【R18/TL】無口で無愛想な旦那様の拗らせ愛は重すぎ注意

春野 カノン

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私の家族 5

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伊織くんの姿を見て不思議そうな顔をしているが、いったん私たちは3人分のアイスコーヒーを頼んだ。
しばらく沈黙が流れ気まずい時間がすぎていく中でスタッフの方がコーヒーを運んできてくれた。
それに少し口をつけて喉を潤し口を開く。


「私、結婚したんだよね」

「いつしたんだ?」

「半年ちょっと前くらい」

「そうだったのか」


父は驚くこともなく事実を受け入れているようだった。
別の家族を築いている父にとって私たちの優先順位はもう既に1番ではなくなっている。


母に関しては伊織くんを見つめる視線に熱を帯びておりとても不快だった。
元々母は男がいないと生きていけないような性格で、いい男を見つけてはすぐに貢ぐ癖があり私たちにお金が使われることはほとんどなかった。


「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。心春さんと結婚させていただきました東雲伊織と申します」

「し、東雲ってあの東雲ホールディングスのです?」

「はい。心春さんとは高校の同級生でして、再会し今に至ります」


伊織くんはこんな両親にも丁寧に挨拶をしてくれてそれだけで申し訳なさしかない。
父はまだしも母にこんな丁寧な態度をとる必要なんてないというのに。


「結婚したなら言いなさいよ心春」

「言う必要ないと思ったから言わなかっただけ。関係ないでしょ?」


自分でも思ったより冷たく腹に響く声が出たと思う。
産んでくれたことには感謝しているが、今までの生活を思い出せばとても母親とは思えなかった。


「今日はちゃんと伝えたいとこがあって2人に会う決意をしたの。もう2度と会わないって伝えるために」


テーブルの下で拳を握りしめ意を決して自分の意志を伝える。
これは私が決断したことでひどい娘だと思われても構わない。


「私は今伊織くんと結婚してすごく幸せなの。伊織くんのご両親も良くしてくれるし、冬麻のこともこうして家族として受け入れてくれてる。もう私には自分の家族がいるから2人には今後会わない」

「そうは言っても一生あなたたちは私の子供なのよ」

「分かってる。産んでくれた事には感謝してるけど、母親らしいことはほとんどしてくれなかったよね。私はもう2人がいなくても生きていけるから」

「俺も。姉ちゃんもいるし伊織さんもいるから大丈夫。就職活動も上手くいってるし、これからは自分の力で生きていけるから」


嫌いとかそういう感情すらあまり湧かない。
ただ会わなくたって生きていける、私のこれからの人生には必要ないと思うだけだ。


それが自分の両親だったとしてもそこまでの思い入れはないし、どちらかというとこれからの家族を大切にしていきたい。
ちゃんとそれを伝えるために数年ぶりに会ったんだ。


「心春。結婚おめでとう。幸せに暮らしてるならそれだけで十分だよ」

「ありがとうお父さん。あと、今までお金の部分でサポートしてくれてありがとう。本当に助かってたよ。これがあったから私も冬麻も今まで生きてこられたから。でももう大丈夫。これ、返すね」


そう言って父の前に分厚い封筒を差し出す。
これは伊織くんと結婚してからも振り込まれ続けた生活費だ。


「もう必要ないから、このお金は今の家族に使ってあげて欲しい」

「⋯⋯そうか。分かった」


父は何も言わずその封筒を受け取った。
罪悪感や罪滅ぼしからなのかもしれないが、父のこのお金に救われたのは事実で、これがなければ私たちは生活できなかっただろう。


父には感謝している部分もある。
会うことはなかったとしても、お金という部分で責任を負おうとしてくれていたのは分かるからだ。


「お母さんは今何してるの?」

「変わらないわよ。でも今後お金に困ったら心春を頼ればいいわね」

「⋯⋯⋯」

「娘なんだからそれくらいしてくれるでしょ?」


自分の母がこんなセリフを言うなんて心底恥ずかしかった。
伊織くんにこんな言葉を聞かせたくなかったし、桜さんと比べて自分の母がこんな人だなんて本当は知られたくなかった。


それは冬麻も同じようで下唇をかみ締めて眉間に皺を寄せている。
伊織くんはというと涼しい顔して静観していた。


「恥ずかしくないのかよそんなこと姉ちゃんに言って」

「家族なんだもの。恥ずかしくなんてないわよ」

「都合のいい時だけ家族だなんて言うなよ。どれだけ姉ちゃんが大変だったか知ってんのかよ。必死に働いてお金稼いでくれて俺を育ててくれた、そんな気持ち分かるのかよ」

「いいよ冬麻」


少しでも私たちを思う気持ちがあったなら父のように何かしらの形で責任を負おうとしてくれたと思う。
それがなかったのが答えだと私は分かっていた。
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