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完成!新店舗!!

完成!新店舗!! 5

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 俺はまた、やんややんやとやり始めたイリア達を置いて、玄関のドアを開けた。すると、そこには……。

 「よっ!この前ぶりたい!!」

 しゅたっ!と音が聞こえそうなくらいの勢いで片手を上げ、白い歯を輝かせた、この世界では珍しいサングラス姿のちょいワル風オヤジ……ゼウス様が居た。
 いや……何で、家に??ってか、まさか……ね?他人の空似??それとも、幻??
 そうだな。神様ってそんなに暇じゃないはず。何かの見間違いだ。チャイムが鳴ったのは気のせいだ。幻だろう。
 俺は、玄関のドアを何事も無かったかのように静かに閉めた。

 「は?!何しよっと!?何でドアば閉めるとか?!訳分からん!!はよ、開けんね!!!」

 ドアの向こうからは、九州弁で叫ぶ大声とチリリリンとチャイムの音が連発する。
 いや……幻聴だろう。うん。幻聴だ。
 気にせず、俺はキッチンダイニングへ足を戻す。
 しかし、一向に玄関ベルの音は止まない。
 仕方無く、もう一度、少しだけ玄関のドアを開いて外の様子をうかがった。
 すると、にょきっと現れたサングラス越しの瞳と目があった。
 ……チッ。幻でも幻聴でもなかった。目の前に、ゼウス様が居やがる。
 ……正直、あんまり会いたくはない。
 だって、俺達はこの前、ゼウス様のせいで散々な目にあったばかりだ。
 愛刀『麗月』も折られたし、ララ達の武器も失い、イリア達との関係も良くない。この世界では、神と言う存在はあまる好かれてもいないのだ。
 もう一度、ドアを閉めて、居留守でも使いたい気分だが、もう、足でドアを制されてしまった。このまま、騒がれたり、チャイムを押されつづけると流石にイリア達が不振がって出てくるだろう。玄関だけでどうにか切り抜けるしかない。
 俺はドアの隙間からとりあえず話を聞く事にした。

 「どうも。ゼウス様。この間ぶりです。」
 「おう。この間ぶりたい。元気にしとったね?」

 何が元気にしとったね?だ。散々な目に合わせておいて。
 
 「はい。お陰様で元気にしていましたよ?用件はそれだけですか?それでは……。」
 
 俺はゼウス様の足も関係なく、挟んだままドアを軽く閉めようとした。
 
 「あたたたたたた!痛か!痛かじゃなかか?!もう!なんばすっとね!?何時から、こげん酷か事ばするごつなったと?!」

 そんなに強く閉めていないのに、わざとらしいな。
 
 「それで、何かご用ですか?ゼウス様??」

 俺は意を決して再び玄関のドアを開けた。

 「もう!なんね?!そげんか態度ばとってからに!こっちは引っ越し祝いば持ってきたとよ?!」
 「え?引っ越し祝い??何でゼウス様が俺達の引っ越し日を知っているんですか?」

 そうだ。そもそも、何で引っ越した場所も知っているんだ?魔王様はアリシアから連絡をもらっていたらしいから分かるんだけど……。

 「何で、ゼウス様が家の引っ越し日を知っているんですか?」
 「ヤマトさん、今回も申し訳ございません。」

 俺がたずねるとゼウス様の代わりに隣りに居た人物がこたえる。
 頭上には黄金に輝く天使の輪。
 ピンク色の髪と瞳。
 白を基調としたシンプルなワンピースに身を包み、キラキラと輝いて見えてしまうほどの神秘的なオーラを纏っている。
美形揃いのエルフ界ですら、その美しさは異常だろう。この世界の住民ではない。遥か高次元の存在。そう、天使のラファエルさんだ。
 まあ、エルフの美的感覚は人間である俺とは違うからラファエルさんがエルフ達にどう見えているかは分からないけど……。
 そんな、ラファエルさんがゼウス様の隣で申し訳なさそうにしていた。
 改めて認識すると、これだけの異様感、オーラがあるのにゼウス様の存在感にラファエルさんが居る事、気がつかなかったわ。神の存在感って半端ないな。
 
 「こんにちは、ラファエルさん。どういう事でしょうか?」
 「神ゼウスは、元からヤマトさんに興味があった事はご存知でしょうが……あの一件以来、より、ヤマトさんの事をお気に召したようで……常にヤマトさんの動向を注視していらっしゃるのです。なので、本日が引っ越し日だという事は……。」
 「もう、面倒くさかね。そういう事たい。」

 申し訳なさそうなラファエルさんを遮るように、ゼウス様は話を区切る。
 いや、面倒くさいとか、そういう事ではないのだけれど……。ストーカーか何かか??こちらとしては、正直、ゼウス様の存在自体が面倒くさい。

 「それよか、はよ、家の中に案内せんね。それに……さっきから、なんかよか匂いのするとばってん。何か食べよったと?」
 
 体を前のめりにし、鼻を鳴らす姿は神らしからぬ。それでも、威厳というか存在感は圧倒的。本当に訳の分からない人物だ。
 それに、俺には匂いなんてしない。キッチンダイニングで魔王様達が食べている鬼クジャクの天ぷらの事だろうか?
 流石にラファエルさんも居るから、お引き取り願うのも申し訳ないな。

 「すみません。気が利かなくて。中へ、どうぞ。今、少し遅めの昼食を食べているんですよ。ゼウス様達もお食べになりますか?」
 「へぇ~。何ば食べよったと?」

 ゼウス様はもう一度、同じ質問をする。余程、気になるのか? 

 「鬼クジャクの天ぷらとうどんです。」
 「私まで、よばれてよろしいのですか?」
 「もちろんですよ。ラファエルさん。」
 「こん世界じゃ、うどんば食うのは初めてばい。暑かけん、冷やしね?」
 「そうですね。夏ですからね。」

 魔王様達の時とたいして変わらない話をしながら、キッチンダイニングに二人を案内する。

 「ラファエルちゃん。何時ん時代も恋の一方通行は苦しかもんね。こげん、ワシが好いとるよ光線ば出しとるとに……。」
 「は、はぁ……。」
 
 キッチンダイニングのドアを開ける前に聞こえた、ゼウス様達のやりとりを無視し、俺はドアを開ける。
 そして、この時、ちょっとした修羅場になることを俺は知るよしもなかった。
 
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