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間章︙第二王子の変化
とある王子の決意
しおりを挟む「………まだフェリシアは見つからないのか」
フェリシアが姿を消してから数ヶ月が経った。
あの日から俺はボーッと1日を過ごすことが多くなり、これでは駄目だと聖女様の元へ行っけれど、俺の心は晴れず、結局毎日無気力に過ごしている。
……俺は聖女様のことが好きだった筈だ。
では何故フェリシアがいなくなっただけで俺は落ち込んでいる?
俺には聖女様がいる。近い未来婚約破棄する手筈だったフェリシアなんて、俺にはどうでもいい存在のはずなのに。
少し前まであんなに魅力的で素敵な人に見えていた聖女様の元へ段々と俺は行かなくなり、ひたすら業務を忙しくこなして、フェリシアのことをどうにか忘れようとして。
……結局俺は未だ立ち直れていなかった。
なにがこんなに俺の心を巣食うのか自分でも分からず、分かるのはフェリシアに原因があるというだけ。
そんなあるとき、フェリシアが行方不明になる直前、王妃様と会って話していたという噂を耳にした。
俺はすぐさま母上のところに行き、フェリシアとの噂は本当のことなのか問だたそうとしたけれど、俺がフェリシアについて話そうとしたら、王妃様は俺に厳しい顔をして話を遮った。
「貴方は婚約者という人がいながら聖女様にうつつを抜かしていたのよ。一夫多妻制はもう何百年も前の話。それなのに貴方は婚約者よりも聖女様を優先したのよ。私がなにかを知っていたとしても、貴方に話す必要はないわ。」
……確かにその通りだった。俺は聖女様にばかりかまけていて、フェリシアの存在を邪魔だと思っていたのは事実だ。
「ですが……!フェリシアと俺はまだ婚約者ですよ!フェリシアの行方が気になるのは当然ではないですか!」
今までフェリシアを粗雑に扱ってきたことから目を逸らし、婚約者という肩書きだけで俺はさもフェリシアを心配するのは当然かのように振る舞う。
「……フェリシアは貴方と婚約してから必死で努力してきたのよ。まだ齢が一桁の頃から貴族の先頭に立つために、5年先の礼儀作法を叩き込まれた。
それでもフェリシアは文句一つ言わずしっかりとこなしてくれたわ。それに親から離れる時間が多くて、どれだけ寂しい思いをしていたのか貴方には分からないかもね。」
母上は淋しげに、しかし俺には皮肉めいた様子で静かに言葉を発した。こんなことを言われたら苛つくはずなのに、俺は母上の言葉一つ一つ、そして言葉に乗せられた思いの重さに口を開くことができなかった。
「あれだけフェリシアが頑張ってくれたのも……ひとえに貴方のことが好きだったから。だから私達も懸命にフェリシアが立派なお嫁さんになれるように応援していたわ。
……………それなのに貴方は聖女様にばかり構ってフェリシアを放ったらかした。あの子の全てを貴方の行動が無駄にしたのよ。」
「…………。」
「あの夜久しぶりにフェリシアに会ったときは驚いたわ。とても疲弊した様子で俯いて………あれだけ毅然とした子が、今にも泣いてしまいそうに涙をこらえていた顔をしていたの。
その時に気づいた。私は間違っていたんだって。あの子も一人の人間だって。それで私はあの子を自由にする決意をしたわ。」
「っ…………やっぱり母上が手を貸していたんですね」
元々フェリシア一人で消えることは不可能だと思っていた俺は、やはり母上が一枚噛んでいたことに納得していた。
「……母上はフェリシアの居場所を知っているのですか?だったら……」
場所を教えてください、と言おうとした俺は、母上の言葉を聞いて驚愕した。
「私が知るはずもないわ。それに………仮に知っていたとしても、私は貴方に教える気はないわ。もう、あの子を傷つけるようなことにならない為にも。それに……ふふっ、貴方、フェリシアと婚約破棄する予定だったでしょ。今更フェリシアのことを気にするなんて………ふざけるのもいい加減にしなさい。」
母上が今までにないほど怒っているのが気配でわかる。俺にこんなに怒った様子を見せたのは生まれて初めてのことだ。
俺の無責任な行動がフェリシアの全てを失わせてしまったのだ。フェリシアのことを自分の子供のように大切に思っていた母上が怒るのも当然のことだった。
「もう後戻りはできないの。貴方がフェリシアにやったことは一生フェリシアの中に残るでしょう。貴方のその愚かな行動が自分の首を絞めることになったのよ。」
…………自分の首を絞める?
「何を言っているのですか……?俺は別に自分の首なんか………」
俺は困惑しながら口を開くと、母上は冷たく笑いながら俺を見つめる。
「あら?……もしかしてまだ自覚していないの?貴方がなぜこんなにもフェリシアのことが知りたいのか」
「………。」
「まあ、自覚してないならいいわ。じきに貴方は気づくはずよ。そして自分の行動を痛いほど後悔するでしょうね。」
………母上の言葉をまだ理解できていなかった俺は、ただじっと話を聞くことしかできなかった。
「フェリシアは出ていったのよ。もうここには二度と来ることはないわ。貴方はもう二度と会うことができないの。だから、聖女様と婚約でもすればいいじゃない。王妃としての私は反対しないわ。」
そう言って母上は俺を部屋から追い出した。俺は自分の寝室に戻り、母上の言った言葉をぼんやりと反芻して考える。
母上も聖女様との婚約を反対しない。これでやっと……
違う。俺がこれから聖女様と婚約?
………嫌だ。
グルグルする思考の中、俺がただ一つ思ったことは、「フェリシアに会いたい。」という強い思いだけだった。
………行こう。フェリシアを追いかけよう。このままじゃ次こそ絶対に後悔する。
フェリシアに会えば俺の知りたい答えが分かるはずだ。
フェリシアに嫌われているかもしれない。
俺のことを恨んでいるのかもしれない。
それでも、俺はこの心にあるものの答えが知りたい。
どこまでも身勝手な俺がいつかフェリシアと再会できることを祈って。
俺は一人、旅の準備を始めた。
…………………………………………………………
次話からフェリシア視点に戻ります。
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