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私の家族 6
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「あの少しよろしいですか」
空気が悪くなったところで口を開いたのは意外な人物の伊織くんだった。
何を言い出すのか私も冬麻も様子を伺っていると、無愛想な表情のまま母を見つめて呟く。
久しぶりに見た。
伊織くんのこういう無愛想な表情を。
私が大切にする人を大切にしてくれる伊織くんにとっては珍しい態度だ。
「お金であればどれだけでもお渡ししますよ。ですが俺の1番は心春さんです。心春さんが幸せならそれでいいんです。もし心春さんの笑顔が奪われる原因がお義母さんにあるのであれば、俺は1番にあなたから心春さんを守ります。相手が実の母親だろうが、それは同じです」
「⋯⋯⋯」
「2度と心春さんや冬麻くんがお二人に会わない決意をしたとしても、俺はそれを受け入れます。俺がお二人以上に大切にするので心配しないでください。一生不自由なく生活できるよう俺が2人を守るので、これから二度と会わなかったとしても何も困りません」
この言葉は伊織くんにとっての精一杯の丁寧な言葉なんだと思った。
言葉の節々には棘を感じるがそれは伊織くんからの愛だと言うのとを私は知っている。
それを私は分かっているつもりで、何よりも誰よりも私を1番に考えてくれていた。
それは私の両親だろうが、1番が私であることに変わりはなくて、両親が私の笑顔を奪う理由だった場合、彼は容赦なく両親から私も守ってくれるだろう。
伊織くんの覚悟が伝わってくる気がして心から嬉しい。
私には伊織くんや冬麻、そして義両親がいてくれればそれでいい。
「もうお父さんにもお母さんにも会わない。私は私で幸せに暮らすから、2人も好きなように生きて欲しい。今までありがとう」
決別の言葉を思ったより優しく言えた。
もっと冷たく言い放つこともできたが私の隣に伊織くんや冬麻がいてくれたから少しだけ優しくできた気がする。
「俺も感謝してる部分はあるよ。でも俺もこれからは自分で生きていけるから、会うことはもう2度とないと思う」
「お父さん、新しい家族と幸せにね。お母さんも好きなように自由に生きて」
最後に頼んだコーヒーをぐびぐびと一気に飲み干し、テーブルに置かれていた伝票を片手に立ち上がる。
冬麻と伊織くんも私の後を追うように立ち上がった。
「じゃあね」
「ちょっと、心春!」
お母さんが私を呼ぶ声が聞こえたがそれを無視して5人分の会計を済ませお店の外に出ると、一気に緊張から解放されてやっと呼吸をしっかりできたような気がする。
冬麻も緊張していたのか普段のような人懐こい笑顔を浮かべてため息をついていた。
「ごめんね伊織くん。あんな両親に会わせちゃって」
「いや俺の方こそ申し訳ない。嫌な態度を取ってしまった」
「ううん、嫌なわけないよ。私も冬麻もすごく嬉しかった。あんなふうに言ってくれて」
「ほんとですよ。伊織さんが義兄さんで姉ちゃんの旦那さんでよかったって心から思いました」
あの言葉に私たち姉弟はまた救われた。
伊織くんには再会した時から助けられてばかりで、頭が上がらない。
「俺は心春たちがどんな決断をしたとしても味方だから。俺だけはずっと2人の味方だから、怖がらずに自分の決断に自信持ってればいいよ」
そんな言葉に私は周りの目もはばからず思わず伊織くんに抱きついてしまう。
驚いたような顔をした伊織くんだけどそれを受け止めるように私の身体に腕を回した。
「あの!俺も抱きついていいですか伊織さん!嬉しすぎて気持ちが溢れてます!」
「ふふっもちろんだ」
なぜか伊織くんに冬麻まで抱きついてどんな状況だと周りから見れば思われそうだがそんなの今は気にならなかった。
ぎゅーっと私の身体に腕を回して抱きつく冬麻も含めて伊織くんは受け止めてくれる。
これが私の家族。
心から大切で永遠に一緒にいたいと思える大事な家族だ。
空気が悪くなったところで口を開いたのは意外な人物の伊織くんだった。
何を言い出すのか私も冬麻も様子を伺っていると、無愛想な表情のまま母を見つめて呟く。
久しぶりに見た。
伊織くんのこういう無愛想な表情を。
私が大切にする人を大切にしてくれる伊織くんにとっては珍しい態度だ。
「お金であればどれだけでもお渡ししますよ。ですが俺の1番は心春さんです。心春さんが幸せならそれでいいんです。もし心春さんの笑顔が奪われる原因がお義母さんにあるのであれば、俺は1番にあなたから心春さんを守ります。相手が実の母親だろうが、それは同じです」
「⋯⋯⋯」
「2度と心春さんや冬麻くんがお二人に会わない決意をしたとしても、俺はそれを受け入れます。俺がお二人以上に大切にするので心配しないでください。一生不自由なく生活できるよう俺が2人を守るので、これから二度と会わなかったとしても何も困りません」
この言葉は伊織くんにとっての精一杯の丁寧な言葉なんだと思った。
言葉の節々には棘を感じるがそれは伊織くんからの愛だと言うのとを私は知っている。
それを私は分かっているつもりで、何よりも誰よりも私を1番に考えてくれていた。
それは私の両親だろうが、1番が私であることに変わりはなくて、両親が私の笑顔を奪う理由だった場合、彼は容赦なく両親から私も守ってくれるだろう。
伊織くんの覚悟が伝わってくる気がして心から嬉しい。
私には伊織くんや冬麻、そして義両親がいてくれればそれでいい。
「もうお父さんにもお母さんにも会わない。私は私で幸せに暮らすから、2人も好きなように生きて欲しい。今までありがとう」
決別の言葉を思ったより優しく言えた。
もっと冷たく言い放つこともできたが私の隣に伊織くんや冬麻がいてくれたから少しだけ優しくできた気がする。
「俺も感謝してる部分はあるよ。でも俺もこれからは自分で生きていけるから、会うことはもう2度とないと思う」
「お父さん、新しい家族と幸せにね。お母さんも好きなように自由に生きて」
最後に頼んだコーヒーをぐびぐびと一気に飲み干し、テーブルに置かれていた伝票を片手に立ち上がる。
冬麻と伊織くんも私の後を追うように立ち上がった。
「じゃあね」
「ちょっと、心春!」
お母さんが私を呼ぶ声が聞こえたがそれを無視して5人分の会計を済ませお店の外に出ると、一気に緊張から解放されてやっと呼吸をしっかりできたような気がする。
冬麻も緊張していたのか普段のような人懐こい笑顔を浮かべてため息をついていた。
「ごめんね伊織くん。あんな両親に会わせちゃって」
「いや俺の方こそ申し訳ない。嫌な態度を取ってしまった」
「ううん、嫌なわけないよ。私も冬麻もすごく嬉しかった。あんなふうに言ってくれて」
「ほんとですよ。伊織さんが義兄さんで姉ちゃんの旦那さんでよかったって心から思いました」
あの言葉に私たち姉弟はまた救われた。
伊織くんには再会した時から助けられてばかりで、頭が上がらない。
「俺は心春たちがどんな決断をしたとしても味方だから。俺だけはずっと2人の味方だから、怖がらずに自分の決断に自信持ってればいいよ」
そんな言葉に私は周りの目もはばからず思わず伊織くんに抱きついてしまう。
驚いたような顔をした伊織くんだけどそれを受け止めるように私の身体に腕を回した。
「あの!俺も抱きついていいですか伊織さん!嬉しすぎて気持ちが溢れてます!」
「ふふっもちろんだ」
なぜか伊織くんに冬麻まで抱きついてどんな状況だと周りから見れば思われそうだがそんなの今は気にならなかった。
ぎゅーっと私の身体に腕を回して抱きつく冬麻も含めて伊織くんは受け止めてくれる。
これが私の家族。
心から大切で永遠に一緒にいたいと思える大事な家族だ。
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