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ナナ、1歳誕生日
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ナナをブラッシングしながら、そんな事を思っていると、母さんから声が掛かった。
「優弥。ちょっとナナのケーキを受け取りに行ってきて~。」
今日はナナの誕生会で、ナナ用のケーキを頼んであるのだ。最初はびっくりしたが、昨今のペットブームの影響で、今や犬専用だとかのケーキが売ってあるのだ。値段も人と変わりない。犬が食べても安心な食材を使い味も調整してある。父さんはまだ仕事。母さんはこの日の為のご馳走を作り、結衣は近くのケーキ屋で、僕達用のケーキを買いに歩いて行っている。少し遠いその店には、僕が車で取りに行く事になっていた。
僕が出掛けようと、車のキーを取った瞬間。ブラッシングを終え、ぐて~っと寝そべっていたナナが、ピョン!と起き上がった。
そして、僕の後に続いて外まで付いて来る。車のロックが開く音がすると、グルグルと回り、僕の足にまとわりついてくる。『わたしも一緒にいく~。』と言わんばかりに。ドアを開けた瞬間、ナナは乗り込む。そう、ナナは車に乗るのが好きなのだ。
ナナを連れて行けない時には、家まで抱えて戻すのだが、今日は受け取ったら直ぐ戻れるし、そのまま連れて行く事にした。
窓を全開に開け、風の中に身を預けるナナ。口を開け舌を出し、気持ち良さそうにする。惜しむのは、今日も晴れてはいない事。梅雨の真っ最中。七夕の日は何時も雨か曇り。車窓の先、遠くの空を見上げても、晴れる気配はない。夜からは雨の予報。天の川なんて見たこともない。七夕の願い事なんて叶った事もない。でも、七夕の日、僕はナナと出会えた。その事は、神様、織り姫、彦星にお礼を言っていいのかもしれない。
信号で停車中、ちょこんと座り直したナナの頭を撫でる。こんな愛おしい存在があっていいのだろうか?僕は幸せを感じていた。
お店に着き店員さんに言って、予約していたケーキを受け取る。
「こちらでございますね。」
店員さんは、にこやかに、出来上がったケーキを見せてくれた。前回、注文時にナナの写真を預けていたのもあり、お菓子で作り上げたナナの人形が真ん中に鎮座し、可愛いデコレーションに、ハッピーバースデーと英語で書かれていた。
か、可愛い。
人形なんて、ナナにそっくりだ。凄くテンションが上がる。出来るなら永久保存したいと本気で思った。来年もこのお店に注文しよう。と思った瞬間だった。
お金を払い、お礼を言って、お店を出る。
こんな曇り空も何もかも吹き飛ばして晴れに出来そうな、そんな気分で帰路に着いた。慎重に慎重に、ケーキが崩れないように、ゆっくり安全運転で帰った。
家に帰ると、父さんはまだ帰宅していなかったが、結衣は僕達のケーキを買って帰宅していた。
「お兄ちゃん、ナナのケーキはどうだった?」
結衣や母にケーキを見せる。
ケーキを見た二人は驚嘆した。
「きゃ~!凄くない?凄くない?」
可愛い。凄い。可愛い、凄い。似たような言葉を連呼する。そして、携帯電話で写真を撮り始める。パチャ!パチャ!と何枚も。僕も一緒に撮る。ナナも入れて撮りたいところだが、かじられたらいけないので、とりあえず、父さんが帰るのを待った。
父さんは、ナナが好きで遊びそうなオモチャを数点買って帰ってきた。誕生日プレゼントなのだろう。
これで、家族全員揃った。
『ナナ誕生日パーティー』の始まりだ。
何時もは、ドッグフードが主食のナナ。今日は大好物の3点。鶏ササミの茹でたやつ、豚肉のスライスを茹でたやつ。そして、ブロッコリー。
家族が揃う時は食事した後にナナのご飯タイムなのだが、今日は特別に一緒に食べる。ナナは一緒に食べれるのが嬉しそうだ。皆で「ナナ、誕生日おめでとう!」と言った後、皆でナナを撫でて、ナナを祝った。
ナナは祝ってもらっている。と言うのが分かるのだろうか?耳をピョコンとし目を一瞬見開いたかのような表現をした。これはきっと、『ありがと~。私、嬉しい。』と言っているに違いない。と思うようにした。
今日は『待て』もない。美味しそうに食べる。
僕達もそれに習って食べ始める。そして、ナナが家に来てから、この一年間の話になった。
「本当に優弥がナナを連れて来た時はビックリしたわ。」
母さんは、ナナと僕を見ながら言う。
そう、ナナを連れて来た、その日まで、母さんが『犬嫌い』だとは知らなかったのだ。今では完全にそれを克服し、愛犬家と言ってもいいくらいに成長していた。
「僕だってビックリしたよ。『犬嫌い』だって言っていたのに、次の日には、180°変わって、犬に関する本を大量に買って来るしさ。まあ、僕には嬉しかったけどね。」
鶏の唐揚げをムシャムシャ食べながら言う。
すると、結衣もその話に乗っかってきた。
「お母さんも、お兄ちゃんも似てるからね~。『たまに周りが見えなくなります症候群』でしょ?よく人の話も聞いてないもんね~。」
お前もだよ!っと言葉が喉の奥から飛び出しそうだったが、飲み込んだ。そんな様子を知らない結衣は続ける。
「でも、ナナが家に来てよかったよね~。段々、家族全員で集まって話す事無くなってきてたし、私も大学受験だから、お兄ちゃんに話を聞きたかったしさ、ナナのおかげで話掛けやすくなったよ。」
そう。結衣は僕と同じ大学を受験するのだ。家から通えるというのも良かったのだろうが、リビングでナナと遊んで居る時に、よく大学の話をしていた。最初は信じられない気持ちだったけど、本気だったので、リビングで勉強を見てやる事も多くなった。
「お兄ちゃんは、まだ新しい彼女作らないの?なんなら、わたしの友達を紹介しようか?」
「いや。いいかな。まだ、そんな気分にもなれないし。」
そう。まだ、そんな気分ではない。引きずってるとかではなく。本当に気分的な問題だろう。今はナナも居るし、生活は満たされている。
「そう言う、結衣はどうなんだよ?航大君とは上手くいっているのか?」
「えっ…。」
一瞬で顔が赤くなる。単純で分かりやすい奴だ。
「航大君、少し離れた大学を受けるんだろ?彼、イケメンだからね。直ぐに帰って来れる距離だからと言っても、兄は、お前の事が心配だぞ。」
また、鶏唐揚げを食べながら、説得力のない言葉を放つ。
「そうなのよ~~ぉ。」
おいおいと今にも泣き出しそうに結衣は話始めた。しまった。どうやら、地雷を踏んでしまったようだ。
結衣は、ずっと不安らしく、高校三年になって付き合い始めたのはいいが、直ぐに中距離恋愛になる。しかも、彼はイケメン。誰にでも優しく、直ぐに、ふられるのではないかと不安で仕方ないらしい。定期的に帰ってきてくれているって言ってくれるけど、疑心暗鬼にもなるらしい。結衣は、食事の箸を止めて不安をぶちまけている。
僕は結衣のそんな姿を見て、不意に元彼女の事を思いだした。元彼女もこんな気持ちだったんだろうか?仮に新しい彼氏が出来ていたとしても、最初の頃は電話で泣いていた日もあった。寂しいとか不安だとか。僕はそんな元彼女に、「お互いに信じあっているのなら、乗り越えられるよ」とか安い言葉しか言えなかった。もっと無理してでも、会いに行っていれば良かったのか?もっと違う言葉で慰めてあげればよかったのか?そんな事が頭をよぎった。そして、また最後に言われた言葉が頭に蘇った。『優しさ』ってなんだろう?一年以上経ったが結局のところは分からない。
母さんが結衣を慰めているのを見ながら、ふと父さんの方を見た。
ナナ誕生日パーティーを始めてから、父さんは一言も喋っていない。酒をちょびちょび飲むのは見えているが、妙に静かだ。それに様子がおかしい。何かコソコソとしている。
よく見ると、横にナナが座っている。
父さんは唐揚げを取り、箸でほぐして、ナナにこっそり与えていた。
「と、父さん?!そんな、味の濃いものあげちゃダメだよ!!」
僕の注意に父さんは酒を飲んで酔っ払ってうるのか、ヘラヘラと答えた。
「なになに。大丈夫だぞ~。時々だし。誕生日だしな~。」
そりゃ、たまには良いだろうけど……そういうのがクセになるんだよ。
この後、父さんと少しもめたのは言うまでもなく、ナナ誕生日会は何とも言えない感じで終わってしまった。
「優弥。ちょっとナナのケーキを受け取りに行ってきて~。」
今日はナナの誕生会で、ナナ用のケーキを頼んであるのだ。最初はびっくりしたが、昨今のペットブームの影響で、今や犬専用だとかのケーキが売ってあるのだ。値段も人と変わりない。犬が食べても安心な食材を使い味も調整してある。父さんはまだ仕事。母さんはこの日の為のご馳走を作り、結衣は近くのケーキ屋で、僕達用のケーキを買いに歩いて行っている。少し遠いその店には、僕が車で取りに行く事になっていた。
僕が出掛けようと、車のキーを取った瞬間。ブラッシングを終え、ぐて~っと寝そべっていたナナが、ピョン!と起き上がった。
そして、僕の後に続いて外まで付いて来る。車のロックが開く音がすると、グルグルと回り、僕の足にまとわりついてくる。『わたしも一緒にいく~。』と言わんばかりに。ドアを開けた瞬間、ナナは乗り込む。そう、ナナは車に乗るのが好きなのだ。
ナナを連れて行けない時には、家まで抱えて戻すのだが、今日は受け取ったら直ぐ戻れるし、そのまま連れて行く事にした。
窓を全開に開け、風の中に身を預けるナナ。口を開け舌を出し、気持ち良さそうにする。惜しむのは、今日も晴れてはいない事。梅雨の真っ最中。七夕の日は何時も雨か曇り。車窓の先、遠くの空を見上げても、晴れる気配はない。夜からは雨の予報。天の川なんて見たこともない。七夕の願い事なんて叶った事もない。でも、七夕の日、僕はナナと出会えた。その事は、神様、織り姫、彦星にお礼を言っていいのかもしれない。
信号で停車中、ちょこんと座り直したナナの頭を撫でる。こんな愛おしい存在があっていいのだろうか?僕は幸せを感じていた。
お店に着き店員さんに言って、予約していたケーキを受け取る。
「こちらでございますね。」
店員さんは、にこやかに、出来上がったケーキを見せてくれた。前回、注文時にナナの写真を預けていたのもあり、お菓子で作り上げたナナの人形が真ん中に鎮座し、可愛いデコレーションに、ハッピーバースデーと英語で書かれていた。
か、可愛い。
人形なんて、ナナにそっくりだ。凄くテンションが上がる。出来るなら永久保存したいと本気で思った。来年もこのお店に注文しよう。と思った瞬間だった。
お金を払い、お礼を言って、お店を出る。
こんな曇り空も何もかも吹き飛ばして晴れに出来そうな、そんな気分で帰路に着いた。慎重に慎重に、ケーキが崩れないように、ゆっくり安全運転で帰った。
家に帰ると、父さんはまだ帰宅していなかったが、結衣は僕達のケーキを買って帰宅していた。
「お兄ちゃん、ナナのケーキはどうだった?」
結衣や母にケーキを見せる。
ケーキを見た二人は驚嘆した。
「きゃ~!凄くない?凄くない?」
可愛い。凄い。可愛い、凄い。似たような言葉を連呼する。そして、携帯電話で写真を撮り始める。パチャ!パチャ!と何枚も。僕も一緒に撮る。ナナも入れて撮りたいところだが、かじられたらいけないので、とりあえず、父さんが帰るのを待った。
父さんは、ナナが好きで遊びそうなオモチャを数点買って帰ってきた。誕生日プレゼントなのだろう。
これで、家族全員揃った。
『ナナ誕生日パーティー』の始まりだ。
何時もは、ドッグフードが主食のナナ。今日は大好物の3点。鶏ササミの茹でたやつ、豚肉のスライスを茹でたやつ。そして、ブロッコリー。
家族が揃う時は食事した後にナナのご飯タイムなのだが、今日は特別に一緒に食べる。ナナは一緒に食べれるのが嬉しそうだ。皆で「ナナ、誕生日おめでとう!」と言った後、皆でナナを撫でて、ナナを祝った。
ナナは祝ってもらっている。と言うのが分かるのだろうか?耳をピョコンとし目を一瞬見開いたかのような表現をした。これはきっと、『ありがと~。私、嬉しい。』と言っているに違いない。と思うようにした。
今日は『待て』もない。美味しそうに食べる。
僕達もそれに習って食べ始める。そして、ナナが家に来てから、この一年間の話になった。
「本当に優弥がナナを連れて来た時はビックリしたわ。」
母さんは、ナナと僕を見ながら言う。
そう、ナナを連れて来た、その日まで、母さんが『犬嫌い』だとは知らなかったのだ。今では完全にそれを克服し、愛犬家と言ってもいいくらいに成長していた。
「僕だってビックリしたよ。『犬嫌い』だって言っていたのに、次の日には、180°変わって、犬に関する本を大量に買って来るしさ。まあ、僕には嬉しかったけどね。」
鶏の唐揚げをムシャムシャ食べながら言う。
すると、結衣もその話に乗っかってきた。
「お母さんも、お兄ちゃんも似てるからね~。『たまに周りが見えなくなります症候群』でしょ?よく人の話も聞いてないもんね~。」
お前もだよ!っと言葉が喉の奥から飛び出しそうだったが、飲み込んだ。そんな様子を知らない結衣は続ける。
「でも、ナナが家に来てよかったよね~。段々、家族全員で集まって話す事無くなってきてたし、私も大学受験だから、お兄ちゃんに話を聞きたかったしさ、ナナのおかげで話掛けやすくなったよ。」
そう。結衣は僕と同じ大学を受験するのだ。家から通えるというのも良かったのだろうが、リビングでナナと遊んで居る時に、よく大学の話をしていた。最初は信じられない気持ちだったけど、本気だったので、リビングで勉強を見てやる事も多くなった。
「お兄ちゃんは、まだ新しい彼女作らないの?なんなら、わたしの友達を紹介しようか?」
「いや。いいかな。まだ、そんな気分にもなれないし。」
そう。まだ、そんな気分ではない。引きずってるとかではなく。本当に気分的な問題だろう。今はナナも居るし、生活は満たされている。
「そう言う、結衣はどうなんだよ?航大君とは上手くいっているのか?」
「えっ…。」
一瞬で顔が赤くなる。単純で分かりやすい奴だ。
「航大君、少し離れた大学を受けるんだろ?彼、イケメンだからね。直ぐに帰って来れる距離だからと言っても、兄は、お前の事が心配だぞ。」
また、鶏唐揚げを食べながら、説得力のない言葉を放つ。
「そうなのよ~~ぉ。」
おいおいと今にも泣き出しそうに結衣は話始めた。しまった。どうやら、地雷を踏んでしまったようだ。
結衣は、ずっと不安らしく、高校三年になって付き合い始めたのはいいが、直ぐに中距離恋愛になる。しかも、彼はイケメン。誰にでも優しく、直ぐに、ふられるのではないかと不安で仕方ないらしい。定期的に帰ってきてくれているって言ってくれるけど、疑心暗鬼にもなるらしい。結衣は、食事の箸を止めて不安をぶちまけている。
僕は結衣のそんな姿を見て、不意に元彼女の事を思いだした。元彼女もこんな気持ちだったんだろうか?仮に新しい彼氏が出来ていたとしても、最初の頃は電話で泣いていた日もあった。寂しいとか不安だとか。僕はそんな元彼女に、「お互いに信じあっているのなら、乗り越えられるよ」とか安い言葉しか言えなかった。もっと無理してでも、会いに行っていれば良かったのか?もっと違う言葉で慰めてあげればよかったのか?そんな事が頭をよぎった。そして、また最後に言われた言葉が頭に蘇った。『優しさ』ってなんだろう?一年以上経ったが結局のところは分からない。
母さんが結衣を慰めているのを見ながら、ふと父さんの方を見た。
ナナ誕生日パーティーを始めてから、父さんは一言も喋っていない。酒をちょびちょび飲むのは見えているが、妙に静かだ。それに様子がおかしい。何かコソコソとしている。
よく見ると、横にナナが座っている。
父さんは唐揚げを取り、箸でほぐして、ナナにこっそり与えていた。
「と、父さん?!そんな、味の濃いものあげちゃダメだよ!!」
僕の注意に父さんは酒を飲んで酔っ払ってうるのか、ヘラヘラと答えた。
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