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楽しい休日。だったはずなのに?!

楽しい休日。だったはずなのに?!1

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 ララノア・ニールベル。勇者殿の名前だ。
 「私は……もう勇者ではありません。聖剣も役目を終えて眠りにつきましたし……今日からは……マスターのお店の従業員です。改めまして、ララノア・ニールベルと申します。よろしくお願いします。親しい人は、ララと呼んでいるので、ララとお呼び下さい……。」
 あの日、ララに助けられた日。アミッドの洞窟を出た後、ララは改めてそう言った。
 そして、俺はその日、また幸運にも『猛牛の宝玉』を探し当ててしまった。そこから、話しは急展開をむかえる。
 アミッドの洞窟で手にした『勲章』と『猛牛の宝玉』はミノタウロスを倒したララに……と、渡したが、ララは『猛牛の宝玉』の受け取りを拒否した。そこから、押し問答が始まる。
 そして、しばらく押し問答をした後、元・勇者殿はポツリと、名案だと言わんようにこう言った。
 「……マスター。どうせなら、『猛牛の宝玉』を売って……新しいお店を建てる頭金にしましょう……。」
 はい?この子はいきなり何を言い出すのかね?俺はそう思った。しかし……。
 「ララ。それは良い案ですね。」
 元・王宮魔術師は、あっさりとその提案にのる。
 まじかよ?この子達……。エルフはたまに突拍子のない事を言う。俺はそう改めて思った。
 「お、おい。いきなり新しい店だなんて……。しかも『建てる』だぞ?『借りる』じゃなくて……。だいたい、いくら掛かるんだよ?」
 俺の答えに、元・勇者殿と元・王宮魔術師は顔を見合わせ、お互い首を傾げる。
 「それは私達にも分かりません。普通の住宅と店舗、また店舗兼住宅ならば話しは違ってきますし、まずは不動産屋に行きましょう。」
 元・勇者殿も、これに賛同するように何度も頷く。そして、ギルドでクエスト完了の報告と納品を済ませ、その足でそのまま不動産屋へ向かった。
 
 そして、それから1ヶ月後。
 俺は『猛牛の宝玉』を売ったお金、300万エルウォンを頭金に、土地の契約書などにサインをしてしまった。
 思った以上に地価は安かったせいか、妄想は膨らみに膨らんで、俺はハイな気分になっていたのだろう。あれよあれよと話しは進んでいった。職人衆も知り合いとあって融通が利き、建設途中でも気になった点や変更点も気軽に相談に応じてくれるらしい……。
 新店舗は今の店のある、王都市の中心部より少しズレはしたけれど、かなりの広さの土地を確保した。
 この世界には車はない。しかし、馬車を置けるスペースも三台ほど確保。これは、女王様がご来店された時の為にと、イリアの案だった。
 店舗形態はとりあえず、二階建ての店舗兼住宅を建設。テイクアウト専用の窓口も設置。状況次第では、店舗専用に建て替え、俺達の住居を別に作る。それ程、土地は広かった。
 開発中の大型冷蔵、冷凍庫。新しく開発する事になった、ミキサー、フードプロセッサー、両面焼きの出来るグリルや調理器具などなど。あっ、それと、食洗機。諸々含めて、約1億エルウォン。完成までに約一年。毎日、妄想は膨らむ一方だった。
 
 そして、新たな問題も発生する。
 一つは同居人が増えた事。
 新居が完成するまで、ララ専用に部屋を借りようとしたが、家賃がもったいないと理由から断られ、一緒に住む事になった。
 エルフは、大きな買い物は案外ガツンと買うのに、小さい事は切り詰める。ララの金欠も、眠りについた聖剣の代わりを買うためだった。
 ちなみ、ミスリル製とやらで、剣だけでも1000万エルウォンしたらしい。そりゃ、お金無くなるわ。
 で、お金が無い理由は分かったが、別の問題も発生する。
 ララが一緒に住む事になると知ったターニャさんが、一緒に住むと言った一時間後位に、家に押し掛けて来たのである。
 どこで、話が漏れた?いや、どんだけのスピードよ?!そう思ったが、言わず聞かずを貫いた。話がこじれそうだったから。
 ちなみに、イリアが出て行った日。あの日は元の家に戻ったようで、ターニャさんも俺の事を探してくれていたらしい。案外、優しいところもある。
 が、ララが一緒に住むなら、イリアはこの家に住む必要はなくなる。そういう話になると、ターニャさんの目の色は変わる。
 「勇者様が一緒に住まわれるならば、イリアお嬢様は一緒に住まなくてよろしいではないですか?!」
 「嫌よ。私は、ヤマト様とララと一緒に住むの。私も『大和』の一員なの。」
 「『大和』で働くのは、お嬢様の自由です。それを止める気はございません。でも、なぜです?こんなに狭い部屋に三人ですよ?不便にもほどがあるでしょう?それに、勇者様が居られるのであれば、ヤマト様のご面倒は勇者様がみて下さいます。魔法以外の事、イリアお嬢様があまり役に立つとは思えません!」
 何気にひどい事を言う、ターニャさん。
 まあ、実際にイリアは魔法と接客以外はあまり役には立たない。
 家事全般、不得意。
 ターニャさんが以前、料理の事を言っていたが、掃除も苦手。洗濯魔法も不得意。料理に至っては壊滅的だった。揚げても、煮ても焼いても、暗黒物質こと、ダークマターが出来るだけ。サラダでさえも、意味不明にダークマターに変えてしまう。高スペックの持ち主だった。
 そして、生活態度、だらしない。
 最初の一ヶ月はちゃんとしていたのだけれど、慣れたのか、男の俺が居るのに、下着姿でウロウロし、脱いだ服や下着など脱ぎっぱなし。流石に、裸を見ることは無かったが、数え上げればきりが無いほど、だらしない。
 もちろん、注意はした。したけれど、「いいじゃないですか~。」の一言で改める気も更々ない。何回も言ったんだけどね。
 会計など、直ぐに答えるから頭は良いのだろうけど、おっちょこちょいでもあった。
 「それでも、私は一緒に住みますぅ~。ヤマト様には、私が必要なんですぅ~。」
 「なぜ!なぜなのです?!一緒に住む理由など、ございませんでしょ?!普通の人には、逆にご迷惑です!女王陛下も、ヤマト様が、この世界に慣れるまでの間、一緒に住めと御命令されただけでしょ!」
 ターニャさんは必死だ。
 そりゃ、ターニャさんはイリアの事が大好きだから一生懸命にもなるよな。一緒に住みたいだろうし。
 「それでも、住みますぅ~。」
 イリアは、頬をぷく~っと膨らまし、聞き分けのない子供のように言う。
 「なぜなのです?!なぜ、そんなに頑ななのですか?何か理由でもあるのですか?!教えて下さい!!」
 俺としては、イリアが居ないと寂しくはなるけどな。イリアもそんな感じなのかな?そう思った。
 「ターニャには、秘密にしておこうと思ったけど……私、見ちゃったもん。ヤマト様の……アソコ。」
 イリアはそう言い、俺の下半身を指差す。
 「「え?」」
 俺とターニャさんの声は重なり、時が止まる。
 そして、命の危険を知らせる。
 俺とイリアはそんな関係では無いですけど?!
 ターニャさんは鬼の形相で、ナイフを構えた。
 「いや。待って!ターニャさん、待って!!俺に、身に覚えは無いよ!!潔白!そう、俺、無実!!あっ、ほら!前に言ってたじゃない?俺からイリアの匂いしないだろ?それに、見たってだけじゃん??」
 「確かにしませんが!しかし!!」
 ナイフは俺の喉元に突き付けられる。
 「落ち着いて!とにかく、落ち着いて!!おい!イリア!!何時、俺の見た?!俺とお前は、そんな関係じゃないだろ?!」
 それを聞いたイリアはモジモジとしながら答える。
 「あの……ゴールデン大ニワトリを初めて倒した時です。」
 え?あの時?!ええ!!??
 「あれは、不可抗力じゃない?俺、お前に全身焼かれたわけだし?!」
 そう。あれは、不可抗力。
 イリアのバカみたいに強い魔法で大火傷を負って瀕死になっていたんだし。俺としては、何も出来ない。
 あたふたとする、俺とターニャさんをよそに、見た時の事を思い出したのか、イリアは顔を赤くして言う。
 「でも、見てしまいましたし……。私、お父ちゃん以外の……初めて見ました。お父ちゃん……お父様には無い、獅子のようなタテガミ。大きさ……ご立派でした。」
 イリアはそう言い終え、顔を手で覆う。
 ん?お父ちゃん??何か言い直さなかったか?お父ちゃんをお父様に??いや、今はそれどころではない!俺の命がかかっている。
 俺のそんなに立派ではないし、この世界の男に毛が生えていない事は知っていたけど……。銭湯で見たし……いかん!言い訳が思いつかない!!
 「……いや、ターニャさん。あれは不可抗力だし。ただ見られただけだし。ね?」
 俺は慌てて、ターニャさんに弁解する。
 しかし……。
 ターニャさんは、みるみる涙顔になり。言葉にならない声を上げながら、走り去ってしまった。 
 ……ええ~。それだけで……。ただ、見ただけなのに。不可抗力なのに……。
 こうして嵐のように、修羅場は過ぎていった。
 その間、ララはあまり表情を変えず、ぼ~っとしていた。
 そして、現在に至る。
 あれ以来、ターニャさんの姿は見ていない。ちょくちょく、イリアは城に行っているみたいだけど。
 なので今は、狭い部屋の中、川の字になって寝ている。俺が男だということを忘れているのか、俺の方が明らかに弱いから、イリアの言うところの『信じています。』なのか……複雑な気持ちだ。
 
 更に、もう一つの問題。
 人員確保の問題。
 新店舗の従業員も後数名。今の店舗を任せられる人も数名必要だ。
 今の段階でも最低、あと一人欲しい。
 女王様ご来店の為に、大きくしたドアは、元にもどした。俺の所に来なくても、揚げ物を作れるようになった、ターニャさんが城で料理してくれるからだ。
 そのため、売れるスペースが大きくなった。
 出来るだけ、お金を稼ぎたい状況になったので、作る人数、二人。売る人数、二人。その位にはしたかった。
 アリシアにお願いして、ギルドや店には店員募集の張り紙を貼ったが、今のところ、何の反応もない。
 問題ばかりではなく、嬉しい事も、もちろんあった。
 皆の憧れ、勇者様が料理屋の店員をやっている。それは、たちまち、この街中……いや、世界中に広がり、客寄せパンダならぬ、客寄せ勇者様となり、またお客さんが増えた。
 そして、俺はララ人気に便乗して、新たな勝負に出る事にした。
 そう。新商品『エビフライドッグ』を出す事にしたのだ。
 俺独自のリサーチだが、この世界での一番人気は、エビ。ちなみに、こちらでは『ピチョンパ』と呼ばれている。
 アジフライやイカフライもいいのでは?……いや?ここは変化球で、揚げたこ焼きなんてどうだろう?そう思った。
 しかし、イカやタコは食べられていない。なので、もちろん、売ってなかった。
 ターニャさんの話によると、存在はしているらしいのだが、食べる事は無いらしい。
 これは、チャンス!なのだが……食べる習慣のない、イカやタコは敬遠されて売れない可能性がある。機が熟した時に、イカ、タコは売り出せばよい。今は、一番人気。そう、エビである。
 この世界は、サラダだけは異様に種類が多い。特に、エビを乗せたシュリンプサラダが大人気だ。まあ、そのエビも殻を剥いて焼いただけとか、殻のまま塩をまぶして焼いただけのがのっている。そんなもんだ。
 もちろん、塩をまぶして焼いただけのエビも大人気。酒場では、誰もが頼む一品だ。そこに俺は目を付けた。
 まずは、下地作りだ。エビフライドッグやからあげで地盤を作る。
 タイミング的にも、ララがリヴァイアサンを封印してくれたおかげで、今まで不足し、高級過ぎた魚介類の漁獲量、供給と流通、全てが安定し安価で手に入るようになったのも、追い風だ。
 そして、何気にこの世界のパンは美味い。それを生かす為に、パン屋『フワンフワン』と提携を結んび、エビフライドッグを共同で試行錯誤し、お互いの店舗に提供する事にした。
 ローリエなどの香辛料もかなりの種類がある事が分かり、ケチャップも自家製を作れた。この世界は可能性の塊だ。何も無いと言っていたイリアは、料理をしないだけあって、知らない事が多過ぎたのである。魔法とかの知識は半端ないのにな。ちょっと残念である。
 『エビフライドッグ』の種類は二種類。
 タルタル味とマヨネーズとケチャップを使った簡単オーロラソース味。それにキャベツの千切りとレタスを一緒にはさんだシンプルな物。
 これも、爆発的に売れた。
 そして、それに伴い、また新たな人的ネットワークが広がる。トマトやキャベツなどを作る農家。卵専門の養鶏場。エビを卸してくれる魚屋。この世界にもかなり顔馴染みや友達も出来た。
 この世界は随分と楽しく過ごしやすくなっていた。
 
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