公爵令嬢のRe.START

鮨海

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第2章︙モスタニア連合国編

総ギルド戦10

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ウルクがものすごい速さでアリスに近づき剣を振るう。
しかし、アリスはそれを二本のナイフで受け止め、そして受け流しいなしていく。

周りの人達をシュノとヒュノが抑え込んでいるこの現状で、互いの力は拮抗していた。
ウルクは素早さに重きを置いた剣術を主流にして戦っているため、更に素早さで上回るアリスとはことごとく相性が悪かった。
それでも実力が拮抗しているのは、ひとえにウルクの経験値によるアドバンテージがあるからこそ。

キルケをシア達が倒し、ミルスギルドの団員たちはトールギルドの圧力により降伏を宣言。そしてトールギルドの団長であるオーディーンも退場した今、アリス達がこの戦いに打ち勝てば勝率は大幅に上がるのだ。
もともと実力派揃いのギルドなので、三大ギルド以外はさほど脅威でもない。

今年のギルド戦では、何故か和国ギルドが降伏を突然宣言したことにより早く退場し、三大ギルドと交戦する直前、手を組もうと提案してきたギルドが仮に襲ってきたとしても、アロとセイズで時間稼ぎくらいはできるだろう。
あとは他の団員が回復するのを待てば勝利は目前にあるのだ。


つまり、この戦いでシア達のギルドの勝敗が決まると言っても過言ではなかった。


「えいっ」


そんな可愛らしい掛け声とは裏腹に、物凄い速度でウルクの目の前に鋭利に研ぎ澄まされたナイフが迫ってくる。

「ふんっ……単純すぎる」

しかし、すでにナイフの動きをよんでいたウルクは楽々とは言わずとも、しっかりと受け止めていた。

(このままじゃジリ貧になる。体力的に先に私が倒れるはずだから、なんとかしないと。それにシュノとヒュノもこの精鋭人数をずっと相手するのは難しいはず)


少しずつアリスの攻撃速度が増していく。
ウルクも慎重にアリスの動きを見て攻撃を防いでいく。
ついに焦れたのかアリスの攻撃が段々と荒っぽくなっていった。
速度は増すが、単調な攻撃。
戦闘経験の豊富なウルクが防ぐことは容易だった。


「っ…………あ!?」

ついに足元を引っ掛けられ倒れたアリスの隙を逃さず、ウルクは剣を突きつけた。

「詰みだな」


首先に剣を突きつけられている今、少しでも動いたらその瞬間にアリスは戦闘不能になる。
魔法については知識がからっきしなアリスはウルクの剣から逃げることは出来なかった。

「………私の負けね。認めるわ。今の私はあんたには敵わない」

遂にアリス本人の言葉から負けを認める声が漏れる。ウルクはその言葉にかすかに違和感と、そして大きな優越感を感じていた。

「私には経験が足りない。ああ、本当に足りないわ。あんたに勝つことができなくて当然よ」


最早ここまで来ると優越感より違和感を感じていた。
あの「負けず嫌い」の代名詞であるアリスが自分を下だと認めるような発言を言う、それも何回も連発するなんて天地がひっくり返ってもありえないことなのだ。
………あまりにも怪しすぎる。


ウルクがアリスへの警戒を強めるも、それを全く気にせずに一人で喋り続けているアリス。


「おい。もう喋んじゃねぇ」

「なんで?あなたに指図される覚えはないのだけれど。それにしても……

「……は、なに言ってやがる」


ポツリと呟いたその言葉に、どうしても嫌な予感がしたウルクは動揺を隠しながらもどうしようもないに焦りを募らせる。



「私はあんたには勝てない。これはどうしようもない事実。現に私は負けているしね」

「………。」

「でも、これは



闇の庭園ダーク


目の前が暗闇に包まれる。ヒュノの魔法によりウルク達と形勢が逆転した。

ダークは、相手の視野を奪い戦況を有利にたたせる魔法である。しかし、広範囲による魔法の発動による激しい魔力消費、視野を奪うことしかできない魔法。
本来は悪手としかいえない魔法だが、ヒュノの魔法は少し違う。

「………自分は、闇属性しか適性がないから。だから、


ヒュノは闇属性の魔法しか使えない。魔力の属性が闇しかないのが主な理由だ。しかし、逆にヒュノは生まれたときから闇属性しかなく、闇属性だけを扱うことで、普通の人達より何倍もの闇魔法の扱いが突出していた。
何よりヒュノは【喰らい子】である。魔力は十分にあった。

「……この魔法も、皮肉なことに、メディアの魔法の解析シアの治療のお陰でできた、偶然の産物だけどね」


ヒュノのダークは視覚の阻害に加え、嗅覚、聴覚、そして魔力感知の完全阻害に成功していた。
精神ごといじるメディアの魔法とまではいかないが、余程の強者出ない限り十分すぎるほどに効果を発揮するヒュノの魔法により、ウルク達は完封されたのだった。


「ヒュノにしてはやるじゃない。姉として褒めてあげるわ。それにしても結構えげつない魔法を作ったわね」

「そうっすよ。なんすか、もうある意味精神をじわじわと追い詰めていく魔法っすよこれ。ヤバいっす」

「………相手は三大ギルド。仕方がない」

確かにとウンウン頷いている3人に遠くから誰かがやってくる。


「おーい!お前等!大丈夫かー!」

「大丈夫ですか?ああ、無事なんとかなったようですね。良かったです」


「団長!それにアロにセイズも無事だったか!……シアと副団長は大丈夫なの?」

「意識を失っているだけだ。もうすぐ目を覚ますだろう。俺たちの勝ちだ」

シア達は意識を失い、団長とアリスたちはボロボロの状態。しかし、彼らは最後までしっかりと立っていた。

「なんと!!今年の総ギルド戦優勝者は……!!」


総ギルド戦。シア達の勝利で幕を閉じた。


----------------

あと1話で中級冒険者編は一旦これで終わります。
次は神の試練編、そして待ちに待ったあの王子が登場します。
楽しみにしてくれると嬉しいです。
あと、グリさんも重要人物になる……かも?

楽しみにしてくれると嬉しいです。
いつも読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
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