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伝えたかった事。伝えたい事。

伝えたかった事。伝えたい事。8

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 「あら!あらあらあら。美味しいわ~。陸アナゴ焼きとは違って、フワフワしてる~。この、ダイコンおろしと天つゆとの相性も抜群ね~。」
 「うん。そうだな、母さん。こっちのフワフワした方が美味いな。甘味もこっちの方があるし、俺はこのソースっての付けて食べるのが好みだよ。」
 どうやら、一度蒸したやつの方が好評のようだ。確かに、何もしないで天ぷらにしたやつは、焼いたのと同じように少し固かった。案外、これならフライでもいけそうだな。
 「話なんだけどね。ヤマト君。」
 「はい。」
 「ヤマト君なら分かってると思うけど、君が以前、この世界に来た事のある事についてだけど、周りの人には内緒にしておいた方がいいと思うんだ。もちろん、ターニャちゃんや他の子はもう、知っているだろうけど。」
 まあ、そうなるよね。だから、女王様は俺の記憶を封印した訳だし。当たり前の事だろう。異端審問とかの組織もあるようだし。
 「そうですね。その事は口外しないようにします。」
 それを聞いて、二人は安心したような表情を浮かべる。
 「ありがとう。ヤマトちゃん。それでね。もう一つお願いがあるの?」
 他に何かあるのかな?
 「はい。なんでしょう?」
 「あのね。こんな事を私達がお願いするのも変な話なんだけど……。もう少しイリア達の事を見てあげて欲しいの。」
 「それはどういう事ですか?」
 「ん~。ヤマト君がどう思っているかは分からないんだけどな……俺達から見たら、少しイリア達からの一方通行のような気がするんだよ。気持ちが。君が、イリア達の事を嫌いだっていうなら話は分かるんだけどね。君はイリア達と家族になったって事は、それなりの好意は持っていてくれてると思うんだ。」
 「私目線だって、余計なお節介だっていうのも分かっているのよ。……。」
 
 ………そうだったのか。
 そう、見えていたのか……。
 やはり。と言うべきなのか……。
 話している途中の記憶があまり無い。
 イリアのご両親と話を終え、陸アナゴの天ぷらを揚げながら、俺は考えていた。
 まあ、確かに、戸惑っていたし、それが少し距離を置いていたように感じられたのかもしれない。と思う事はある。
 正直、いきなり、エルフは猪突猛進だ!とか言われてもね……。一目惚れは確かにあるけど、お互いが一目惚れっていうのはなかなかないと思う。
 そりゃ、好きだって言われれば悪い気はしないけどさ。
 それに、俺は若くなってるけど、中身はおじさんなのだ。おじさんの身からすれば、恋にも臆病になる。慎重になる。しかも、美人過ぎるエルフ五人からなんて、どう対象していいか分からない……。
 ならなんで家族になんかなったのか……。しかも、付き合うという過程をすっぽかして。いきなり同棲。イリアと同棲し始めた時は、最初、下心もあったけど、ターニャさんの存在に制御され、ララ、エリと増えていくと、どうも欲求は溜まるが、何も出来なくなった。
 もちろん、同棲も家族になる事を拒否すれば良かったのではないか……。そう頭をよぎる事もあるけど、断るという答えが、なぜか出てこなかった。アニメやゲームで憧れていたからなのか……。ハーレムってやつに。
 スティングの一件で、特別階級証なるものまでもらって、一夫多妻OKになってからは、階級証持ってるからOKって流れになったしな……。
 それで、イリア達と家族だ。って事になって後悔しているか?と聞かれたら、後悔などしていない。それどころか、一緒に居るうちに、俺自身がみんなに惹かれていっているのは分かった。
 ……あ、そうか。これが俺の答えか。流れにのるように好きだとか言った事あるけど、ちゃんと自分の中にそういう感情もあったんだ。だから、天界でイリア達が言ってくれた事が、凄く嬉しかったんだ……。
 そうだったんだ……。
 そう、自分の気持ちに気が付いたおっさん。しかし、こじらせたおっさんは更に考える。
 これがきっと、一番俺が気に掛かっている事だろう。
 イリア達は純粋なエルフで、長命種。しかし、俺は心臓が変わっただけで、他は人間。誰もが無責任に、長命になっているだろう。と言うけれど、正直、その確証はない。
 仮に、俺の体が若返っているから、寿命も延びているのかもしれない。と言う仮説を立てたとしても、それがエルフの寿命、1000年となるか?というのは分からない別の話だ。
 ……俺がイリア達とずっと一緒に同じ時間を歩んでいけるか、不安なのだ。
 
 
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