上 下
15 / 28
新しい日々の始まり

新しい日々の始まり 8

しおりを挟む
 「それでは、マーガレット、リーネのローネ。そして、レイブンさんの引っ越し記念して、乾杯!」
 「「「乾杯!!!」」」

 街をあっという間に濡らした夕立は上がり、空の唸り声は虫の歌声に変わっていた。
 結局、あの後、俺がトイレから出てきた時には空は泣き出していた。
 そして、それとほぼ同時にイリア達は帰ってきたのだが、運が悪かったのか、家までもう少しだと生活魔法を使わなかったおかげで、体はビチョビチョになっていた。
 イリア達は直ぐに風呂に入り、その間に、ターニャさん、マーガレット、ローネ、リーネの順で帰って来たが、四人は濡れていなかった。
 四人曰わく、あれだけ厚い雲に覆われていたのだから、予め、生活魔法は使っておく。のが普通らしい。
 やはり、イリア達は少し変わっているのか?
 まあ、そんなこんなで、ララ以外の女性陣は先に風呂に入り、ローネもその後、食事の前に汗を流してもらった。
 全開に開けられた窓からは、雨の香りの残る風が静かに流れてくる。
 その風に乗って、風呂上がりの何とも言えない甘い香りが鼻をかすめ、俺は目を閉じて思いっきり鼻で息を吸い込む。
 ……やっぱり、たまらん!この風呂上がりの香り!!
 イリア達には話した事ないけれど、俺はこの香りが大好きだ。
 その香りを楽しんでいると、聞こえてくる虫の歌に負けじとゴクゴクゴクと喉を鳴らす音が聞こえる。

 「ぷっは~~っっ!お風呂上がりのエラールテ………もとい、ビールは最高ですね~。おや?どうしたのですか?ヤマト??キョトンとして?」

 いつの間にか、隣にやってきていたイリアはこちらを不思議そうな顔で見ている。
 流石に、イリア達の風呂上がりのいい匂いを嗅いでいた。なんて言えるはずがない。

 「いや……。なんか、感慨深いな。と思ってな。この世界に来てから一年とちょいと。最初はどうなるかと思ってたけど、今では、元の世界の店とは比較に出来ないくらい大きな店に、貴族並みの邸宅。まあ、借金なんだが。それでも、凄い所まできたな。と思ったんだよ。」
 「そうですね。普通では考えられないくらいの成功をおさめちゃてます。でも、私は遅かれ早かれ、こうなると思っていましたよ?」
 「本当か?」

 嬉しそうに微笑みながら、俺を見上げるイリアに俺は聞き返した。

 「はい。ララやターニャ達までヤマトの事を好きになるとは思ってはいませんでしたが、ヤマトが料理屋さんで成功する事は確信していましたよ。それ程、人間界で食べたヤマトの料理は革命的だったのです。私にとっては。いえ、私達にとっては……。それに、今だから本心を言えますけれど……。」
 「本心?」
 「私にすればどちらでも良かったのですよ。確信していたと言え。成功しても失敗してお金がも……。私は、ヤマトと一緒に居れさえすれば。」
 「……イリア。」
 「……結局は、この気持ちのせいで、ヤマトに迷惑を掛けましたけれど……。」

 先ほどの笑顔と違い、苦笑いをイリアは浮かべる。

 「イリア!そんな!」
 「ヤマト兄ちゃん。何、イリア姉ちゃんとイチャイチャしてるんだよ。」

 タイミングが良いのか悪いのか、ローネがニコニコと笑いながら声を掛けてきた。……その隣りにはリーネもいるな。

 「すみません。ヤマト兄さん。イリアさんと大切なお話をされている時に……。ローネ。だから、もう少し待とうっていったでしょう?」
 「何言ってるんだよ。姉ちゃん。こんな時はタイミングより勢いが大事だろ?ヤマト兄ちゃんだって酒飲むんだから、酔った後に気持ちを伝えても、記憶に残らないがもしれないだろ?」
 「……そうかも知れないけど……。」
 「ああ。大丈夫だよ。リーネ。それで、どうしたんだ?二人とも??」

 俺の言葉に二人は顔を見合わせ。そして。

 「ヤマト兄さん。私達をこの家に住まわせて頂き、ありがとうございます。」
 「ありがとうございます。」

 二人はそう言い、深々と頭を下げる。
 この世界では珍しい、双子姉弟の二人。
 セミロングにウェーブのかかった赤毛のリーネ。
 ローネはエルフには珍しい、赤毛の短髪。
 二人とも、魔力の高い証である、金色の瞳をしている。
 年齢は、14歳。来年の春からは魔導大学へと進学へと進学する事が決まっている。それくらいに優秀な二人だ。
 流石、スタイルの良いエルフだ。お辞儀も様になっているな。

 「頭を上げてくれ。リーネ、ローネ。俺達だって、二人と一緒に住めて嬉しいんだ。なあ、イリア。」
 「そうですよ。リーネ。ローネ。頭を上げて下さい。新しい家族が増えるのですから。これほど嬉しい事はありません。」

 リーネもローネも、俺の事を兄と言って慕ってくれているんだから、確かに家族に近いのかもしれないな。
 そんな事を思い出しながら、リーネとローネに初めて会った日の事を俺は思い出していた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の裏切りの果てに

恋愛
 セイディは、ルーベス王国の第1王女として生まれ、政略結婚で隣国エレット王国に嫁いで来た。  夫となった王太子レオポルドは背が高く涼やかな碧眼をもつ美丈夫。文武両道で人当たりの良い性格から、彼は国民にとても人気が高かった。  王宮の奥で大切に育てられ男性に免疫の無かったセイディは、レオポルドに一目惚れ。二人は仲睦まじい夫婦となった。  結婚してすぐにセイディは女の子を授かり、今は二人目を妊娠中。  お腹の中の赤ちゃんと会えるのを楽しみに待つ日々。  美しい夫は、惜しみない甘い言葉で毎日愛情を伝えてくれる。臣下や国民からも慕われるレオポルドは理想的な夫。    けれど、レオポルドには秘密の愛妾がいるらしくて……? ※ハッピーエンドではありません。どちらかというとバッドエンド?? ※浮気男にざまぁ!ってタイプのお話ではありません。

処理中です...