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伊織side 〈自分に出来ること〉 3

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実用性が認められれば定期的に行うことに繋がる可能性が高くなる。
もちろん改善点も山ほどあるだろうが、まずは大きな一歩となるのは間違いない。


しばらく通常の業務をこなしているとピロンと会社のパソコンにメールが届く。
送り主は如月さんでデータが添付されていた。


まだお昼前だというのになんて仕事が早いんだろう。
驚きながらもお礼の返信をしそのデータの中身を確認する。


「これは⋯⋯」


添付されていたデータは大沢康太が就活時に提出したポートフォリオのようで、細部まで作り込まれた脱出ゲームはとても1人で作ったとは思えないクオリティだった。
これを作るのにどれだけの時間と努力を費やしたかと思うと、彼の置かれている状況にやりきれなさを感じる。


これを高柳尚が作ったと証明出来ればベストだがそこが難しい。
やはり作者にしか分からない何かを見つけるしかないかと思うが、なんのヒントもない状況でそれは難しいだろう。


ここに高柳尚を呼べば1発で分かるかもしれないが、そうしてしまえば後から手を元々組んでいたなんて言われかねない。
後々のことを考えるとあの場で高柳尚にも突然話を振るべきなんだ。


そう考えた俺は彼に近しい者に協力を得るためある人を呼び出した。
そいつはすぐに俺の部屋を訪れため息を吐きながらドカッと鎮座しているソファに腰を下ろす。


「俺もこう見えて忙しいんだけど伊織」

「悪いとは思ってる。けど翔にしか頼めないんだ」


そう呟くと翔は満更でもないように両方の口角を上げて嬉しそうに微笑む。
事実、翔は仕事もできる男だし何より頼りになる俺の友達のためまず頼るとしたら思い浮かぶのはいつだって翔だ。


「で、今何やってるわけ?」

「心春に頼まれたことがあってな。高柳尚のことなんだが聞いてるだろ?」

「伊織も聞いてたんだ。それが本当ならまずいよね?これから彼はkisaragiの主軸となっていくのであれば表に立つこともあるだろうし、そうなったらどこからか情報漏れてあっという間に拡散する可能性がある」

「そういうことだ。それを懸念してkisaragiも協力してくれてる。それで翔に聞きたいことがあるんだが」


事情を全て把握した翔は真面目な表情となり話の先を促すように俺の顔を見つめる。
それに促されるように俺は続きを話した。


「高柳尚のクセとか制作の特徴とか何かないか?なんでもいいんだが⋯」

「クセか⋯⋯」


口元に手を当てながら何かを考える翔は一点を見つめて思考を巡らせているようだ。
チームリーダーとしていつもメンバーを見ている翔なら何か分かるかもしれない。


「そういえばクセと言えるかは分からないけど、尚っていつも作るゲームのキャラに色の名前を使ってるって聞いたことがある」

「色か⋯⋯」

「あと必ず攻略までに隠し要素を入れてるらしいんだけど⋯⋯それは俺もどこにあるのかは分からない」


(さすが翔⋯そこまで聞ければ後はこちらでどうにかできそうだ)


「そこまで聞ければこっちのもんだ。ありがとな」

「え、伊織。もしかして⋯⋯」


翔から話を聞いた俺は早速パソコンに向き直り送られてきたゲームを開いた。
そしてそのままプログラミング画面に移行し最初から順番に言語を読んでいく。


「隠し要素、探すつもり?」

「もちろんだ。じゃないと大沢の嘘が露見させられないだろ」

「間に合う?明日でしょ?」

「間に合わせるに決まってるだろ」

「今回はまたなんでそこまでするの?」

「もちろん会社のためだよ。kisaragiとこういう施策をしたんだからあちらに汚点が見つかればこっちも無傷では済まないかもしれないからな。それにその男は心春を俺から奪おうとしてるらしい。そんな事をして俺が許すわけないだろ」


翔はふっと呆れたように笑うと立ち上がり背を向けて部屋を出ていく。
そんな背中を見つめてありがとう、と呟くと振り返った翔はニヤッと笑った。


「頑張れよ伊織。俺も俺で他にも手がかりないか探してみるよ」


なんとか証拠を見つけて明日の会議で暴露する。
そこで全てが明らかになれば嫌でも詳しくkisaragiは調べなくてはならなくなるし、今更やったところで高柳尚の過去が返ってくるわけではない。


それでも疑惑を晴らすことは彼の努力を認め証明することにもなるし、第一心春がそれをきっと望んでいる。
俺はそのためだったらこんなこと大変でもなんともないと思えた。
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