上 下
145 / 201
アリシア

アリシア10

しおりを挟む
 「なぜ、バンシーの者が疎まれるか……。この世界が瞳の色で差別される事は知っておるじゃろ?」
 アルベダに聞いた事がある。
 「はい。少しですが……。」
 「ならば、話は早い。赤は、大英雄も居ったが、大犯罪者が居たからというのが起源じゃ。しかし、紫は何かあった訳ではないのじゃ。ただ、即死魔法が使える。ただ、それだけなのじゃよ。」
 「それは ……どういう意味ですか? 」
 女王様は何が言いたいのだろう?
 「うむ。簡単に言うとじゃな、バンシーは誰かの手によって疎まれる存在へと『作り上げられた』という事じゃな。」
 なんでそんな事を?
 「どうして、そんな事を?」
 「妾もそこまで詳しくは分からぬのじゃ。しかし、言える事は一つ。始まりは、政治絡みだった。それくらいじゃな。」
 「政治絡み?」
 「うむ。この世界はエルフ同士の大規模な戦争は起こらぬじゃろ?そして、宗教はあるが、それほど信仰されておらぬ。神にたいしてもそうじゃ。さほど信仰されておらぬじゃろ?」
 「……はい。」
 「モンスターと戦わないといけない。それ以外は一見、平和そうじゃ。」
 確かにそうだ。もめる事が無さそうだし。ボクは頷く。
 「しかし……じゃ。実際はそう上手くいかぬのじゃ。この世界には元々、階級制度、貴族制度があるじゃろ?」
 「はい。」
 「そんな法が出来た当初は上手く行っていたのじゃろうな。貴族は元々、力が強いから貴族なのじゃ。しかし、一般からも力の強い者が時より生まれる。これも当然の事じゃろ?その者は貴族のような働きをする。当然身分が違うのじゃから賃金や待遇は異なる。そうなると、自然と貧富の差や身分による格差が生まれるのは当然の事じゃろ?そうなれば、不平不満というのが生まれるのも当たり前なのじゃ。」
 「それがバンシーと何の関係があるのですか?」
 「うむ。そこじゃな。時の権力者達は考えたのじゃろう。貴族や自分達に批判や被害が出ないようにする方法を……。」
 「それがバンシーって事なのですか?」
 よく、意味が分からないのだけれど??
 「うむ。そうじゃ。これは生きるモノの真理、理の一つじゃろう。」
 「どういうことなのですか?」
 「蔑む事じゃ。正確にはその感情を利用したと言うべきじゃな。」
 「……え?」
 蔑む事?人を下に見るって事??
 「これは、命、思考のある生き物ならば産まれながらに持ち合わせている感情の一つじゃろう。犬ですら持っておる感情じゃ。このような感情、無ければよいのじゃが、実際は無いといけぬ感情なのじゃ。この感情の対の感情、敬うという感情も存在せぬようになる。上下関係もこのような感情がなければ形成出来まい。」
 確かにそうだろうけど……。
 「現に我々エルフも、その感情がなければ、生きていけぬのじゃ。統率も取れずに好き放題になるやも知れぬ。その感情がなければ、悔しくて、見返してやろうと奮起する事もない。反骨精神など存在せぬようになるのじゃ。まあ、その感情がなければ、身分差別など起こらぬのじゃがな。」
 「そんな……みんな、平等にならないのてすか?そんなの、悲しすぎます。」
 そうだよ。みんな、平等なら幸せなんだよ。
 「アリシアよ。この世の中に平等などというモノは存在せぬ。この世の中は理不尽、矛盾で溢れておる。それは幼いおぬしでも知っておるじゃろ?」
 それは……知ってる。両親にバンシーだからと虐げられてきた……だから、平等でなければダメなんじゃない!
 「おぬしの気持ちは分かる。しかしな、何もかも平等な世界など愛する価値もないのじゃ。その世界には希望も欲も何も生まれない。おぬしの夢や目標も生まれぬじゃろう。ただ生きるだけ、怠慢で怠惰な世界になってしまうのじゃ。」
 「でも、争いは無くなる、差別は無くなるのじゃないのですか?何もかも平等な世界なら。」
 そうだ。平等なら差別なんて起きない。
 「うむ。そうやもしれぬ。しかし、生きる希望のない世界など、生きていて何が楽しい?欲のない世界など、存在しても意味はないのじゃ。もし、全てが平等な世界などあるとしたら、それは完全に規制された世界じゃろうな。そうじゃ、例え話をしよう。この先、おぬしが大きくなり、恋をするとしよう。おぬしはどうしてもらいたい?希望はあるじゃろ?」
 そ、それは……考えた事なんてないし……そんか経験もしたことはない。
 「そ、それは分かりません。恋なんてしたことありませんし……アルベダから、少しは聞きましたけど……。」
 「ふぉっふぉっふぉっ。可愛いのぅ。しかしじゃ、何もかも平等な世界では恋人を選ぶのも他人任せになるやもしれぬ。『はい。この人があなたの恋人。そして、この人があなたの恋人。』と平等の名の下に勝手にあてがわれたらどうする?どうして欲しい?という感情すらわかぬじゃろ?選ぶ権利も選ばれる権利もない。好きになって思いを告げる権利もないのじゃ。仮にそれでお互いが好き合っても、キスをするのも平等。抱きしめあうのも平等。回数制限され、何でも制限がつく。恋人に会う回数さえも制限されるじゃろう。そんな下らぬ世界、愛せるはずもなかろう?……おや?話がもの凄い方向へ脱線してしまったのぅ。」
 確かに、女王様の言う通りなのかもしれないけど……。
 「バンシーの事じゃが、時の権力者達は思ったのじゃろうな。不満の矛先を自分達からそらす事をな。」
 「そらす。とおっしゃっても……そもそも、なんでバンシーなのですか?」
 「うむ。生半可な能力の者では、プライドの高い我々エルフは納得せぬじゃろう。そうなると、赤か紫。赤じゃと直情的な者が多く反乱を起こされる危険性があった。紫は自制心が強く、御しやすいと思ったのじゃろう。紫が蔑む対象になったのじゃ。」
 そんな……でも、そんな事で矛先は変わるものなの?いや、現にそれで今があるから、上手くいったと言う事なの??
 「それだけで、上手くいったのですか?」
 「いや、最初は上手くいかなかったようじゃ。我々エルフは同族愛が強いじゃろ?昔のエルフは更に強かった。なので、赤は悪事を働く者が多かったから、敬遠されておったようじゃが、紫は嫌われておらぬかったようじゃ。しかしな、ある事がキッカケで変わり始めたのじゃ。」
 「キッカケ?」
 「うむ。キッカケじゃ。」
 どんな事があったのだろう?
 「何があったのですか?」
 「うむ。それはな……『バンシー』という名前をつけられたからじゃ。」
 「え?それだけ?!」
 「うむ。それだけじゃ。しかしな、アリシアよ。名というのは重要なのじゃよ。愛着だけではなく因果を生んだりするのじゃ。例えるなら、『勇者』が分かりやすい。『勇者』と名を与えられたなら、その者の運命はほぼ決まる。三大厄災を鎮める為に人生を捧げなければならなくなるのじゃ。『勇者』以外は三大厄災を鎮める事は出来ぬ。『勇者』という名を与えられた日から運命は決まるのじゃよ。それほど、名というのは重要なのじゃ。それで、バンシーの話に戻るが、アリシアよ。バンシーの名の由来を知っておるか?」
  バンシーの名の由来?そんなものあるの??
 「いいえ。知りません。何か由来があるのですか?」
 「うむ。バンシーとはな『死を告げる妖精』の名なのじゃよ。」
 え?死を告げる妖精??それって、死属性にちなんでつけられた?
 「それは、もしかして、死属性の魔法が使えるからですか?」
 「うむ。その通りじゃ。偶然つけられたのか、狙ってつけられたのかは分からぬが、名がついた事で事態は少しずつ変わっていったのじゃ。前にも言ったように、エルフは長命ゆえ、一瞬で死に至らしめる即死魔法を恐ろしく思うのじゃよ。それが、バンシーという忌み嫌われている妖精の名と合致して相乗効果を生んだ。それに便乗し、時の権力者達が凶悪事件の犯罪者をバンシーがやったと偽ったのじゃ。最初は細い糸のように切れたかも知れぬが、幾重に放たれた細かった糸は絡み合い、もつれて合って、長い年月をかけてほどけぬようになったのじゃ。そして、現代に至る。今でも、凶悪事件をバンシーが起こしたとデマを流す国さえ存在するのじゃ。その根は深いのじゃ。」
 「そんな……それじゃあ、ボクが描いている夢は?目標は??」
 そうだ。そんな事が続くのなら、ボクの目標なんて叶いっこないよ。
 「そうじゃな。叶わぬかもしれぬな。しかしじゃ、妾は可能性を見つけた。この問題を解決する可能性をな。」
 「可能性?」
 「そうじゃ。可能性じゃ。それは、ほんのわずかな可能性じゃがな……。しかし、妾は確信しておる。この小さな可能性がいずれ芽吹く時をな。それには……おぬしの助力が必要なのじゃ。アリシア!……いや、今は止めておこう。いずれ、おぬしも気付くはずじゃ。ただ、託そう。バンシーとは、作られたものじゃ。死属性の魔法は覚醒せねば使えぬ。この事を覚えておいてくれ。」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...