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確かなモノは闇の中……

確かなモノは闇の中……9

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 「ほら。刃ば返して戦うけん、重心がずれて戦いにくかやろうもん。慣れんこつばするもんやなかよ?」
 俺の打ち込む斬撃を、ゼウス様は宙を舞う花弁のように、ひらひらと鮮やかに交わし、繰り出される拳は俺の体を的確にとらえる。
 しかし、その拳に重みはなく、軽く衝撃を受ける程度だった。明らかな手加減。その気になれば、俺なんか一撃で終わるだろう。完全に遊ばれていのが、手に取るように分かった。
 「くっ!」
 「本来の峰打ちは、斬撃が当たる前に刃ば返すとばい?ヤマトは、元・勇者の子に剣技ば習いよるばって、あん娘っ子は、刀やなくて両刃の剣やけし、刀ば返した戦い方なんか習えんやろ?それに、使いよるとは木刀。そげんかとじゃ、何時ものように戦えんばい?刃ば戻しなっせ。だいたい、峰打ちで死なんと思っとるのがおかしかよね。金属で殴られるとやけん、下手したら死ぬばい。仮に斬られても、わしは死なんけん。安心しなっせ。」
 何だよ……俺達の稽古も覗き見してたのかよ。なら、エリとの体術も通用しないって事か?
 麗月を鞘におさめて、鞘を付けたまま戦うか悩んだが、俺はゼウス様の言う通り、刃を戻した。
 「うんうん。そっでよかたい。」
 俺は再び、ゼウス様に切りかかる。
 「よかよ~。よかよか。さっきよりも随分、マシになった。」
 ゼウス様の言葉とは裏腹に、状況は先程となんら変わらない。
 変わった事があるとしたら、俺ではなく、ゼウス様の方だ。繰り出される一撃が重くなった。
 このままでは、そう長くは体力が保ちそうもない。
 一か八か……。
 「『秘剣!鬼神三枚おろし!!』」
 俺は、俺に出来る最強の剣技を繰り出した。
 「お!おお!?」
 ゼウス様は少し驚いたような声を出してよろめいた。
 しかし、傷一つついていない。
 それでも!
 「まだだ!!」
 よろめいた、ゼウス様に追い討ちをかける。
 麗月を横に薙払った。
 よし!これは当たる!!
 そう思った瞬間。麗月を持った手に痛みではない衝撃とピキン!という嫌な音がし、それと同時に俺の視界に信じられないものが目に映った。
 麗月が折られたのだ。しかも、体勢を崩した手刀で。
 「ふぅ。なかなか危なかったばい。」
 ゼウス様はそう言い、何事もなかったように俺を蹴り飛ばした。
 まさか……そんな。麗月が折られるなんて……。
 万事休すか……。
 ……いや。俺にはまだ、これがある。
 折れた麗月を置き、唱える。
 「『石ツブテ』『必中』」
 慣れ親しんだ、スキル。もう、俺にはこれしかない。
 ゼウス様目掛けて、全力で投げる。
 しかし、ゼウス様はそれを手のひらから出した雷で相殺した。
 万事休すだ。もう打つ手がない。あったとしても、疾風の靴を使った突進攻撃だけだ。一直線の単純な攻撃は、いくら速くても、ゼウス様相手なら簡単に避けられてしまうだろう。
 落胆している俺にゼウス様は声を掛ける。
 「ふむ。なかなか楽しめたばい。でも、もうそろそろ時間やね。」
 そう言うと俺の視界からゼウス様は消え、代わりに俺の意識は朦朧とした。
 なにがあったんだ?
 「天使ちゃん。…………。」
 最後にゼウス様の声が聞こえ、俺は意識を失った。 
 
 
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