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アリシア

アリシア8

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 あれから結局、泣き止んだ後。ショートケーキを五つ食べて、ホットミルクを三杯飲んだ。
 その間、ボクは雛鳥の気分を体験していた。もちろん親鳥はイーシャさん。もう、食べれない。飲めない。とギブアップするまでフォークとマグカップはボクの前を忙しなく行ったり来たりした。
 美味しかったから良かったのだが、正直、お腹一杯に食べた事はなかったから、食べ過ぎて気持ちが悪い。という経験は初めてだ。ショートケーキとホットミルクはしばらく見たくないかも……。
 そして、ボクがギブアップをした時、頃合いを見計らっていたかのように、少年がボク達の前に現れた。
 「待たせてすまなかったね。女王。」
 「よいよい。おかげで面白いものも見れたしの。こちらこそ、急に押しかけて申し訳ないのぅ。魔王よ。」
 え?この方が、魔王様?!ボクより少し年上にしか見えないけど?!で、でも、なんかオーラ?って言うのかな?独特の雰囲気みたいなものがある……。
 「おや?綺麗な瞳のかわいい子も一緒かい?」
 魔王様はボクの視線に気がついたようで、ボクに向かって、ニッコリと微笑む。
 「は、はじめまして。アリシアと申します。魔王様。本日はお目にかかれて大変光栄でっしゅ。」
  ま、また、かんじゃった。偉い人と喋ると緊張するのかな?
 「ははは。そんなに緊張しなくてもいいよ。本当にかわいい子だね。」
 「じゃろ?かわいいじゃろ??して、急かすようで済まぬが、ちと、妾の頼みを聞いてもらいたいのじゃ。」
 「ん?何だい??だいたいの察しはついているけど。」
 「ふむ。それなら、話は早いな。すまぬが、塔に……そうじゃな、ワイバーンを召喚してもらえぬか。」
 「ワイバーンをかい?」
 「ああ。ワイバーンじゃ。これくらいは、今の状態でもやれるじゃろう。」
 女王様はボクの方にチラッと目線を送る。
 え?な、なんの話??ワイバーンを塔に召喚するとか??それに、女王様がボクを見たのが気になる。
 「分かった。少し待ってくれ。」
 「すまぬな。」
 そう言い、魔王様は応接間を後にした。

 数分後。
 「待たせたね。準備が出来たよ。」
 「うむ。ありがとう。それじゃ、アリシアよ行くかの。」
 え?行くって、王都へ帰るのかな??
 「王都へ帰るのですか?」
 「ん?いや、塔へ行くぞよ。この敷地内にある塔じゃ。この屋敷を出れば直ぐじゃ。」
 へ?塔??もしかして、さっきワイバーンがどうこう言っていた??
 「僕も着いていっていいかな?」
 「ああ。もちろんじゃとも。」
 え??ボクが塔??なんで??
 「な、なんで、ボクが塔なんかに??」
 「ふむ。それは、おぬしがバンシーの力に目覚めておるか確かめる為じゃよ。まあ、行けば分かる。」
 バンシーの力?どういうことだろう??
 ボクはよくわからないまま、女王様達と塔へ向かった。

 塔、二階。
 目の前にはもう、ワイバーンが威嚇するように声を上げていた。
 幸いな事に、この二階は天井がそんなに高くなく、竜種の中の一つ、飛竜種のワイバーンは、空を自由に飛ぶ事も出来ない状態。
 そして、なぜか襲い掛かろうにも、それが出来ない。不思議な状態。いや、どちらかというと、後退りをしていた。
 「ふむ。アリシアよ。おぬし、頭の中に、見知らぬ声が流れ込んできた事はないか?魔法の呪文のような言葉じゃ。」
 呪文のような言葉??アルベダには、魔法もいくつか教えてもらったから、そんな言葉が頭の中に流れ込んできたら、分かると思うんだけど……。
 「おぬしが、父に襲われた時とかな。そんな時に不思議な体験はしなかったか?」
 あ!それなら、ある。あの言葉の事だ。
 「はい。それなら、分かります。」
 「ふむ。アリシアは、魔法は使えるか?」
 「ファイヤーボール程度なら……。」
 アルベダに、他に教えてもらっているけど、そんなに上手くは使えない。少し、自信があるのはファイヤーボールくらい。
 「うむ。よろしい。ならば、魔法を使う時のコツはしっておろう?」
 雑念を捨てて集中する事。イメージする事。
 「はい。それは分かります。」
 「うむ。ならば、魔法を使う要領でその言葉を口にしてみよ。言い終わればまたアタマに声が届くはずじゃ。そうしたら、その言葉を口にするのじゃ。ワイバーンめがけてな。」
 ようは、魔法を使え。という事ね。
 「『黒は闇に万物を呑み込み 白は光に万物を打ち消す 生は混沌を生み 死は秩序に安寧をもたらす 死は汝を救うだろう 死は汝を許すだろう』」
 ボクは魔法を使う要領で集中しながら、この前、頭の中に浮かんだ言葉はを口にする。どんな魔法か分からないからイメージは出来ない。しかし不思議なもので、言葉はスラスラと当たり前のように出た。そして、それを言い終わった後。
 「『デスホーリーフェザー』」
 勝手に言葉がこぼれる。
 すると、左右が白と黒に色が分かれた羽根が空から舞い落ちる。そして、それがワイバーンに触れる。その瞬間、ワイバーンは動きを止め、ドスンと鈍い音を立て倒れ込み、魔石へと変わった。
 「ほほ~。凄いものじゃ。この年齢でワイバーンを一撃とは。予想していたとはいえ、想像以上じゃな。これなら他の竜種でも倒せたのぅ。」
 「うん。これは凄い力だね。この子程の能力を持った子を僕は見たことがないよ。」
 「ふむ。もし、このまま成長すれば、妾を殺しえる力を手に入れれるやもしれぬな。」
 「そうだね。僕を殺す事は不可能だけれど……この世界でナンバーワンになれる才能はあるね。」
 そ、そんな。女王様を殺せる力なんて……。 
 「なあ、アリシアよ。おぬしは、妾を殺したいと思うかえ?」
 な、なんて直球な質問をいきなり!!
 「いえ、女王様はボクを救ってくれました。ご恩はあれど、殺すとかそんな事は思いません。」
 「なら、僕を殺したいと思うかい?」
 ええ?!なんで魔王様まで??さっき会ったばかりなのに、何て質問してくるのよ。
 「魔王様も殺したいとは思いません。それに……ボクは人を殺したいとは思いません。両親の事は別として……。ボクはあんなエルフに成り下がる気もありませんし………そんな事をしたら、アルベダに申し訳がたちません。ボクはアルベダの分も生きて、ここ世界に瞳の色による差別を無くしたい。そう思っているんです。」
 そうだ。ボクには目標があるんだ。少年ゼセンタのように国は救えないけど……変える事は出来るかもしれないんだ。
 「ふぉっふぉっふぉ。すまぬ。すまぬの。アリシアよ。意地の悪い質問をしてしまったな。ゆるしてたもれ。」
 そう言い、女王様は少し考え、また口を開いた。
 「決めたぞ。魔王よ。妾もアルベダ同様、アリシアに託してみようと思う。」
 「へぇ~。いいと思うよ。僕は。」
 何やら二人は納得している様子。それに何?託すって??
 「うう。そうと決まれば、ここに用はないな。寒いから、早く屋敷に戻るぞよ。話はそこでじゃ。」
 女王様はなぜか嬉しそうにボク達を急かすのだった。
  
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