釣りはじめました

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キス釣り編

キス釣り編5

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 家に帰って、早速買った本を読んだ。
 アジ、サバ、カレイ、ヒラメなどなど……あっ、今週末行く予定だったキスの事も書いてあった。
 『砂浜の女王』シロギス
 食べてよし、釣ってよし、見た目麗し。まさに三拍子そろった魚。
 天ぷらはもちろん、大きいサイズだと刺身にも出来て美味いらしい。
 キスって、刺身で食べれるんだ……。
 あれから、スーパーの鮮魚コーナーは常にチェックしているけど、キスの刺身なんて見かけた事なんてない。
 でも、やっぱり天ぷらも食べたい。キスはどんな引きするんだろ?興味は尽きなかった。
 梅雨明けして早くも数週間、建屋内の気温は軽く四十度はある。外の気温も猛暑日を記録する事ばかりで、昼間に響くはずの蝉の声は朝がメインになり、鳴き足りないのか、たまに夜の街灯下で鳴いている。
 ポタポタと流れ落ちる汗は、熱せられた鉄の上で音もなく姿を消す。
 熊本特有の高温多湿。
 粘り絡みつくような湿気は、この町にもこの建屋の中でさえも充満する。
 マスクを外して息を吸うたびに、熱を宿した埃まみれの空気は胸を焼くようだった。
 天井に数台設置してある、大型のファンは常に起動しているが、それでも間に合わない。身体を冷やす為の扇風機も熱風を浴びせるだけになる。そのため、一人一台、スポットクーラーが各場所に設置してあった。
 『水分補給はこまめに!塩飴を食べよう!無理は禁物!適度に休憩をとろう!』冷蔵庫には、この時期になると張り出される紙。
 冷蔵庫をあけ、麦茶を飲み、塩飴を口にくわえて持ち場に戻る。
 この数週間、建屋内は大忙しだった。突発的な仕事が大量に舞い込んだのだ。普段はこんなに忙しくなる事はない。残業しても日に三時間が最大だったが、今回はそれよりも一時間多い四時間。お盆休みも数日返上した。
 そして、そのかいがあってか、やっとメドがついた。
 気が付けば、ラジオは午後三時の時報を伝え、徐々に仕事音は止み、各々休憩時間に入った。
 「やっと、今週末は連休出来そうだね。」
 ヨシさんも飴をくわえながら、僕の所にやってきた。
 「はい。日曜日も無かったですからね。」
 そう。ここ数週間はお盆休み以外、休みすら無かったのだ。
 「まあ、たまにはこんな事もあるよ。頑張っておけば、頑張った記憶が『あの時は頑張った!』って糧にもなるから。」
 今日はまだ木曜日。やっと今日から残業もなくなり落ち着いた。他愛ない事をヨシさんと話していると、島田社長は差し入れの、袋入りカキ氷を皆に配り、僕達の元へやってきた。
 「お疲れ様。いや~。迷惑ば掛けたばいね。ありがとさん。」
 暑い中、じつにありがたい差し入れだ。
 ヨシさんは舐めていた塩飴をガジガジッと噛み砕きカキ氷を口にして言う。
 「そう言えば、しんちゃん。キスは釣れてるの?」
 「釣れよるばい。サイズはそぎゃん出らんみたいやけど、持ち込みもしてあるばい。」
 島田社長は、スマートフォンを取り出し見せる。
 今回は山下釣具のサイトではなく、ポセイドンのサイトの釣果情報だった。
 ズラッとキスを並べられた写真が載っている。
 ヨシさんは「おぉ~!」と歓声を上げ、僕はただ驚嘆するばかりだった。
 島田社長の目が一瞬光り、言う。
 「で、どぎゃんね?今週末??」
 「おっ!やはりそうきましたか!!」
 ヨシさんも一瞬目を光らせてそれに答える。
 「ほんとなら、この前買ったエギングタックルば試したかとばってん、時期的にもまだ早かし、キス釣りも豪雨で流れたけん、キスも釣りたかとよね。」
 島田社長の言葉に胸が躍る。僕も釣りたい。キス釣りたい。イカも興味あるけど、キスの天ぷらが食べたい!
 「どぎゃんね?瀬高も??」
 「はい!行きます!!」
 キス釣りに参戦する事が決定した。初のキス釣り、どんな引きをするんだろう?他にはどんな魚が釣れるんだろう?果たして釣れるのだろうか?
 楽しみで仕方がない。
 
 

 
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