公爵令嬢のRe.START

鮨海

文字の大きさ
上 下
11 / 32
間章︙第二王子の変化

とある王子の決意

しおりを挟む

「………まだフェリシアは見つからないのか」

フェリシアが姿を消してから数ヶ月が経った。
あの日から俺はボーッと1日を過ごすことが多くなり、これでは駄目だと聖女様の元へ行っけれど、俺の心は晴れず、結局毎日無気力に過ごしている。
……俺は聖女様のことが好きだった筈だ。


では何故フェリシアがいなくなっただけで俺は落ち込んでいる?


俺には聖女様がいる。近い未来婚約破棄する手筈だったフェリシアなんて、俺にはどうでもいい存在のはずなのに。
少し前まであんなに魅力的で素敵な人に見えていた聖女様の元へ段々と俺は行かなくなり、ひたすら業務を忙しくこなして、フェリシアのことをどうにか忘れようとして。


……結局俺は未だ立ち直れていなかった。


なにがこんなに俺の心を巣食うのか自分でも分からず、分かるのはフェリシアに原因があるというだけ。

そんなあるとき、フェリシアが行方不明になる直前、王妃様と会って話していたという噂を耳にした。
俺はすぐさま母上のところに行き、フェリシアとの噂は本当のことなのか問だたそうとしたけれど、俺がフェリシアについて話そうとしたら、王妃様は俺に厳しい顔をして話を遮った。

「貴方は婚約者という人がいながら聖女様にうつつを抜かしていたのよ。一夫多妻制はもう何百年も前の話。それなのに貴方は婚約者よりも聖女様を優先したのよ。私がなにかを知っていたとしても、貴方に話す必要はないわ。」

……確かにその通りだった。俺は聖女様にばかりかまけていて、フェリシアの存在を邪魔だと思っていたのは事実だ。

「ですが……!フェリシアと俺はまだ婚約者ですよ!フェリシアの行方が気になるのは当然ではないですか!」

今までフェリシアを粗雑に扱ってきたことから目を逸らし、婚約者という肩書きだけで俺はさもフェリシアを心配するのは当然かのように振る舞う。

「……フェリシアは貴方と婚約してから必死で努力してきたのよ。まだ齢が一桁の頃から貴族の先頭に立つために、5年先の礼儀作法を叩き込まれた。
それでもフェリシアは文句一つ言わずしっかりとこなしてくれたわ。それに親から離れる時間が多くて、どれだけ寂しい思いをしていたのか貴方には分からないかもね。」

母上は淋しげに、しかし俺には皮肉めいた様子で静かに言葉を発した。こんなことを言われたら苛つくはずなのに、俺は母上の言葉一つ一つ、そして言葉に乗せられた思いの重さに口を開くことができなかった。

「あれだけフェリシアが頑張ってくれたのも……ひとえに貴方のことが好きだったから。だから私達も懸命にフェリシアが立派なお嫁さんになれるように応援していたわ。
……………それなのに貴方は聖女様にばかり構ってフェリシアを放ったらかした。あの子の全てを貴方の行動が無駄にしたのよ。」

「…………。」

「あの夜久しぶりにフェリシアに会ったときは驚いたわ。とても疲弊した様子で俯いて………あれだけ毅然とした子が、今にも泣いてしまいそうに涙をこらえていた顔をしていたの。
その時に気づいた。私は間違っていたんだって。あの子も一人の人間だって。それで私はあの子を自由にする決意をしたわ。」

「っ…………やっぱり母上が手を貸していたんですね」

元々フェリシア一人で消えることは不可能だと思っていた俺は、やはり母上が一枚噛んでいたことに納得していた。


「……母上はフェリシアの居場所を知っているのですか?だったら……」

場所を教えてください、と言おうとした俺は、母上の言葉を聞いて驚愕した。

「私が知るはずもないわ。それに………仮に知っていたとしても、私は貴方に教える気はないわ。もう、あの子を傷つけるようなことにならない為にも。それに……ふふっ、貴方、フェリシアと婚約破棄する予定だったでしょ。今更フェリシアのことを気にするなんて………ふざけるのもいい加減にしなさい。」

母上が今までにないほど怒っているのが気配でわかる。俺にこんなに怒った様子を見せたのは生まれて初めてのことだ。
俺の無責任な行動がフェリシアの全てを失わせてしまったのだ。フェリシアのことを自分の子供のように大切に思っていた母上が怒るのも当然のことだった。

「もう後戻りはできないの。貴方がフェリシアにやったことは一生フェリシアの中に残るでしょう。貴方のその愚かな行動が自分の首を絞めることになったのよ。」

…………自分の首を絞める?

「何を言っているのですか……?俺は別に自分の首なんか………」

俺は困惑しながら口を開くと、母上は冷たく笑いながら俺を見つめる。

「あら?……もしかしてまだ自覚していないの?貴方がなぜこんなにもフェリシアのことが知りたいのか」

「………。」

「まあ、自覚してないならいいわ。じきに貴方は気づくはずよ。そして自分の行動を痛いほど後悔するでしょうね。」

………母上の言葉をまだ理解できていなかった俺は、ただじっと話を聞くことしかできなかった。

「フェリシアは出ていったのよ。もうここには二度と来ることはないわ。貴方はもう二度と会うことができないの。だから、聖女様と婚約でもすればいいじゃない。王妃としての私は反対しないわ。」


そう言って母上は俺を部屋から追い出した。俺は自分の寝室に戻り、母上の言った言葉をぼんやりと反芻して考える。


母上も聖女様との婚約を反対しない。これでやっと……

違う。俺がこれから聖女様と婚約?

………嫌だ。


グルグルする思考の中、俺がただ一つ思ったことは、「フェリシアに会いたい。」という強い思いだけだった。


………行こう。フェリシアを追いかけよう。このままじゃ次こそ絶対に後悔する。
フェリシアに会えば俺の知りたい答えが分かるはずだ。

フェリシアに嫌われているかもしれない。
俺のことを恨んでいるのかもしれない。

それでも、俺はこの心にあるものの答えが知りたい。
どこまでも身勝手な俺がいつかフェリシアと再会できることを祈って。


俺は一人、旅の準備を始めた。


…………………………………………………………

次話からフェリシア視点に戻ります。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

婚約破棄されて満足したので聖女辞めますね、神様【完結、以降おまけの日常編】

佐原香奈
恋愛
聖女は生まれる前から強い加護を持つ存在。 人々に加護を分け与え、神に祈りを捧げる忙しい日々を送っていた。 名ばかりの婚約者に毎朝祈りを捧げるのも仕事の一つだったが、いつものように訪れると婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄をされて喜んだ聖女は、これ以上の加護を望むのは強欲だと聖女引退を決意する。 それから神の寵愛を無視し続ける聖女と、愛し子に無視される神に泣きつかれた神官長。 婚約破棄を言い出した婚約者はもちろんざまぁ。 だけどどうにかなっちゃうかも!? 誰もかれもがどうにもならない恋愛ストーリー。 作者は神官長推しだけど、お馬鹿な王子も嫌いではない。 王子が頑張れるのか頑張れないのか全ては未定。 勢いで描いたショートストーリー。 サイドストーリーで熱が入って、何故かドタバタ本格展開に! 以降は甘々おまけストーリーの予定だけど、どうなるかは未定

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...