【R18/TL】無口で無愛想な旦那様の拗らせ愛は重すぎ注意

心春の怒り 4

「自分の方が劣っていると初めて負い目を感じた」


その言葉を聞いた瞬間、大沢くんは眉間に皺を寄せて私の方へとスタスタと近づいてくる。
距離の詰め方から大沢くんが怒っているのが分かった。


私の目の前に立ちはだかった大沢くんは私を冷たい目で見下ろし、バカにするように小さく嘲笑う。
人を見下すようなその笑みがとても不快だった。


「僕が高柳より劣ってると？」

「そう思ったんじゃないんですか？」

「僕は劣ってなんていませんよ。あんなやつより優れてる」

「⋯⋯⋯」

「欲しいと思ったものは手に入れてきました。あなたもその欲しいものの1つですよ加賀美さん」


どんなに言い寄られたって大沢くんに気持ちが傾くことは絶対ない。
いくら顔がかっこよくたってそれだけで好きになるわけじゃないし、こんなふうに大事なメンバーを傷つける人を好きになることなんてありえない。


「東雲専務はモテますよね？不安になりませんか？取られるかもしれない、とか」

「思わないです」

「どうして言いきれるんですか？」

「あなたは知らない。伊織くんがどんな人なのか。あの人は私のためならなんだってする人なんですよ、ほんとに文字通りなんだってするんです」


伊織くんは本気だと思う。
私のためなら彼はどんなことだってする、それくらい彼の愛は真っ直ぐで重い。


2人で対峙ししばらく沈黙が続くと、椅子を取ってきてくれた雛菊ちゃんが戻ってきた。
鍵が閉まっているのが不思議に思ったのか扉の向こうから私を呼ぶ声が聞こえてくる。


「扉、開けた方がいいと思うんですが」

「⋯⋯そうですね、開けましょうか」


さっきまでの冷たい笑みや態度が嘘のように人当たりのいい笑顔を浮かべた大沢くんは閉めていた鍵を開けた。
すると驚いた表情をした雛菊ちゃんを横目に彼は何も言わず去っていく。


すぐに私の元に近寄ってきてくれた雛菊ちゃんは、心配そうに私の身体に触れながら何もなかったか確認してくれた。


「こはるん大丈夫ですか？！何もされてませんか？」

「うん。大丈夫だったありがとう」

「あの人はほんとに懲りないですね。私たち全部知ってるっていうのに⋯」


あの執念は普通じゃない。
彼に何があったのかは分からないけど、今までもずっとそうやって生きてきたんだろう。


その生き方を簡単に変えることはできないだろうし、私自身も大事なメンバーにした行いを許せそうにもなかった。
私への言葉も好意なんかじゃなくて、自分が1番だということを行使するための手段に過ぎないんだろう。


「こはるん、怒ってます？」

「え、そう見えるかな？」

「めちゃくちゃ怒ってるように見えます。オーラが黒いです邪悪です」


思ったよりも私は顔に出やすいのかもしれない。
明日はいよいよ交換制度の最終日だ。


この会議室に交換制度の施策に参加してくれた当人たちとお義父さんと伊織くん、そしてkisaragiの社長が一同に集まる。
そこできっと何かが起こる気がしていた。