なんで?あなたに指図される覚えはないのだけれど。それにしても……まだまだね」
「……は、なに言ってやがる」
ポツリと呟いたその言葉に、どうしても嫌な予感がしたウルクは動揺を隠しながらもどうしようもないなにかに焦りを募らせる。
「私はあんたには勝てない。これはどうしようもない事実。現に私は負けているしね」
「………。」
「でも、これは私とあんたの勝負の話」
「闇の庭園」
目の前が暗闇に包まれる。ヒュノの魔法によりウルク達と形勢が逆転した。
ダークは、相手の視野を奪い戦況を有利にたたせる魔法である。しかし、広範囲による魔法の発動による激しい魔力消費、視野を奪うことしかできない魔法。
本来は悪手としかいえない魔法だが、ヒュノの魔法は少し違う。
「………自分は、闇属性しか適性がないから。だから、頑張って改良したよ」
ヒュノは闇属性の魔法しか使えない。魔力の属性が闇しかないのが主な理由だ。しかし、逆にヒュノは生まれたときから闇属性しかなく、闇属性だけを扱うことで、普通の人達より何倍もの闇魔法の扱いが突出していた。
何よりヒュノは【喰らい子】である。魔力は十分にあった。
「……この魔法も、皮肉なことに、メディアの魔法の解析のお陰でできた、偶然の産物だけどね」
ヒュノのダークは視覚の阻害に加え、嗅覚、聴覚、そして魔力感知の完全阻害に成功していた。
精神ごといじるメディアの魔法とまではいかないが、余程の強者出ない限り十分すぎるほどに効果を発揮するヒュノの魔法により、ウルク達は完封されたのだった。
「ヒュノにしてはやるじゃない。姉として褒めてあげるわ。それにしても結構えげつない魔法を作ったわね」
「そうっすよ。なんすか、もうある意味精神をじわじわと追い詰めていく魔法っすよこれ。ヤバいっす」
「………相手は三大ギルド。仕方がない」
確かにとウンウン頷いている3人に遠くから誰かがやってくる。
「おーい!お前等!大丈夫かー!」
「大丈夫ですか?ああ、無事なんとかなったようですね。良かったです」
「団長!それにアロにセイズも無事だったか!……シアと副団長は大丈夫なの?」
「意識を失っているだけだ。もうすぐ目を覚ますだろう。俺たちの勝ちだ」
シア達は意識を失い、団長とアリスたちはボロボロの状態。しかし、彼らは最後までしっかりと立っていた。
「なんと!!今年の総ギルド戦優勝者は……!!」
総ギルド戦。シア達の勝利で幕を閉じた。
----------------
あと1話で中級冒険者編は一旦これで終わります。
次は神の試練編、そして待ちに待ったあの王子が登場します。
楽しみにしてくれると嬉しいです。
あと、グリさんも重要人物になる……かも?
楽しみにしてくれると嬉しいです。
いつも読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
421
お気に入りに追加
2,482
あなたにおすすめの小説
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。


【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる