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スプリンティア開幕。そして……
スプリンティア開幕。そして……6
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翌朝。
クエンカ夫妻はキッパリ冒険者を辞めるため、ギルドへ行き、引退届を出すそうだ。そして、その後、店に来る予定だ。引退届の事はアリシアがよくしてくれるだろう。
そして、その間、俺とイリアは職人衆の所に新店舗の改築と新しい家を建てる為の相談に行くことにした。
新店舗の方はもう、外観も内装もほとんど終わっていたので、テイクアウト専用の入り口を無くしたくらいで終わった。二階は個室としてそのまま使う。
そして、問題の家だ。土地は元々かなりの広さだったが、更に買い足した。運が良いことに、周りは空き地ばかりだったので、貴族の家か?と間違いそうなくらいに広大になった。
立地的には、まあ、中心部から離れてしまったが、ギルドは近くなった感じだ。
建物もまさに貴族の屋敷並みの広さになる。当初の計画より住む人数も増えたし、これからも増えるだろうから広さだけは十分に取った。その分、貴族とは違い内装は普通だ。ただ、キッチン用具とお風呂は充実している。男は今のところ俺しか居ないが、増える可能性だってある。なので、男女別々に作った。
いや~。イリア達が稼いできてくれた八千万エルウォンも使いきってしまった。しかし、それでも、足りないので、またローンだ。頑張らねば。
意気揚々とイリアと帰宅し、少しだけ、クエンカ夫妻の仕事ぶりとララ、エリの教えぶりを見学し、俺達は王宮へと向かう事にした。
クエンカ夫妻宅は料理をサレンサさんが担当しているという事だったので、とりあえず、サレンサさんが今日は、からあげを揚げている。クエンカさんは接客担当だ。一週間で交代なのか、一日交代なのか、それはララ達に任せてある。最初は、交代交代で適性を見なくてはならない。案外、クエンカさんの方が上手かったりするかもしれないし、両方、料理が出来れば、後々、接客の人を雇ってもいいのだし、そこはクエンカ夫妻に任せよう。
ん?まてよ……よくよく考えたら、あれだな……俺が店に出なくて良いと言うことは……ダンジョンに行く為に休んでいた日も店を開けていいって事じゃないか?一日ごとに休まなくて良いという事だ。それは伝えなくちゃな。彼らも毎日働きたいかもしれないしな。
……あ!定休日も決めないと……これもクエンカ夫妻に任せるか……。
その事をクエンカ夫妻に話、俺達は城へ向かった。
「お待ちしておりました。ヤマト様。」
ターニャさんが、王室の前で待っていてくれた。
「ありがとう。ターニャさん。」
「いえ。それでは、これからの予定はどうなさいますか?」
「そうだな。女王様に挨拶をした後、早速、メニューを考えたいんだけど……。」
「かしこまりました。それでは、女王様への挨拶が終わりましたら、私とイリアお嬢様が業務を入れ替わります。」
ん?どういことだ??
「それは、どういことだ?」
「はい。イリアお嬢様は、料理の補佐が出来ません。なので、私がヤマト様のサポートを致します。その代わり、イリアお嬢様には、私の代わりに女王様のサポートをお願いしております。ヤマト様がダンジョンに食材を取りに行かれる場合などは、またイリアお嬢様と私は役目を交代致します。」
まあ、確かにイリアは料理すると食材をダークマターに変えてしまうからな……。
「心配しないで下さい。ヤマト様。私、試食なら出来ますから。その間、ターニャを頼みます。」
イリアがそう言うなら、いいか。
「分かった。ターニャさん、しばらくよろしくな。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。ヤマト様。」
気のせいか?ターニャさんは少し嬉しそうにしているようだった。
女王様に挨拶した後、俺とターニャさんは王宮の調理場へ向かった。
他の王宮料理人の方に挨拶を済ませ、調理室を一通り眺める。
流石に、俺が最初に来た時より、調理器具が充実している。俺の店より良いのが揃ってるよ。
職人衆に頼んだんだろうな。新店舗に置く調理器具まである。
「それでは、どうなさいますか?メニューをお考えになるとおっしゃいましたが……。」
「そうだな……正直、どうすればいいのか分からないんだよな。何を出そうか……。マーガレットが言うように、からあげを山積みにしても大丈夫そうだけどさ。パーティーって立食形式なのか?何人くらい来るんだ??」
そもそも、この世界のパーティー形式がどんなものが分からない。来賓の数も分からない。
「そうですね。今回は着座で人数は20名だと聞いています。小規模なもので、女王様と親しい方々がお越しになられます。」
そうか。椅子に座ってする食事と言うことか。
「そんな小規模でも、昨日の王宮料理が出るのか?」
「その通りです。王宮料理はアレしかございませんし。他国もほぼ同じです。肉が魚に変わるという事くらいでしょうか?」
なら、給仕の人が切り分けたりするって事か……。
女王様には揚げ物がいいというリクエストだったしな。切り分けるより、一品一品出す、コース料理のようにした方がいいかもな。冷めた揚げ物も出したくないし。
……さて、どうしたものか……。スープなんかも作らないといけないのだろうか……。
揚げ物にあうスープなんて、味噌汁とかしか思い浮かばないんだけど……。この世界、『悪魔の生き血』という醤油はあるけど、味噌は今、開発中なんだよな。揚げ物と切り離して考えいいのか……料理の全体の事も考えないといけないだろうし……冒険は出来ない……か。
ん~。正直、大ニワトリやエンジェルポークの丸焼きとミルクスープもかけ離れてたしな。あの、ミルクスープ、激マズなんだよ。
とりあえず、味噌汁が作れないんだから、澄まし汁とかになるのか……。思いっ切りぶっ飛んで、シチューでも出してやろうか……。ミルクスープでも、ちゃんと野菜なんかを煮込めば味も変わってくるし、塩だけじゃなく肉を入れたり、更にその肉の臭みを取る為にローリエを入れたり、コショウを入れたりしたら美味しくなるって事を教えた方がいいのか?
俺は考えながら、おもむろに冷蔵庫を開けた。
すると、そこには俺の見た事のない肉があった。いや、正確に言うと、元の世界では見たことがある。俺はこの肉が大好きだ。これまた正確に言うと部位だが。
「なあ、ターニャさん。この肉って何のタン?」
俺はターニャさんに指を指してたずねる。そう。俺が見たのはタンだ。牛が豚か分からないけど。
「タン?ああ……舌ですね。ミノタウロスの舌です。」
なんと!?ミノタウロスのタンだったとは!?
主のミノタウロスしか倒した事がなかったから、ミノタウロスのタン……長いので略す。ミノタンだったとは……。
お?もしかして、これをスープにしたら、いいんじゃない?試作品でミノタウロスのタンシチューにしたら、いいんじゃね??
あれだな。ルーとかないから、フォン・ド・ヴォーから作らなきゃならん。これだけで結構掛かる。もちろん、ビッグホーンの骨付き肉とかも用意しないといけない。これは、ダンジョンでは手には入らないだろうから……いや、ビッグホーン以外の牛系のモンスターからは取れるのだろうか?
「ターニャ。牛の骨付き肉ってダンジョンで取れたりする?」
「骨付き肉ですか?う~ん。」
ターニャさんは考える。そして。
「アシッドホーンからなら取れたはずです。」
初めて聞く名前のモンスターだな。
「それは、強いの?」
「ヤマト様のステータスならば倒せるでしょうが……オススメは出来ませんね。骨付き肉を何にお使いになるのか分かりませんが、大量に必要ならば時間も掛かると思います。お店で養殖のビッグホーンの骨付き肉を購入された方がよろしいかと……。時間もあまりございませんし、お店でアシッドホーンの骨付き肉を買うという案もございますが、それほど流通はしていないので、直ぐに大量に用意する事は出来ない可能性がございます。ギルドに依頼を出しても、厄介なモンスターなのでなかなか受けて貰えない可能性もあります。」
確かに、今日は試作品だから、量はそのまで要らない。でも、パーティー用となると量はいるだろう。ミノタウロスのタンも時間が掛かるのだろうか?
「ミノタンも集めるのに時間掛かる?」
「ミノタン?ああ……ミノタウロスの舌ですね。……そうですね。アシッドホーンより比較的、簡単に狩れますから、こちらはクエストをギルドに出せば問題はないと思われます。野生のミノタウロスの舌は固くて食べられた物ではございませんし。ダンジョンのミノタウロスの舌をお店で購入するより、依頼した方が安く手に入れられるでしょう。」
なら、とりあえず、今から店に行って、ビッグホーンの骨付き肉を買うか。他に入りそうなスジ肉も買わないとな。これも、ビッグホーンでいいだろう。
「よし。とりあえず、足りない食材を買いに行こうか。」
「分かりました。お供致します。」
俺とターニャさんはとりあえず、食材を買い足しに行くことにした。
買い出し中、ターニャさんはどこか機嫌が良かった。こうやって、ターニャさんと二人っきりで出掛けるというのも中々ないから、少し新鮮な気分で案外、楽しかったな。
そして、料理に取りかかる。その間、ターニャさんは俺の側から離れなかった。
……しまった。フォン・ド・ヴォー作るのに一週間掛かった。まあ、時間が掛かるものなのだから、仕方ないのだが……。
でも、良いものは出来た。ミノタンのビーフシチューだ。
とりあえず、ターニャさんや他の料理人には試食して貰ってOKも出たし、女王様達にも試食してもらおう。
俺は女王様達の元へ向かった。
「おお……なんと、よい香りか……。」
「ええ……素晴らしい香りですね。女王様。」
王室に入った途端。イリアと女王様はクンクンと鼻を鳴らし、ビーフシチューの匂いを察知した。国を代表する立場の女王様らしからぬ行動だけど、親近感を覚えるのは言うまでもなかった。
「試食を持って来ました。」
「うむ。一週間以上も何も持って来なかったから、妾、心配したぞよ。で、これは何という料理かえ?」
「はい。ミノタウロスの舌を煮込んだビーフシチューです。略して、ミノタンのビーフシチューです。」
「ほ~。ミノタウロスの舌とな……。妾、あれの焼いたやつ、大好物なのじゃよ。して、シチューというのは?」
「スープの一種です。」
「ほほ~。では、早速、頂くとしようか。のう、イリア。」
「はい。女王様。」
イリアは女王様が一口食べたのを確認して口に運んだ。
そして、次の瞬間。
「ぬおあ!?な、何という美味さじゃ!!これがスープだと!!!ミルクスープとは大違いではないかっ!!」
「はあ……。コクがあって、凄く旨味が凝縮されています。クリームシチューも凄く美味しかったですが、このビーフシチューもとても美味しいです。ミノタウロスの舌も、物凄く柔らかくで口の中でとろけてしまいそうです。」
「それな!それ!!まさに、イリアの申す通りじゃ。!!!」
そう言った後、二人は一心不乱に食べ始めた。
「このビーフシチューにはパンがよく合うんですよ。バケットとかロール……。」
「誰か!バケットを持って参れ!!それと、ヤマト、ミノタンのビーフシチュー、おかわりじゃ!!」
「私も!!バケットをお願いします!!ビーフシチューのおかわりもお願いします!!」
俺の話を最後まで聞かず、女王様達はバケットを頼み、おかわりを俺に頼む。どうやら、かなりお気に召したようだ。
試作品のミノタンのビーフシチューは、あっという間に無くなってしまった。
「……私、後でまた食べられると思って、楽しみにしてましたのに……。」
ターニャさんの悲しそうな表情は印象的だった。
ミノタンのビーフシチューが無くなったと知り、イリアはパンで皿に残ったビーフシチューを名残惜しそうにすくい取り、口に運ぶ。それを見た、女王様も真似をして、最後の一口を口に運んだ。
本当にエルフってその外見から想像もしないくらいに食べるわ~。
「ふむ。妾は大変満足じゃ。こんなに美味いスープは初めてじゃよ。ヤマトよ。これをパーティー出すと思っておいてよいのじゃな?」
お!どうやら、何も聞かずにOKが出たよ。
「女王様がよろしいのであれば、出したいと思います。」
「うむ。もう、ミノタンのビーフシチューとパンにケーキだけで良さそうな気がしてきてしまったわ。それ程、腹一杯に食いたいスープじゃった。」
え?それでいいの??それだったら、楽に終われるんだけど??
「それだと、ヤマト様の料理の素晴らしさが十分の一も、来賓の方々に伝わりませんよ。女王様。」
「ふむ。やはり、そうかえ?」
イリアは余計な事を女王様に言う。
もう!楽に終われるかも?って思ったのに!!イリアの馬鹿ちん!!
「ヤマトや。他に何か考えている料理はあるのかえ?」
気を取り直して……。
「はい。あります。ですが、女王様にお願いがあるのです。よろしいですか?」
ミノタンのビーフシチューを作る間に考えていた事がある。
「ほう。申してみよ。」
「はい。出来れば、来賓の方々の目の前で天ぷらをお出し出来ればと、思っているのです。」
「ほほう。天ぷらをとな……。確かに、アツアツの天ぷらは、恐ろしく美味じゃ。作る所を見られるのも新鮮で面白いやもしれぬな。」
「いかがでしょうか?」
「うむ。やってみるがよいぞよ。ヤマトや。」
こうして、パーティーで天ぷらを作る事になった。
クエンカ夫妻はキッパリ冒険者を辞めるため、ギルドへ行き、引退届を出すそうだ。そして、その後、店に来る予定だ。引退届の事はアリシアがよくしてくれるだろう。
そして、その間、俺とイリアは職人衆の所に新店舗の改築と新しい家を建てる為の相談に行くことにした。
新店舗の方はもう、外観も内装もほとんど終わっていたので、テイクアウト専用の入り口を無くしたくらいで終わった。二階は個室としてそのまま使う。
そして、問題の家だ。土地は元々かなりの広さだったが、更に買い足した。運が良いことに、周りは空き地ばかりだったので、貴族の家か?と間違いそうなくらいに広大になった。
立地的には、まあ、中心部から離れてしまったが、ギルドは近くなった感じだ。
建物もまさに貴族の屋敷並みの広さになる。当初の計画より住む人数も増えたし、これからも増えるだろうから広さだけは十分に取った。その分、貴族とは違い内装は普通だ。ただ、キッチン用具とお風呂は充実している。男は今のところ俺しか居ないが、増える可能性だってある。なので、男女別々に作った。
いや~。イリア達が稼いできてくれた八千万エルウォンも使いきってしまった。しかし、それでも、足りないので、またローンだ。頑張らねば。
意気揚々とイリアと帰宅し、少しだけ、クエンカ夫妻の仕事ぶりとララ、エリの教えぶりを見学し、俺達は王宮へと向かう事にした。
クエンカ夫妻宅は料理をサレンサさんが担当しているという事だったので、とりあえず、サレンサさんが今日は、からあげを揚げている。クエンカさんは接客担当だ。一週間で交代なのか、一日交代なのか、それはララ達に任せてある。最初は、交代交代で適性を見なくてはならない。案外、クエンカさんの方が上手かったりするかもしれないし、両方、料理が出来れば、後々、接客の人を雇ってもいいのだし、そこはクエンカ夫妻に任せよう。
ん?まてよ……よくよく考えたら、あれだな……俺が店に出なくて良いと言うことは……ダンジョンに行く為に休んでいた日も店を開けていいって事じゃないか?一日ごとに休まなくて良いという事だ。それは伝えなくちゃな。彼らも毎日働きたいかもしれないしな。
……あ!定休日も決めないと……これもクエンカ夫妻に任せるか……。
その事をクエンカ夫妻に話、俺達は城へ向かった。
「お待ちしておりました。ヤマト様。」
ターニャさんが、王室の前で待っていてくれた。
「ありがとう。ターニャさん。」
「いえ。それでは、これからの予定はどうなさいますか?」
「そうだな。女王様に挨拶をした後、早速、メニューを考えたいんだけど……。」
「かしこまりました。それでは、女王様への挨拶が終わりましたら、私とイリアお嬢様が業務を入れ替わります。」
ん?どういことだ??
「それは、どういことだ?」
「はい。イリアお嬢様は、料理の補佐が出来ません。なので、私がヤマト様のサポートを致します。その代わり、イリアお嬢様には、私の代わりに女王様のサポートをお願いしております。ヤマト様がダンジョンに食材を取りに行かれる場合などは、またイリアお嬢様と私は役目を交代致します。」
まあ、確かにイリアは料理すると食材をダークマターに変えてしまうからな……。
「心配しないで下さい。ヤマト様。私、試食なら出来ますから。その間、ターニャを頼みます。」
イリアがそう言うなら、いいか。
「分かった。ターニャさん、しばらくよろしくな。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。ヤマト様。」
気のせいか?ターニャさんは少し嬉しそうにしているようだった。
女王様に挨拶した後、俺とターニャさんは王宮の調理場へ向かった。
他の王宮料理人の方に挨拶を済ませ、調理室を一通り眺める。
流石に、俺が最初に来た時より、調理器具が充実している。俺の店より良いのが揃ってるよ。
職人衆に頼んだんだろうな。新店舗に置く調理器具まである。
「それでは、どうなさいますか?メニューをお考えになるとおっしゃいましたが……。」
「そうだな……正直、どうすればいいのか分からないんだよな。何を出そうか……。マーガレットが言うように、からあげを山積みにしても大丈夫そうだけどさ。パーティーって立食形式なのか?何人くらい来るんだ??」
そもそも、この世界のパーティー形式がどんなものが分からない。来賓の数も分からない。
「そうですね。今回は着座で人数は20名だと聞いています。小規模なもので、女王様と親しい方々がお越しになられます。」
そうか。椅子に座ってする食事と言うことか。
「そんな小規模でも、昨日の王宮料理が出るのか?」
「その通りです。王宮料理はアレしかございませんし。他国もほぼ同じです。肉が魚に変わるという事くらいでしょうか?」
なら、給仕の人が切り分けたりするって事か……。
女王様には揚げ物がいいというリクエストだったしな。切り分けるより、一品一品出す、コース料理のようにした方がいいかもな。冷めた揚げ物も出したくないし。
……さて、どうしたものか……。スープなんかも作らないといけないのだろうか……。
揚げ物にあうスープなんて、味噌汁とかしか思い浮かばないんだけど……。この世界、『悪魔の生き血』という醤油はあるけど、味噌は今、開発中なんだよな。揚げ物と切り離して考えいいのか……料理の全体の事も考えないといけないだろうし……冒険は出来ない……か。
ん~。正直、大ニワトリやエンジェルポークの丸焼きとミルクスープもかけ離れてたしな。あの、ミルクスープ、激マズなんだよ。
とりあえず、味噌汁が作れないんだから、澄まし汁とかになるのか……。思いっ切りぶっ飛んで、シチューでも出してやろうか……。ミルクスープでも、ちゃんと野菜なんかを煮込めば味も変わってくるし、塩だけじゃなく肉を入れたり、更にその肉の臭みを取る為にローリエを入れたり、コショウを入れたりしたら美味しくなるって事を教えた方がいいのか?
俺は考えながら、おもむろに冷蔵庫を開けた。
すると、そこには俺の見た事のない肉があった。いや、正確に言うと、元の世界では見たことがある。俺はこの肉が大好きだ。これまた正確に言うと部位だが。
「なあ、ターニャさん。この肉って何のタン?」
俺はターニャさんに指を指してたずねる。そう。俺が見たのはタンだ。牛が豚か分からないけど。
「タン?ああ……舌ですね。ミノタウロスの舌です。」
なんと!?ミノタウロスのタンだったとは!?
主のミノタウロスしか倒した事がなかったから、ミノタウロスのタン……長いので略す。ミノタンだったとは……。
お?もしかして、これをスープにしたら、いいんじゃない?試作品でミノタウロスのタンシチューにしたら、いいんじゃね??
あれだな。ルーとかないから、フォン・ド・ヴォーから作らなきゃならん。これだけで結構掛かる。もちろん、ビッグホーンの骨付き肉とかも用意しないといけない。これは、ダンジョンでは手には入らないだろうから……いや、ビッグホーン以外の牛系のモンスターからは取れるのだろうか?
「ターニャ。牛の骨付き肉ってダンジョンで取れたりする?」
「骨付き肉ですか?う~ん。」
ターニャさんは考える。そして。
「アシッドホーンからなら取れたはずです。」
初めて聞く名前のモンスターだな。
「それは、強いの?」
「ヤマト様のステータスならば倒せるでしょうが……オススメは出来ませんね。骨付き肉を何にお使いになるのか分かりませんが、大量に必要ならば時間も掛かると思います。お店で養殖のビッグホーンの骨付き肉を購入された方がよろしいかと……。時間もあまりございませんし、お店でアシッドホーンの骨付き肉を買うという案もございますが、それほど流通はしていないので、直ぐに大量に用意する事は出来ない可能性がございます。ギルドに依頼を出しても、厄介なモンスターなのでなかなか受けて貰えない可能性もあります。」
確かに、今日は試作品だから、量はそのまで要らない。でも、パーティー用となると量はいるだろう。ミノタウロスのタンも時間が掛かるのだろうか?
「ミノタンも集めるのに時間掛かる?」
「ミノタン?ああ……ミノタウロスの舌ですね。……そうですね。アシッドホーンより比較的、簡単に狩れますから、こちらはクエストをギルドに出せば問題はないと思われます。野生のミノタウロスの舌は固くて食べられた物ではございませんし。ダンジョンのミノタウロスの舌をお店で購入するより、依頼した方が安く手に入れられるでしょう。」
なら、とりあえず、今から店に行って、ビッグホーンの骨付き肉を買うか。他に入りそうなスジ肉も買わないとな。これも、ビッグホーンでいいだろう。
「よし。とりあえず、足りない食材を買いに行こうか。」
「分かりました。お供致します。」
俺とターニャさんはとりあえず、食材を買い足しに行くことにした。
買い出し中、ターニャさんはどこか機嫌が良かった。こうやって、ターニャさんと二人っきりで出掛けるというのも中々ないから、少し新鮮な気分で案外、楽しかったな。
そして、料理に取りかかる。その間、ターニャさんは俺の側から離れなかった。
……しまった。フォン・ド・ヴォー作るのに一週間掛かった。まあ、時間が掛かるものなのだから、仕方ないのだが……。
でも、良いものは出来た。ミノタンのビーフシチューだ。
とりあえず、ターニャさんや他の料理人には試食して貰ってOKも出たし、女王様達にも試食してもらおう。
俺は女王様達の元へ向かった。
「おお……なんと、よい香りか……。」
「ええ……素晴らしい香りですね。女王様。」
王室に入った途端。イリアと女王様はクンクンと鼻を鳴らし、ビーフシチューの匂いを察知した。国を代表する立場の女王様らしからぬ行動だけど、親近感を覚えるのは言うまでもなかった。
「試食を持って来ました。」
「うむ。一週間以上も何も持って来なかったから、妾、心配したぞよ。で、これは何という料理かえ?」
「はい。ミノタウロスの舌を煮込んだビーフシチューです。略して、ミノタンのビーフシチューです。」
「ほ~。ミノタウロスの舌とな……。妾、あれの焼いたやつ、大好物なのじゃよ。して、シチューというのは?」
「スープの一種です。」
「ほほ~。では、早速、頂くとしようか。のう、イリア。」
「はい。女王様。」
イリアは女王様が一口食べたのを確認して口に運んだ。
そして、次の瞬間。
「ぬおあ!?な、何という美味さじゃ!!これがスープだと!!!ミルクスープとは大違いではないかっ!!」
「はあ……。コクがあって、凄く旨味が凝縮されています。クリームシチューも凄く美味しかったですが、このビーフシチューもとても美味しいです。ミノタウロスの舌も、物凄く柔らかくで口の中でとろけてしまいそうです。」
「それな!それ!!まさに、イリアの申す通りじゃ。!!!」
そう言った後、二人は一心不乱に食べ始めた。
「このビーフシチューにはパンがよく合うんですよ。バケットとかロール……。」
「誰か!バケットを持って参れ!!それと、ヤマト、ミノタンのビーフシチュー、おかわりじゃ!!」
「私も!!バケットをお願いします!!ビーフシチューのおかわりもお願いします!!」
俺の話を最後まで聞かず、女王様達はバケットを頼み、おかわりを俺に頼む。どうやら、かなりお気に召したようだ。
試作品のミノタンのビーフシチューは、あっという間に無くなってしまった。
「……私、後でまた食べられると思って、楽しみにしてましたのに……。」
ターニャさんの悲しそうな表情は印象的だった。
ミノタンのビーフシチューが無くなったと知り、イリアはパンで皿に残ったビーフシチューを名残惜しそうにすくい取り、口に運ぶ。それを見た、女王様も真似をして、最後の一口を口に運んだ。
本当にエルフってその外見から想像もしないくらいに食べるわ~。
「ふむ。妾は大変満足じゃ。こんなに美味いスープは初めてじゃよ。ヤマトよ。これをパーティー出すと思っておいてよいのじゃな?」
お!どうやら、何も聞かずにOKが出たよ。
「女王様がよろしいのであれば、出したいと思います。」
「うむ。もう、ミノタンのビーフシチューとパンにケーキだけで良さそうな気がしてきてしまったわ。それ程、腹一杯に食いたいスープじゃった。」
え?それでいいの??それだったら、楽に終われるんだけど??
「それだと、ヤマト様の料理の素晴らしさが十分の一も、来賓の方々に伝わりませんよ。女王様。」
「ふむ。やはり、そうかえ?」
イリアは余計な事を女王様に言う。
もう!楽に終われるかも?って思ったのに!!イリアの馬鹿ちん!!
「ヤマトや。他に何か考えている料理はあるのかえ?」
気を取り直して……。
「はい。あります。ですが、女王様にお願いがあるのです。よろしいですか?」
ミノタンのビーフシチューを作る間に考えていた事がある。
「ほう。申してみよ。」
「はい。出来れば、来賓の方々の目の前で天ぷらをお出し出来ればと、思っているのです。」
「ほほう。天ぷらをとな……。確かに、アツアツの天ぷらは、恐ろしく美味じゃ。作る所を見られるのも新鮮で面白いやもしれぬな。」
「いかがでしょうか?」
「うむ。やってみるがよいぞよ。ヤマトや。」
こうして、パーティーで天ぷらを作る事になった。
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いちまる
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ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
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