18 / 32
第2章︙モスタニア連合国編
最下層
しおりを挟むすみません。更新が遅くなりました。楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
…………………………………………………………
ダンジョン28日目。私達はついに【楽園】の最下層に到着した。
「いい?最下層のボスはメディアという人型魔物よ。魔法の扱いに優れていて、特に闇属性の魔法が厄介なの。幻覚とかの精神攻撃をされるから、必ず光属性の魔法で身を包んで自分の身を守りなさい。」
最後の扉を前にして、サリアス副団長が少し緊張した様子で私に助言をしてくれる。
……それに、あのサリアス副団長が緊張しているなんて、余程厄介な魔物なのだろう。
「……頑張りますね」
サリアス副団長の様子を見て自信をなくしていった私は、小さな声で返事を返した。
「じゃあ、準備は良い?」
サリアス副団長が扉を開けると、中は真っ暗でなにも見えない状態で不気味な雰囲気を醸し出している。
「ライト」
私は下級魔法であるライトを唱えあたりを照らすと、繊細な模様が施されていた絨毯が見える。
「ッ……ホーリーシールド!」
私が奥の方を照らし出した直後、膨大な魔力の塊が私の方に向かって来ている事に気づいた。
私は間一髪で光属性の中級魔法であるホーリーシールドを全身に張り巡らし、攻撃を逃れる。
(このままじゃ不味い。相手の位置を把握できないから袋叩きにされるわね)
このままだと押されることに気づいた私は、私は少し危険な方法を使うことにした。
「フレイムフィールド」
広範囲殲滅魔法、炎の領域の発動。
通常、この魔法はとても使いづらく、本当に限られた場所でしか使えないため私も一応取得しといただけの魔法だった。
お陰で全然調節ができないけれど今回の場合、私は最小限の魔力で発動したため、床から数センチの炎しか出なかった。
私の視線の向こうでメディアが私を嘲笑うように見つめている。
そう、メディアが私を見ていたのだ。
見つけた。
全身に光の盾を展開している私は炎の影響を受けない。フレイムフィールドで部屋全体が明るくなり、メディアがいる場所を把握した私の勝ちは決まりも同然だった。
「フレイムランス」
それから私はメディアを袋叩きにし、完全勝利する筈だった。
私は最後の戦いで……油断していたのだ。
「シアっ………!」
息絶える寸前、メディアが渾身の魔力を込めた闇魔法が私の光の盾を貫いた。
「………ここは?」
私は気づくと真っ白な空間に一人突っ立っていた。
空も地面も壁もなく、一面真っ白な世界が広がっている。
「そうだ。私、メディアと戦っていて……」
もしかしてここは幻想なのかと気づいた私は、光属性魔法を発動しようとした。
……できない。
発動ができない。そもそも魔力を見つけることさえできない。
どうやらそう簡単にはここから出してくれないらしい。
『契約者』
聞き慣れた声に私はガバリと振り向くと、腰まである髪を一つにまとめた男の人のが私に手を降っている。
顔の造形が恐ろしいほどに整ったその男は、私にガバリと抱き着いてきた。
『やっと会えた!契約者とは今まで仮の姿でしか会えなかったから嬉しいよ!ここは精神世界だからね。私の本当の姿を出すことが出来たよ』
どうやらこの姿が本当の姿らしい。物凄く美男だったことに驚愕した私は、グリモワールを呆然と見つめていた。
『まずはここから出る方法を考えないとね』
……そうだった。ここから早く出ないと。
私はこの世界から出る方法を模索し始めたけれど全くと行っていいほど思い浮かばない。
「どうしたら良いのかしら…」
私は完全にお手上げの状態で落ち込んでいると、グリモワールが私に変なことを言い出した。
『うーん……契約者は魔法が使えない状態だから、正直殆ど何もできないんだよね。だから、その【眼】を使えるようになればここから出れるかもしれない。てゆうかこれしか方法がないね。』
「目?私の目がどうかしたのですか?」
『なんてゆうか……君は色々な才能があるんだけど、その中でも、視る人が視ればハッキリと分かるのが、その【眼】。まるで何もかも見通せるようなそれに賭けるしかないよ。
それに、私が見てきた中で、今までメディアの魔法から逃れられた逸材は過去2人しか知らないよ。』
そうなのか。目が何なのかよく分からないが、どうやら私の頼みの綱はこれしかないようだ。
「分かりましたわ。他に方法がないのならやるしかないでしょう。」
私がグリモワールに向ってそう答えると、彼は私の頭に手を置いて魔法を発動した。
『契約者。今から魔法解析を始めるよ。さすがの私にも全てを解析するのは時間がかかるから、発動のトリガーとなる最小限の解析に留める。動かないでね。』
そう早口に言ったグリモワールは私の頭に手をおいたまま目を閉じて、微動だにしなくなった。
辺りを静寂が支配するなか、どれくらい時間が経過したのかもわからない。私がもう耐えられないと思い始めた頃に、やっと終わったのかグリモワールが目を開けた。
『ふぅー。久しぶりに手強くて予想より時間を食ったな。発動条件を解析するだけで一週間もかかったよ』
……一週間?
あり得ない。私が体感で感じたのは数時間かそこらだ。
そんなに時間が経っているはず……
『契約者。君が意識を失ってからもうすぐ2週間だ。そろそろ身体も限界に近づいてきている。早く意識を取り戻さないと不味いよ。』
グリモワールの珍しく真剣とした声音に、私は黙り込んだ。
「……もう戻れるのですか?」
『一応君の【眼】の力を一時的に引き出すことはできるけれど、それがここから出れるとは限らないから何も言えないな。とにかく、やってみないと分からないよ』
「では、早くやりましょう。私もこんなところにいるのはいい加減うんざりしてきましたよ」
私が明るい声でそう言うと、さっきまで少し不安そうな顔をしていたグリモワールも笑いながら、魔法陣を描き出していく。
『ポラリス』
次の瞬間、私の世界が変わった。
正確に言うと、時が遅くなっているように感じる。
私だけが早く動けるわけでもないため、実際に時間が遅くなっているわけではないのだろう。
「つまり、そう視えているのですね」
私があたりを見渡していると、細い光の帯のようなものが、私の手から真っ直ぐと何処かに続いていた。
私はゆっくりとした動作で動き出すと、光の帯が私の中に入っていく。
段々と時間をかけて進み、ついに終わりが見えてきた。
私の前にはなんの変哲もないただの扉。
まるでここがゴールだとは思えないほど質素な作りをした扉に私は手をかける。
扉を開くと、視界一面に閃光が走り、私は眩しくて目をつぶった。
816
お気に入りに追加
2,482
あなたにおすすめの小説
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。


【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
前世の記憶を取り戻したら貴男が好きじゃなくなりました
砂礫レキ
恋愛
公爵令嬢エミア・シュタイトは婚約者である第二王子アリオス・ルーンファクトを心から愛していた。
けれど幼い頃からの恋心をアリオスは手酷く否定し続ける。その度にエミアの心は傷つき自己嫌悪が深くなっていった。
そして婚約から十年経った時「お前は俺の子を産むだけの存在にしか過ぎない」とアリオスに言われエミアの自尊心は限界を迎える。
消えてしまいたいと強く願った彼女は己の人格と引き換えに前世の記憶を取り戻した。
救国の聖女「エミヤ」の記憶を。
表紙は三日月アルペジオ様からお借りしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる