公爵令嬢のRe.START

鮨海

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第1章︙聖女降臨編

契約

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私が振り返ると、目の前の悪魔はあからさまにホッとした表情を見せた。

『やっと話を聞いてくれるようになったね。』

なにやらすっかり私が言うことを聞いてくれるようになったと思っているようなので、しっかり釘をさしておく。

「勘違いされたら困ります。私は貴方の話を聞く気になっただけであり、私に有益にならないと判断したら………今の話は無しにさせていただきますわ。」

万が一勘違いされても迷惑なだけだ。私が警告すると、悪魔はニコニコ笑いながら私に取引を持ちかけた。

『今の君に余裕がないことくらい知ってるよ。でも……私は必ず君の役に立てると思う。どう?私と取引しないかい?』

「………そうですか。では、一旦取り引きを承諾するかは置いといて、例えばどのように役立つのか聞いても?」

私はヘマをしないよう慎重に問いかけると、目の前の悪魔は私を見つめながら腕を組んだ。

『うーん………私には何千年もの知識があるから、大抵のことには答えられる。君に今では知らされていないいろいろな魔法を教えることが出来るよ。…………まあ、他にもあるけどすぐにやれることはそれくらいかな。』

これは………確かに豊富な知識は私には有益だけど、相手は悪魔だ。なにか裏があるかもしれないわね。

「それでは契約条件を教えてくださる?」

私はそう目の前の悪魔を警戒しながら言葉を発したけど、帰ってきた言葉は予想外のものだった。

『君の魔力でいいよ。悪魔と精霊は基本、魔力があれば生きれるようになっているから。勿論さっきみたいにたくさん貰うわけじゃないから安心して。でも、戦闘を行った場合や魔力を使うときには別で貰うことになるかもしれないね。』


…………そう。なかなか条件がいいわね。まるで悪魔とは思えないくらい。
魔力だけで本当に済むなら契約したほうが絶対にいいだろう。
それよりも………

「何故貴方は本の中にいるのです?」


そう。私が迷っている理由がこれだ。本に閉じ込められた悪魔なんて聞いたこともないのに………それも王族の宝物庫にあるという現状に私は怪しく感じている。


王子たちはここに立ち入ることが出来ないから……容疑者として挙げられるのは王と王妃のみに絞られる。何故悪魔という存在を認知していながら、悪魔という生き物が幻だというように刷り込んだのか、何より悪魔が王城にいる理由など、様々な疑問は尽きないからこそ、私は目の前の悪魔に真実を探ろうとした。


私がそう問いかけると、黙り込んだ悪魔は暫く経ってから静かに話しはじめた。

『………まだ人類が悪魔や精霊と活発に交流していた頃。私はね、ある悪魔達の指導者だったんだ。あ、勿論そんなに凄いものじゃないよ。ただ本や物知りな悪魔たちの集まりでの指導者だったわけだから。その頃は人間や獣人達とも良好な関係を築けていたけれど…』

「………それで、何か問題でも起きたのですか?」

『ある日、ある男が現れて皆に言ったんだ。「悪魔は神の敵であり、邪悪な存在である!」ってね。流石に最初は馬鹿でも信じないほどのホラ吹きだって皆の笑い者にされていたよ。でも…………段々とあの男に賛同する人達が出てきた。』


……え?悪魔とは良好な関係を築いていた人類がそんなに簡単に掌を返すのかしら?
そう思って私が首を傾げていると、私の様子に気がついたらしい悪魔が、そうだよねと頷いた。


『信じられないけど本当のことなんだ。私達悪魔の中には、ごく少数派だけれど人間撲滅というような思想を抱えた奴らもいたからね。でもそういう奴らは人間たちだって一定数いたんだ。なのにあの男の言うことに人々が賛同しはじめた理由として、私はあの男が悪魔達と手を組んでいるのではないかと踏んだんだよ。』


「あ………まさか」

『うん。私の予想は当たっていた。私は迅速に手を打とうとしたけれど、あの男は相当な剣と魔法の腕を持っていて、なかなか近づけなかった。そして段々と悪魔が追いやられていく現状に焦った私は、ついに強行突破しようとしたよ。………それであの男によってこの本に封印されたというわけだ。
それで、君も気になっていると思うけど、私がなぜ王城の宝物庫の中にあった理由は……』


「ユリウス・ジェームズ。あなたを封印したのは初代国王だったから。」


『そういうこと。これで君の知りたいことはだいたい説明したよ。今度は私の番だ。契約する気になったかな?』

………まさかあの勇者と言われていた初代国王が悪魔を封印していたなんて。
この悪魔がすべてのことを私に伝えたわけじゃないことくらい分かるけど、同時に嘘を言ったとも思えない。
それに……わたしにはどうしてもこの悪魔を邪悪と感じることができなかった。
魔力が綺麗なのだ。
刺すような魔力だけれど、まるで悪意を持っているようには感じられないその魔力を見て、少なくとも悪いやつではないだろうと判断したのだ。


「………分かりました。私も選り好みしている余裕はありませんから。どうせ宝物庫で使えるものがなさそうなので、契約してみるのも一つの選択でしょう。」


『ありがとう。君の助けとなるよう頑張るよ。じゃあ……』

悪魔が契約の呪文を唱えるにつれ私の魔力が凄い奪われて、私は意識が朦朧としてきた。

『私の初の契約者。改めて……私名前は■■■・グリモワール。宜しくね契約者。ゆっくりとお休み。』


私の意識は暗転した。




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