公爵令嬢のRe.START

鮨海

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第2章︙モスタニア連合国編

最下層

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すみません。更新が遅くなりました。楽しんで読んでいただけると嬉しいです。

…………………………………………………………

ダンジョン28日目。私達はついに【楽園】の最下層に到着した。

「いい?最下層のボスはメディアという人型魔物よ。魔法の扱いに優れていて、特に闇属性の魔法が厄介なの。幻覚とかの精神攻撃をされるから、必ず光属性の魔法で身を包んで自分の身を守りなさい。」

最後の扉を前にして、サリアス副団長が少し緊張した様子で私に助言をしてくれる。
……それに、あのサリアス副団長が緊張しているなんて、余程厄介な魔物なのだろう。

「……頑張りますね」

サリアス副団長の様子を見て自信をなくしていった私は、小さな声で返事を返した。

「じゃあ、準備は良い?」

サリアス副団長が扉を開けると、中は真っ暗でなにも見えない状態で不気味な雰囲気を醸し出している。

「ライト」

私は下級魔法であるライトを唱えあたりを照らすと、繊細な模様が施されていた絨毯が見える。

「ッ……ホーリーシールド!」

私が奥の方を照らし出した直後、膨大な魔力の塊が私の方に向かって来ている事に気づいた。
私は間一髪で光属性の中級魔法であるホーリーシールドを全身に張り巡らし、攻撃を逃れる。

(このままじゃ不味い。相手の位置を把握できないから袋叩きにされるわね)

このままだと押されることに気づいた私は、私は少し危険な方法を使うことにした。

「フレイムフィールド」

広範囲殲滅魔法、炎の領域の発動。
通常、この魔法はとても使いづらく、本当に限られた場所でしか使えないため私も一応取得しといただけの魔法だった。
お陰で全然調節ができないけれど今回の場合、私は最小限の魔力で発動したため、床から数センチの炎しか出なかった。

私の視線の向こうでメディアが私を嘲笑うように見つめている。
そう、メディアが私を見ていたのだ。


見つけた。


全身に光の盾を展開している私は炎の影響を受けない。フレイムフィールドで部屋全体が明るくなり、メディアがいる場所を把握した私の勝ちは決まりも同然だった。


「フレイムランス」

それから私はメディアを袋叩きにし、完全勝利する筈だった。
私は最後の戦いで……油断していたのだ。

「シアっ………!」

息絶える寸前、メディアが渾身の魔力を込めた闇魔法が私の光の盾を貫いた。



「………ここは?」

私は気づくと真っ白な空間に一人突っ立っていた。
空も地面も壁もなく、一面真っ白な世界が広がっている。

「そうだ。私、メディアと戦っていて……」

もしかしてここは幻想なのかと気づいた私は、光属性魔法を発動しようとした。

……できない。

発動ができない。そもそも魔力を見つけることさえできない。
どうやらそう簡単にはここから出してくれないらしい。

『契約者』

聞き慣れた声に私はガバリと振り向くと、腰まである髪を一つにまとめた男の人のが私に手を降っている。
顔の造形が恐ろしいほどに整ったその男は、私にガバリと抱き着いてきた。

『やっと会えた!契約者とは今まで仮の姿でしか会えなかったから嬉しいよ!ここは精神世界だからね。私の本当の姿を出すことが出来たよ』

どうやらこの姿が本当の姿らしい。物凄く美男だったことに驚愕した私は、グリモワールを呆然と見つめていた。

『まずはここから出る方法を考えないとね』

……そうだった。ここから早く出ないと。
私はこの世界から出る方法を模索し始めたけれど全くと行っていいほど思い浮かばない。

「どうしたら良いのかしら…」

私は完全にお手上げの状態で落ち込んでいると、グリモワールが私に変なことを言い出した。

『うーん……契約者は魔法が使えない状態だから、正直殆ど何もできないんだよね。だから、その【眼】を使えるようになればここから出れるかもしれない。てゆうかこれしか方法がないね。』

「目?私の目がどうかしたのですか?」

『なんてゆうか……君は色々な才能があるんだけど、その中でも、視る人が視ればハッキリと分かるのが、その【眼】。まるで何もかも見通せるようなそれに賭けるしかないよ。
それに、私が見てきた中で、今までメディアの魔法から逃れられた逸材は過去2人しか知らないよ。』

そうなのか。目が何なのかよく分からないが、どうやら私の頼みの綱はこれしかないようだ。

「分かりましたわ。他に方法がないのならやるしかないでしょう。」

私がグリモワールに向ってそう答えると、彼は私の頭に手を置いて魔法を発動した。

『契約者。今から魔法解析を始めるよ。さすがの私にも全てを解析するのは時間がかかるから、発動のトリガーとなる最小限の解析に留める。動かないでね。』

そう早口に言ったグリモワールは私の頭に手をおいたまま目を閉じて、微動だにしなくなった。
辺りを静寂が支配するなか、どれくらい時間が経過したのかもわからない。私がもう耐えられないと思い始めた頃に、やっと終わったのかグリモワールが目を開けた。


『ふぅー。久しぶりに手強くて予想より時間を食ったな。発動条件を解析するだけで一週間もかかったよ』

……一週間?

あり得ない。私が体感で感じたのは数時間かそこらだ。
そんなに時間が経っているはず……

『契約者。君が意識を失ってからもうすぐ2週間だ。そろそろ身体も限界に近づいてきている。早く意識を取り戻さないと不味いよ。』

グリモワールの珍しく真剣とした声音に、私は黙り込んだ。


「……もう戻れるのですか?」

『一応君の【眼】の力を一時的に引き出すことはできるけれど、それがここから出れるとは限らないから何も言えないな。とにかく、やってみないと分からないよ』


「では、早くやりましょう。私もこんなところにいるのはいい加減うんざりしてきましたよ」

私が明るい声でそう言うと、さっきまで少し不安そうな顔をしていたグリモワールも笑いながら、魔法陣を描き出していく。


『ポラリス』

次の瞬間、私の世界が変わった。
正確に言うと、時が遅くなっているように感じる。
私だけが早く動けるわけでもないため、実際に時間が遅くなっているわけではないのだろう。

「つまり、そう視えているのですね」

私があたりを見渡していると、細い光の帯のようなものが、私の手から真っ直ぐと何処かに続いていた。
私はゆっくりとした動作で動き出すと、光の帯が私の中に入っていく。
段々と時間をかけて進み、ついに終わりが見えてきた。

私の前にはなんの変哲もないただの扉。
まるでここがゴールだとは思えないほど質素な作りをした扉に私は手をかける。

扉を開くと、視界一面に閃光が走り、私は眩しくて目をつぶった。





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