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忍び寄る足音

忍び寄る足音3

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 城で作った、ミノタンの肉巻き揚げは家でも大好評だった。
 そして、食後のデザートにイチゴのタルトを食べながら、イリアとターニャさんに今日の事を詳しく聞いた。
 「あれは、確実に神々の気まぐれ。でしたね。まるで区画整理でもしているかのようでした……。」
 イリアは目の前で起きていた状況を簡潔にそう捉えたようだ。
 「区画整理?」
 「はい。引かれた境界線も不自然なくらいにきれいに引かれていましたし、面積もかなりあると思われます。しかも、神々の気まぐれには珍しく、人的被害が出ないように境界線は集落を避けるように引かれていました。正直、何がやりたいのか……私達にはわかりませんでした。こんな事は初めてです。」
 ターニャさんはまだ思考を巡らせているのだろう。少し苛立っているように思われた。
 「でも、人的被害が出てない事は、喜ばしい事だろ?」
 「……うん。それは、私も……そう思う。」
 ララは俺と同じように人的被害が出ていない事を喜んだようだ。
 「主様。それだけなら、よろしいのですが……だからこそ、逆に、これから何が起こるか分からないという恐怖もあるのです。」
 「エリの言う通りです。ヤマト様。境界線の引き方を一つ変えるだけで、規模は拡大し、いずれは人的被害が出る事もあるのです。それに、今回、境界線内に入りましたが、モンスターの姿は見当たりませんでした。」
 確かにイリアが言う通りかも知れない。一気に境界線を広げられたら、人的被害も簡単に出るようになるだろう。それにして、イリア達、嵐の中に入って調査したのか。
 「モンスターが居ないと、どうなるんだ?」
 「ヤマト君。モンスターが居ないって事は、そのモンスターを倒したら、騒動がおさまるって可能性が一つ消えるの。神々の気まぐれでは、モンスターを倒したら、事態が収集するって事がよくあるけど、モンスターが居ないって事は、解決方法が今の段階では分からないって事を意味するのよ。騒動を起こしている元凶が分からないんだから。」
 アリシアはそう俺に説明してくれる。
 「……でも、モンスターが居なかった事って……今までに……あった?」
 ララは記憶の洗い出しをしているのか、顎に指を置いて、イリア達に確認するように言う。
 「いえ。私の記憶の中には、それに該当する事件はありません。」
 「そうだな。オレが知る限りでも、聞いたことがない。」
 「私も同じです。」
 イリア、エリ、ターニャさんにも経験のない事のようだ。
 「……だよね。私の記憶にも……ない。」
 ララも今回の事が、かなりの異常事態であると確信したようだ。
 「でも、モンスターが居ないなら、どうやって解決すればいいの?」
 アリシアはぼそりと呟く。
 確かに、そうだ。元凶が分からないなら解決のしようがない。
 俺は視線をイリアへ向ける。イリアは俺の視線に気付き、俺の言いたい事が分かったのだろう、首を横に振り言う。
 「今のところ、解決策は見いだせません。嵐がおさまるのを待つしかありません。拡大しないのを祈る事と、人的被害が出ない事を祈る事しか出来ないのです。」
 
 それから、三日後。
 嵐はおさまらず、イリア達は指を咥えて見ているしか無いことに悔しさを露わにしている。
 ただ、規模は広がる事はなく、人的被害もない。その事だけが救いだった。
 そして、ターニャさんがイリアより先に調査から城へ帰還した。
 「お疲れ様。どうだった?」
 俺は、あたたかい紅茶をターニャさんに渡す。
 「ありがとうございます。進展と言いますか……もう、木々が見当たりませんでした。嵐で薙ぎ倒されていたのは目の当たりにしていのですが……きれいさっぱり、跡形もありませんでした。本当に何がしたいのか分かりません。本当に、イリアお嬢様が言うように区画整理でもしているのでしょうか?」
 少し疲れ気味にターニャさんは呟くように言った。
 珍しいな。ターニャさんが疲れを見せるなんて……。
 熱でもあるんじゃないか?
 ターニャさんの額に手をあて、熱があるか確認する。
 「ヤ、ヤマト様?!」
 ターニャさんは少し驚いたようだが、大人しくなる。
 少し、あたたかい……か。
 「ターニャさん。少し熱があるんじゃないか?今日は先に帰って、休んだ方がいいよ。」
 俺はターニャさんにそう言う。
 「なんじゃ?ターニャよ。体調が優れぬなら、早よう言わぬか。ヤマトの言うとおり、今日は帰って休むがよい。」
 「かしこまりました。」
 女王様の言葉を聞いて、ターニャさんは城を後にした。

 そして、その日の夜。
 食事の時間になっても、ターニャさんの姿が見えない。それほど、具合が悪いのか?様子を見に行った方がいいな。
 「ちょっと、俺、お粥を持って、見に行ってくるよ。」
 俺はそう言い、ターニャさんの部屋に向かった。
 ドアをノックしても返事がない。寝ているのかな?
 トアノブに手をかけ、回す。
 どうやら、カギは掛かってないようだ。
 「ターニャさん。おじゃまします。体調はどう?」
 そう声を掛けて、中に入るが、中は真っ暗だった。
 寝ているのだろうか?
 「ターニャさん。お粥持ってきたよ。明かりつけるね。」
 魔石灯に点灯と言い、明かりをつけた。
 しかし、ターニャさんが寝ているはずのベッドには、人の気配がない。
 ……どういうことだ?
 ターニャさんは帰って来ていない??
 俺は一通り、部屋の中を見渡す。すると、机の上に紙が置いてある。俺はなぜか、それが気になり手に取る。
 『ターニャなる娘を返して欲しくば、一人でコーエンの洞窟、地下五階、ボスの間へ来られたし。なお、他の者にこの事を知らせれば、ターニャなる娘の命は無い。』
 え?!まさか、誘拐!?この家に入って??そんな事、出来るのか?窓も開いてないし……。
 と、とにかく、コーエンの洞窟に行かないと!!
 俺は麗月だけ手に取り、急いで家を出た。  
 
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