あなたのお口に幸せを

チーズソースのとろふわオムライス編

チーズソースのとろふわオムライス編4

　取材日当日。
　落ち着かない。やはり。と言っていいほど、落ち着かない。それは姉さんも同じようだった。
　店内のお客さんがほとんど居なくなる時間帯。何時になく長く感じ、僕と姉さんはそわそわと店内をウロウロする。
　そして、そんな長い時間も、一瞬にして終わりを告げる。
　取材クルーの皆様の到着だ。
　ローカルのテレビ局とは言え、日頃よく見る地方タレントの女性。大森早苗(おおもり　さなえ)さんを見た時は少し感動してしまった。
　グルメ番組のレポーターはもちろん、小さな体と肩に届くくらいの淡い茶色の髪。くりくりとした瞳。可愛らしい見た目とは裏腹に、時には体を張ったレポートは人気だった。
　軽く打ち合わせをして、取材開始だ。今回作るのは、新メニューのチーズソースのとろふわオムライス。
　いくつかの質問がされて、カメラで料理風景を撮られる。
　はっきり言って、緊張しすぎて何て答えたのかもあまり覚えていない。カミカミのコメントもしばしば。これが生放送じゃなくて良かった。少し取り直しもしてくれたし。ありがたかった。
　覚えているのは、大森さんの美味しそうな顔と嬉しそうな声だった。取材終了後に、大森さんが握手を求めて「ありがとうございました。凄く美味しかったです。」そう言ってくれた時は凄く嬉しかった。
　そして、一週間後の放送日の翌日。お店は大変な事になった。お客さんが朝からひっきりなしにやってくる。テレビで紹介されたオムライスが飛ぶように出て行く。
　た、たまごが足りない！何時も卵を届けてくれる、養鶏農家の源さんに連絡を入れて卵を追加で持ってきて貰う。
　「おう！京ちゃん。卵持ってきたばい……。」
　源さんは店の状況を見て、唖然とする。
　「は～。テレビの影響は凄かね～。」
　「源さん、ありがとうございます。僕もびっくりしてます。明日もこの状況が続くなら、またお願いしていいですか？」
　「そりゃ、もちろんよかたい。その時は連絡しなっせ。」
　そう残して源さんは帰って行った。
　
　結局、忙しい日々はしばらく続き。近所の常連さんはその間来店を控えていたようで、申し訳ないと思った。でも、嬉しい事もあった。何回も訪れてくれる常連さんも出来たのだ。そして、驚いたのは大森さんが度々ウチに訪れるようになり、近所の常連さん達と仲良くなってしまった事だった。
　世の中、何があるか分からない。テレビの中の人がウチの常連になったり、近所の人と仲良くなったり……。ただ、もうテレビはいいかな。自分は思ったよりあがり症だと言うことも分かったし。
　しかし、このテレビに出た事で少し僕の人生も面白い物になり始めたのであった。