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忍び寄る足音

忍び寄る足音2

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 イリアと共に城に戻ったが、何やら慌ただしかった。
 「どうしたんでしょうね?私が先程来た時は、こんなに慌ただしくなかったのですが?」
 イリアが俺を迎え行っている間に、何かあったのか?
 「どうしましょうか?ヤマト様。厨房へ行く前に、ターニャか女王様に話を伺うべきかも知れません。」
 確かに、この慌ただしさは気になる。
 「そうだな。とりあえず、女王様のところへ行ってみようか。」
 俺達はひとまず、女王の間へ向かう事にした。
 
 「おお。ヤマトや。戻ったかえ?イリアから、水場に落ちたと聞いて心配しておったぞ。」
 心配してくれていたのだろう。安心し、俺を見るなり、女王様の細い目は、まさに棒線になった。
 そんなに心配してくれているとは思わなかった、もしかして、ターニャさんも俺の事を心配してくれていたのだろうか?
 ……って?あれ??何時も隣に居る、ターニャさんの姿が見えない。
 「女王様。何かあったのですか?ターニャの姿も見当たりませんが?」
 イリアもターニャさんが居ないのが気になったのか、何か嫌な予感でもしているのだろう。直ぐに本題へとうつる。
 「ふむ。我が国の北東部、ラマド王国との国境付近の村、ビデスで自然災害が発生したという報告を受けたのじゃ。」
 「自然災害ですか?」
 俺は思わず問いかける。
 地震か……。いや、地震ならこっちも揺れているだろう?一体、何があったのだろう?この世界に来て、初めて聞いたな。
 「うむ。大雨……いや、嵐か。」
 「人命はどうなっているのですか?」
 イリアは、一番重要な事を女王様にたずねる。
 「人に被害は今のところ、出ておらぬよ。報告を受けて直ぐにゲートで安全な場所へ避難させておるから。」
 そうか。良かった。
 「ターニャさんが、陣頭指揮をとったんですね。」
 俺はそう思い、そのまま口にした。しかし、女王様の口は重くる。
 その状況を理解したのだろう。イリアは言った。
 「神々の気まぐれ。なのですね。」
 「……うむ。」
 「ターニャが居ない時点で、何かあったのだと思いましたが、何があったのですか?」
 「まず、おかしいのが、一定の場所でしか嵐が起こっていない。という事じゃ?」
 どういう事だろう?一定の場所でしか被害がない。という事か?でも、それっておかしくない??大雨を降らせている雲は移動するわけだし。
 「そして、更におかしいのが、境界線が引かれている事じゃ。」
 「境界線?!それはどういう……。」
 「まんまじゃよ。境界線を引かれた……張られたと言うべきかの?ある境から、雨は降り込まない、風も吹き込まないのじゃ。全く、意味が分からん。」
 なんだそれ?そんな事があるのか??
 愕然とする俺に比べ、イリアは何か考えているようだ。そして。
 「女王様。私も現地へ行ってよろしいでしょうか?状況を確かめたいのです。」
 「うむ。そうしてくれるか。」
 どうやら、イリアも現地に行くようだ。それなら、俺も。
 「それならば、俺も。」
 イリアと女王様は顔を見合わせる。
 「時間が掛かるかもしれませんので、ヤマト様はお城へ残って下さい。」
 「そうじゃな。ヤマトは、ここへ残り、二人を労う料理を作ってたもれ。」
 ん~。なんか引っかかるけど……まあ、二人を労うのもいいかもな。
 「分かりました。それじゃ、俺は厨房へ向かいます。」
 俺は二人にそう言い、厨房へ向かった。

 厨房に着き、冷凍されたミノタンとミノテールを眺める。解凍はどうするべきか……何時もはターニャさんに任せっきりだったからな。どうやって解凍していたのだろう?自然解凍にしては早かったし、ドリップも出てなかった。
 ん~。魔法でも使ったのだろうか?
 「ヤマトさん、どうなさったのですか?」
 王宮料理人のダニスが考え込んでいた俺に声をかけてくれた。
 ちなみに、ダニスは男のエルフだ。言うまでもなく、イケメンでスタイル抜群だ。
 「いやね。ミノタンをどうやって解凍しようか考えてたんだ。何時もはどうやってるんだ?」
 元の世界だったら、ビニール袋に入れて、流水で解凍するというやり方もあるのだが、この世界にはビニール袋はない。
 「解凍ですか?それなら、この袋を使いますよ。」
 そう言い、ダニスは調理器具の入っている棚の引き出しを開けて、見慣れない袋を取り出した。
 色は青みがかっている。少し不気味かも。
 「それは、何て袋なんだい?」
 「これは、マーメイド袋って言って、サハギンの皮で出来ています。水を通さないんですよ。」
 マジか?!サハギンってゲームで聞いた事あったけど、この世界には居るんだ。
 「後は、この袋に入れて、流水に……っと。これでOKです。」
 おお……ビニール袋、そのまんまじゃないか。こんな便利な袋あるなら、教えてくれていいものを……。って、まあ、今更だな。
 いいアイテムも見つかった。これでいいや。
 「ありがとな。ダニス。」
 「いえいえ。ヤマトさんには何時もお世話になっていますので、これくらい容易いご用意ですよ。」
 ダニスはそういい、女王様の三時のおやつだろう。ケーキを作り始めた。
 よし!俺も、気合いを入れて作るか!!
 
 っと、思って気合いを入れたものの……さて……何を作ろうか?
 パーティーが終わってからというもの。毎日、毎日、ミノタンのビーフシチューを女王様は食べる。
 しかし、流石に食い過ぎたのか?今日は、ミノタンを使った違う料理が食べたいと言う事だった。
 しかも、今日もちゃんとギルドを通した、俺への依頼だ。依頼内容『ミノタンをとってきてたもれ~』と……。
 ん~。どうしようか?俺は揚げ物屋の店主だから、やはり揚げ物だよな。タンを揚げるには、どうするべきか……。
 せっかくのタンの塊。分厚く切って揚げるべきか……それとも……薄く切って、ミルフィーユカツみたいにしてみるか……あっ!そうだ!!どうせなら、野菜も食べれた方がいいだろう。薄く切って、肉巻き揚げにしてみよう!!
 俺は解凍されたミノタンを薄く切り、ネギなどの野菜を巻いて試しに揚げる事にした。
 ミノタン、ダンジョンでとれるからだろう。下処理とかしなくていいからいいわ。そのまま切って使えるし、大きい。
 何も巻かないやつと、後は、ネギ、ほうれん草……ニンジンなんかも良さそうだな、あっ!後はチーズも巻いてやろう。
 ほうれん草やニンジンは下茹でした方がいいな。
 よし!塩コショウをして、ころもをまとわせて、油の中へドン!だ!!
 肉の揚がる、いい匂いがする。そう言えば、パーティー以降、自分で揚げ物をしてなかった気がする。
 やっぱりいいな。揚げ物。
 良い色に揚がった、ミノタンの肉巻き揚げ。何も巻いてないやつを口にした。  
 んん!美味い。ころものサクサク感に、タンならではの食感。そして、巻いて揚げたからなのか、中は凄くジューシーだ。
 「お~い。ダニス。味見してくれ。」
 そう言い、ダニスの所へ行き、味見をしてもらった。
 「美味しい。……凄く美味しいですよ。ヤマトさん。特にこのチーズを巻いたやつ。ミノタンの濃厚な味わいに、チーズの濃厚さが更にプラスされています。身悶えするくらい、幸せな味が口の中に広がりますね。」
 エルフは何気に濃い味付けの物が好きだったりする。サラダとかサッパリとした物ばかり食べていた反動だろうか?
 俺として、梅肉ソースとかサッパリしたソースとからめたい。
 「良いよな。この、ニンジンとチーズの相性は完璧だ。」
 「ああ。食感もいいしな。酒にも合いそうだ。」
 他の料理人達も集まってきて、試食し感想を言ってくれる。
 どうやら、ミノタンの肉巻き揚げは大成功のようだ。
 
  
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