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魔王様、おじゃまします

魔王様、おじゃまします9

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 連休も後2日か~。
 俺は魔王様宅の温泉に浸かり、あっという間に過ぎる休みを思い返していた。
 ちなみに、露天風呂だ。混浴ではなく、男湯と女湯が分かれている。イーシャさん達は10人居るのだから、女湯は必然的に男湯のより広いらしい。
 「ここの温泉は凄く気持ちいいし、もっと居たい気分だ。」
 「それは嬉しいね。」
 「魔王様……。」
 魔王様は風呂に入ってくる。
 「キミさえよければ、ずっと居てもいいんだよ?僕は大歓迎さ。」
 「ありがとうございます。居たいのはやまやまなんですけれど、俺もお店がありますから。」
 「ははは。分かっているさ。でも、何時でも遊びに来るといい。歓迎するよ。」
 俺はもう一度お礼を言った。
 「どうだい?残り日数は少なくなっているけれど、あと一つのメニューは考えついたかい?」
 案外、魔王様は食べる事が好きみたいだ。
 「そうですね。あの、ホクホクグマの肉を使ったメンチカツを作ろうと思っています。」
 「へぇ~。メンチカツという食べ物があるんだね。どんな食べ物なんだい?」
 魔王様は興味津々だ。
 「ミンチにした肉にキャベツやタマネギなんかを入れて成形して、ビフカツみたいに揚げるんですよ。これなら、バリエーションも豊富に作れると思うんですよ。ころもに、粉にした悪魔の実を混ぜても、肉に混ぜてもいい。中にチーズとリンゴを入れても美味しいはずです。それに、タケノコやレンコンなんかもいいかもしれません。それを入れて食感をプラスしても良いかも知れませんね。」
 「いいね。いいね。実にいい!想像しただけでよだれが出そうだよ。ところで、レンコンやタケノコというのは何だい?」
 あれ?この世界にはレンコンやタケノコはないのか?
 「ハスや竹はありますか?」
 「ハス?竹?ハスの花に竹かい??あるにはあるが、ここでは育たないよ。ここは寒すぎて。レンコンとタケノコというのは、ハスの花と竹が必要なのかい?」
 やはり、予想はしていたが、ここではレンコンやタケノコは手に入らないか……。
 「その、レンコンやタケノコというのは、どんな食感なんだい?」
 どうやら、魔王様は気を使ってくれているようだ。
 「コリコリ。シャキシャキ。といったところでしょうか?」
 「ん~。コリコリ……シャキシャキ……ねぇ。」
 魔王様は考えは始めた。

 それから、数分後。
 突如、魔王様は変な事を口にし始めた。
 「ところで、キミは本当に紳士なのかな?」
 「え?どういう事ですか?」
 俺は自分を紳士なんかと思った事は一度もない。
 「いやね。キミはここ数日、隣に女湯があるというのに覗こうとしないじゃないか?同じ時間にイリアちゃん達も入っているというのに。それどころか、聞き耳すら立てようとしない。女の子に興味がないのかい?それともエルフはお嫌いかい?それとも、男色なのかい??」
 いやいや。覗きは犯罪ですよ?声は大声なら聞こえてくるし。昔なら多少は大目に見てもらえたかもしれないけど、現代社会では大変な事になりますよ。
 「魔王様。俺は男色じゃないですし、女の子にもエルフの子にも興味はありますよ。でも、覗きは犯罪ですし、今のご時世、捕まったら、大目にはみてもらえませんよ。家族みたいな関係だとしても犯罪ですよ??」
 魔王様は分からないな?というように首を傾げる。
 「……ヤマト君。ここは人間界ではないのだよ?エルフの世界だ。人間界と同じ法律があるとは限らないのだよ?」
 え?そうなの??覗きOKな世界??
 いや……でも、待てよ。覗きOKなら、なぜ銭湯にあんな頑丈な壁がある?見られて良いのならば壁は要らないはず……。
 「キミは何を迷っているのだい?覗きと言えば男のロマンだろう?」
 魔王様は誘惑の言葉を口にする。
 いやいや。覗きはダメ。絶対。ロマンと聞くだけで犯罪臭はプンプンするんですけど?
 「僕は何時も覗いてるよ?内緒なんだが、実は柵に覗き穴を二つ空けているんだ。キミになら教えてあげてもいいんだ。向こうからは決してバレやしない。」
 更に魔王様は俺を誘惑するように言う。その声には、人を酔わせるような、そんな感覚まである。
 「なんなら、僕も一緒に覗こうじゃないか?それなら、大丈夫じゃないかい?」
 ニンマリと不適な笑みで、魔王様は悪魔のように最後の一押しをする。
 そして、その言葉に俺の心の壁は崩れ去った。
 「い、一緒にですよ??」
 魔王様は頷き、俺は魔王様の案内で穴の元へ静かに向かう。
 すると、今まで聞こえなかった、イリア達の声が聞こえてくる。イリアの姿は湯煙であまりハッキリと見えない。
 「なあ、イリア。本当に主様との関係はないのか?」
 「あなた、ここに来てから毎晩、お風呂の度にその事を聞いてきますね。」
 「……私もそれ……気になる。」
 「そうですね。イリアお嬢様。私はそれが毎晩気になって眠れません。」
 何の話しだろう?俺はあまり見えないながらも必死に見ながら、聞き耳を立てる。
 「あんた、オレ達より長く主様と一緒にあの部屋に住んでいるじゃないか?それで、何の関係もないのはおかしくないか?」
 「……私もおかしいと思う。普通の男性なら、何かしてくるはず……。」
 少しの沈黙が流れた後にイリアが口を開く。
 「な、何もありませんよ。……たまに頭を撫でて頂ける程度です。」
 そして、また少し沈黙が流れエリが口を開いた。
 「あ~。あれかい?やっぱり、主様も大きい方が好きなのだろうね?」
 「……エリの立派。」
 ララの言う立派は胸の事だろう。
 「り、立派って?!」
 イリアはエリの言葉に何か返そうとする。しかし、後の言葉が出てこない。
 「なーに。ララのも立派さ。形も綺麗だしな。……それに、この大きな傷はリヴァイアサンと戦った時の傷かい?」
 「……うん。エリのこの傷は?」
 ララがそう言った後、不思議と湯煙は晴れてイリア達の姿は露わになった。
 イリアは小ぶりの胸を見ながら俯いている。その身体には傷一つなかった。
 一方、ララやエリの身体には無数の傷が刻まれ、以外にも、ターニャさんの身体にも複数の傷が見て取れた。
 今まで、鎧や服を着ていたせいか、分からなかった。
 当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。身体に傷がついていない方がおかしい。イリアは魔術師として後方からの攻撃が多く、直接に傷を負う事は少なかったのだろう。それに、あの魔力だ、敵に近寄らせる前に殲滅したのだろうし、補助魔法も強そうだ。ギルドカードに記載されている、耐久の数値を見れば三人の差は一目瞭然だ。
 「この傷は『黄昏のキマイラ』から受けた傷さ。……オレらは、普通の女とは違う……。身体中、傷だらけさ。女らしさもない……。せっかく、こんな温泉にも来たんだ。主様のお背中くらい流して差し上げたいけど、この身体じゃね……。それに、オレなんかに流してもらっても、主様は嬉しくないだろうしさ。」
 「……うん。この傷だらけの身体じゃ、マスターには喜んで貰えない。……だから、イリア。マスターのお背中流しに行って……。」
 「それは、いけません!」
 勢い良く反対の意見を言ったターニャさんとは別に、二人は気落ちした声でそう言う。しかし、イリアの声も沈んでいた。
 「私は……私のは、三人みたいに立派じゃない。こんな小さな胸では、ヤマト様を喜ばせる事なんて出来ない……。」
 そんなの、関係ない。傷があっても、小さくても関係ない。そう思った時、なぜか俺の後ろで『バン!!』と大きな音がした。
 「……誰?!」
 ララがそう言うと同時に覗き穴に向かって拳が飛んで来た。
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