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決められた運命

決められた運命 4

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 スティングは、手下が用意した椅子に座るなり、黒い鎧の男にたずねる。

 「ねえ。ガリウス、勇者はどの子だい?若い女だって話は聞いているのだが?」
 「旦那。あの血みどろのガキが、そうです。」
 
 ガリウスと呼ばれた黒い鎧の男は視線でララを指す。

 「ん~。なんだ?若いって……子供じゃないか……。それに、汚い。おい。誰か、あの子供を綺麗にしておくれ。」
 「へい。」

 スティングは手下に顎で指図する。
 エレノアは一瞬、「自分が『ウォッシュ』で綺麗にします。」と言いそうになったが、言えなかった。この国では、平民が貴族に許可なしで口を開く事すら出来ないのだ。

 「『ウォーターショット』」

 スティングの手下は、悪びれる事もせず、攻撃魔法をララに浴びせた。
 ララの体に水圧による衝撃が走り、付着していた血は吹き飛んだが、身は水浸しになる。
 聖剣に選ばれ、普通の三歳児とは比べ物にならない程、身体能力などは向上しているが、それにしても、非道い仕打ちだ。
 普通なら怪我をし、泣き出しているだろう。しかし、今のララは泣く事さえ出来なかった。涙も悲鳴も言葉も上手く出ないのだ。
 そして、それを見たスティングはつまらなさそうに言い。

 「ふん。何だ……。泣きもしないのか。つまらぬ。子供らしく、ピーピー泣けば良いものを……しかし。」

 晩秋に冷や水を浴びせられ、水滴が滴り落ち、震えるララの姿を見て、スティングの顔は、いやらしく歪む。

 「その、真珠のように美しい肌。宝石みたいに青く輝く瞳。ブロンドの髪も良いじゃないか。濡れた姿も幼女と思えない程、美しい。……ねえ。村長。」
 「は、はい!?」

 村長は突然、スティングに話し掛けられ、戸惑いながら返事をする。そして、スティングは村長に向かって話し掛ける。

 「ねえ、村長。この子が大きくなったら、さぞ、美しくなると思わないかい?」
 「はい!思います。それは、それは、美しい娘になる事でしょう。」
 「だよね~。ねえ?この子、僕が貰ってもいいよね?」
 「へ?」
 「へ?じゃないよ?貰ってもいいよね?って聞いてるの……。」
 「え?し、しかし……ララノアは、私の娘ではありませんし……。」
 「何言ってんの?君は、この村の村長さんでしょ?この村じゃ、誰も君の命令には逆らえないんじゃない??」
 「そ、それは……。」
 「な~に。今すぐっては言わないよ。勇者には、リヴァイアサンを倒してもらうって役目があるからね。その後なら、いいでしょ?僕達、寿命が、と~~~~っても長いじゃない?十年単位でも、百年でも待ってあげからさ~。ねえ?いいでしょ??」
 「しかし……。」
 
 村長が困惑していると、スティングは苛立ったように口を開く。

 「貴族の僕が『欲しい』って言ったんだから、民草は黙って差し出すんだよ!その命だろうが!何だろうがな!!」
 「は、はい!」
 「ははは。それで良いんだよ。君達は、黙って貴族である僕の言うこと聞いていればいいんだよ。これで、勇者ララノアとの婚約は決まったね。みんな、ありがとう。」

 スティングは勝手に話を完結させ、手下共は拍手や祝福の歓声を上げる。
 そんな異常な状態に呆気にとられたままの村長は、スティングい言われるまま、保護者であるエレノアとララ本人からの承諾もなしに、スティングとの婚約を結んでしまった。
 そして、ことはこれだけで終わらなかった。

 「ん~。勇者と婚約出来たのは良かったけどね。何か、今一つ、物足りないんだよね~。」

 スティングは村人全員を見渡す。そして。

 「よし!そこの若い女。」

 スティングはそう言い、身重の女性を指差した。

 「わ、わたくし、ですか?」
 「そう。君。君、今から、僕の物な。」
 「え?」

 身重の女性は意味が分からない。という表情でスティングを見る。

 「え?じゃないよ。さっきも言ったでしょ?君は、今から、僕の物。いい??」
 「しかし、わたくしには、夫も居ます。しかも、今、妊娠中です。このお腹を見て下さい。」
 「そ、そうです。この者は、現在、妊娠中ですぞ。」
 
 流石に今度は村長が止めに入った。

 「うるさいな。そんなの見れば分かるし、そんなの関係ないよ。民草の子供なんて、出る前に刈ればいいでしょ?お腹切って、中から出して、お腹に回復魔法かければ、それで終わりじゃない?そんな簡単な事も分からないの?」

 スティングは全く悪びれる事なく、さも当たり前のように言う。
 流石にその言葉には、誰もが奥歯を噛み締め、怒りを露わにする。そして、身重の女性の隣にいた男性が、スティングに食って掛かる。この女性の夫だろう。

 「あんた!ふざけてるんじゃないよ!!人の……子供の命を何だって思ってるだよ!!」
 
 その言葉に、スティングが一瞬、笑ったように見えた。しかし、直ぐに真顔になる。

 「ん?民草だろ??草と一緒だ。踏んでもよし。刈ってもよし。燃やしてもいいんだ。法で決まってるだろ?お前らは貴族様ある僕の言うことを聞いてればいいんだよ。おい。」
 「へい。」

 スティングは手下に命令し、身重の女性を無理やり抱え連れて行こうとする。

 「あなた!!」

 身重の女性は夫に助けを求めるが、夫もスティングの手下に羽交い締めにされて身動きがとれずにいた。

 「くそ!やめろ!離せ!!クーデリカを離せ!!」

 クーデリカと呼ばれた女性は、手下に拘束されたまま、スティングの後ろへ連れて来られる。それをみて、手下は夫の拘束を解いた。
 夫は怒りのあまり、手下に駆け寄るが、それをスティング自ら妨害をする。

 「そこをどけよ!どいてくれ!!」
 「ふふん。何で僕がどかないといけないのかな?」

 スティングはわざとらしく言う。
 その行動に夫はキレた。
 スティングを掴み、妻の名前を叫びながら、スティングを揺らす。
 その行動にスティングは冷ややかな表情で夫である男性を見下ろす。そして。

 「おい。民草。お前は誰に触っている?許可なしに言葉を発した事は見逃してやったんだが、誰が触る事を許可した?それだけでも重罪なのに、俺に暴力を振るうとは……死刑確定だな。」

 スティングがそう言った途端、スティングの周りに風は壁が出来たように見えた。そして、それに男性は吹っ飛ばされる。

 「ふん。お前のした事の罪深さを知れ。『ウィンド・ボルケーノ』」

 男性はとてつもない暴風に吹き飛ばされる。

 「ん~。飛ばし過ぎたかな。おい。」
 
 手下はスティングの合図で、男性をスティングの近くへ運び、何やら詠唱を始めた。

 「ほら、早く助けないと、お前の嫁は僕が貰っちゃうよ。」
 「……くそ!」

 男性は立ち上がり、スティングの元へ駆け寄る。しかし。

 「『ウィンド・ボルケーノ』」
 「ぐは!!」

 スティングにまた魔法で吹き飛ばされる。しかし、今度はそんなに遠くへは飛ばされなかった。壁にぶつかったようになる。
 どうやら、スティングの手下達が詠唱をしていたのは、障壁をはる為だったようだ。
 男性は障壁に打ち付けられ、暴風を嫌と言うほど浴びる。
 それでも、また立ち上がり、スティングの元へ近付く。そして、同じように暴風の魔法で吹き飛ばされる。それを、何度も繰り返す。
 夫はもう、立つことも困難な状態まで追い詰められた。

 「ん~。もう、お終いかい??少し、つまらないな。おい。」
 
 スティングはまた手下に命令する。
 手下達はあろうことか、公衆の面前で妻の服を切り刻み、全裸にしたのだ。

 「いやーーー!!」
 
 妻は胸などを手で押さえ、うずくまる。

 「ははは。お前たち。やり過ぎだよ。」

 そう言ったスティングの顔は笑っていた。
 その光景を見て、夫は動けないまま、意を決したようや表情を浮かべ、何やらブツブツと呟く。

 「『ウィンド・カッター』!!」

 夫はスティングに向かって、攻撃魔法を放ったのだ。
 しかし、その魔法は、スティングに届く事なく、風の障壁により相殺される。
 スティングはそれを見て、激昂する。

 「おい。民草。お前、僕に攻撃魔法を使ったな?殺すつもりだったのか?ええ!?民草が!!お前は完全に死刑だ!!!」
 
 明らかに、今までにない怒りに、妻はスティングにすがりつき、必死に泣きながら許しを請う。

 「申し訳ありません!スティング様!!わたくしはどうなっても構いません。ですから、ですから!!どうか!夫の命だけはお助け下さい。どうか!どうか!!お願いします。」
 「うるさいな。民草が。何なら、お前も殺してもいいんだぞ?ああ??」
 「『ウィンド・カッター』」
 
 夫はクーデリカとスティングが絡んだ一瞬の隙に攻撃魔法を放った。
 今度は、風の障壁に阻まれる事なく、スティングの肩に命中する。
 予想外の出来事だったのだろう。スティング一瞬、信じられないといった感じで動きが止まり、先程の比ではないほど、顔を真っ赤にし、激昂した。先程までの怒りは演技だったと言わんように。

 「貴様!!絶対に許さん!!八つ裂きにしてやる!!おい!剣をよこせ!!」

 スティングは手下にそう言い、剣を手に取り、しがみついたクーデリカを蹴り飛ばし、夫の元へ向かう。
 流石にララも、もう見ていられなかった。
 聖剣を手に、ララはスティング目掛けて走る。

 「やめるんじゃ!ララ!!」

 エレノアは必死にララを呼び止める。しかし、ララは振り向く事もせず、スティングに近付く。しかし。

 「おっと。ガキんちょ。おいたはダメだぜ。」

 黒い鎧の男、ガリウスがスティングまでもう一歩というところで邪魔をする。しかし、構わず、ララは聖剣を振るい、ガリウスに切りかかる。

 「おいおい。危ねえ真似すんなよ。ガキんちょ。」

 ガリウスはあっさりとララの攻撃を交わし、腹に一発、拳を入れた。
 ララはその一撃で意識が遠のいていく。

 「ガキんちょ、……………………………………………。」
 
 ガリウスの言葉は途中で聞こえなくなる。ララは意識をそこで失った。
  
 
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