公爵令嬢のRe.START

鮨海

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間章︙第二王子の変化

とある王子の後悔 後編

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「気持ち良く風が吹く空の下、ライオル様にご挨拶を申し上げます。お元気そうで何よりです。」

そう言って頭を下げるフェリシアは、少し頬が痩けて疲れた様子のようだ。

「久しぶりだね、フェリシア。ごめんね。最近は忙しくて余り時間が取れなかったったんだ。」

最近フェリシアに会っていなかったからか、気のせいかもしれないと結論付けて俺は挨拶を返す。 
フェリシアが向かいの席に座り、美しい所作でテーブルマナーを使いこなしながらお菓子を食べているところを見ていると、フェリシアと目があった。

途端にフェリシアは顔を俯けて俺から視線を外し、カップを握りながら無言になる。
気まずい雰囲気になった俺は、慌てて今日予定していたパーティーの服装についての準備について話しはじめた。

「フェリシア。今日君を呼んだのは、来週の社交界パーティーの準備の衣装を決めるためなんだよ。君の要望も聞きたくてね」

俺がそう言った途端、フェリシアは顔を上げて、一瞬悲しそうな顔をした。
けれどすぐに無表情になり、「パーティーの服装なら手紙でも準備ができるので大丈夫です。」と言って、フェリシアは寂しそうに微笑んだ。

俺はフェリシアのその微笑みに目を奪われ、あまりの美しさに呆然としていた。

「君は……「ライオル王子!今日の祈祷が終わりました!はやくあの花園へ行きましょう!………あ……フェリシア様もご一緒してたんですね。お久しぶりです。」

俺はフェリシアがなぜそんな表情をしたのか、聖女様の乱入で聞くことはできなかった。
それにあの花園………フェリシアと俺の特別な花園に昨日聖女様が見てみたいと申し出たのだ。
俺はどうせフェリシアも良いというだろうと思い、後日一緒に見に行こうと返事をしたけれど、まさかこんなに楽しみにしていたとは思わないだろう。


「あの白くて仄かに金色に輝いている花達を見て、私、凄い綺麗だなって思ったんですよ。何故かあそこには城の人達も案内してくれないので、昨日ライオル王子が連れて行ってくれると言ってくれて、凄い楽しみにしてたんですよ!」

そう聖女様が楽しそうに話す傍ら、俺とフェリシアはピクリとも動けず重苦しい雰囲気の中、互いに無言で聖女様の話を聞いていた。
俺はこの重苦しい空気をどうにかしようという一心で、聖女様に声をかけた。

「わかった。わかっから………ユイ。少し待っててくれないか。フェリシアと話すことがあるから談話室で待っていてくれ」

少し慌てたようにそう言ってしまった俺は、聖女様をいつものように名前呼びをしてしまった。俺はバッと振り返ったフェリシアを気不味くて見ることはできず、顔をそらして聖女様の対応にあたった。

やっと聖女様を退出させた俺は、覚悟を決めてフェリシアに向き直る。
フェリシアは呆然と傷ついた顔で俺をぼんやりと眺めていて、まるで俺を見ていないかのようだった。

「………フェリシア………フェリシア!」

俺はフェリシアに呼びかけてこちらの方へ意識を戻すと、俺はフェリシアに聖女様との約束したことの許可をとっていいか確認を使用と口を開いた。

「大丈夫か?………フェリシア。君があの花園を大切にしていることは知っている。でも………今日だけでいいからユイ……聖女様に見せても良いか?」

まだ少しばかり動揺していた俺は、フェリシアの気持ちなんて考えもせずに言葉を発した。

「でも!っ……あの花園は私達が今まで育ててきた努力の結晶です。他の人達は立ち入らないように配慮してくれていたのに、聖女様だけ入らせるんですか?……私は反対します」

俺はまさかフェリシアがそんなにはっきりと反対の意を示すとは思わず、驚いて固まった。そして段々と俺の中に言葉の意味が浸透されていくにつれ、俺はフェリシアに苛ついてきて。

………ただ花園を見せるだけだろう。一体何がいけないんだ。

「あの花園はお前だけの場所ではないんだ。聖女様をお招きしたっていいだろう」

「なぜですか?そんなに聖女様の言うことを聞きたいんですか?……貴方にとって私のことは聖女様よりも下なんですか?」

俺がそう言うと、フェリシアは思い詰めた顔をして、必死な様子で反論してくる。
段々と話がヒートアップしていき、ついに俺は一線を越えてしまった。


「……そうさ。聖女様は皆の希望だ。一番に優先するのは当たり前じゃないか。」

そういった途端、フェリシアはショックを受けたような顔をし、次の瞬間、今にも泣きそうな顔で俺を見た。

………!
いくら鈍い俺でも、今言ってしまったことは謝らないといけないと分かった。

たった一言。されど一言。

くだらない王族としてのプライドに邪魔され、俺が謝る前にフェリシアが口を開いた。

「分かりました。ライオル王子。私達、暫くは会わないほうがいいかもしれませんね。社交界パーティーの衣装は準備しなくて結構ですよ。
パーティーには聖女様とお行きになさったほうがライオル王子もよろしいでしょう。」

……え?

「フェリシア、待って…」

「それではご機嫌よう。さようなら。」

今にも涙が零れ落ちそうな瞳で華麗に微笑んだフェリシアは、一度も振り返らず部屋を出ていった。



そして、フェリシアは忽然と姿を消した。


…………………………………………………………

※もう1話王子視点の話が続きます。
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