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尚の抱えるもの 3
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席を離れて尚くんと一緒にドリンクバーに向かうと隣を歩く彼からはピリピリとした空気を感じる。
普段の尚くんじゃ考えられないくらい明らかにイラついているのか、整った横顔の口元はきつく結ばれていた。
「あの人には気をつけてください」
「それはどういう意味?」
ドリンクバーに着いてコップに順番に飲み物を入れていくと、手を動かしながら尚くんがポツリと呟く。
その声色からも苛立ちを感じた。
「大沢くんのこと知ってるの?」
「⋯⋯さぁどうですかね」
「珍しいね尚くんがそんなふうにイラついてるなんて」
「すみません⋯⋯心春さんたちにまで態度悪くなってたら申し訳ないです」
尚くんがはぐらかす理由は分からないけど、人には知られたくない話の1つや2つくらいあってもおかしくない。
おそらく、尚くんと大沢くんは知り合いだろうけど、尚くんが話してくれるまで踏み込むべきではないと思いそれ以上は聞かなかった。
だけど尚くんの気をつけて、という言葉の意味が分からない。
何に対しての警告なのか、それが分からなければ気をつけようがない気がする。
「気をつけてってどういう意味で言ってくれてるの?」
「⋯⋯あの人は自分が欲しいって思ったものは絶対手に入れようとします。あの天使みたいな笑顔の裏には悪魔のような本性が隠されてる」
尚くんの言葉には憎しみとほんの少しの悲しみが含まれているような気がして心がギュッと掴まれたように痛くなる。
彼の抱えているその感情が言葉にしなくても伝わってくる気がしてなんだか切なくなった。
「一緒に働くの、辛くない?」
「えっ⋯」
「あ、ごめん。その、そんな気がしちゃって」
無意識のうちに言葉に出してしまったようで尚くんはそれを聞いて目を見開いていた。
まるで自分の気持ちを見透かされているような気持ちになったのか、目を丸くさせ私を見つめている。
尚くんの言葉から想像するにいい関係ではないだろうし、特に関わる時間が長くなるだろうから彼の気持ちが心配だった。
3日間とはいえ一緒に仕事をするんだし今後この交換制度が正式運用になれば関わりも増えるかもしれない。
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
そう言って微笑む尚くんはその笑顔の裏に本当の気持ちを隠したような気がする。
きっと心配かけたくない、そんな感情から感情に蓋をしたんだろう。
私も同じようにしたことがあるから分かる。
でも私は知ってる。
頼られないことが、意外と悲しいんだということを。
「頼られると嬉しいこともあるから。それは覚えててね」
「心春さん⋯⋯」
「ほら、尚くんにはいつも助けられてますから」
ニコッと笑いかけトレイに人数分のお茶を乗せて大沢くんの待つ席へと戻る。
それとほぼ同じくらいのタイミングでお弁当を買ってきてくれた翔くんたちも戻ってきた。
手分けしてお弁当や飲み物を分けてみんなでお昼ご飯をいただく。
買ってきてくれたチキン南蛮弁当はやっぱり美味しくて今日もたっぷりとタルタルソースがお肉に絡みご飯が進んだ。
「これ、美味しいですね」
「でしょ。ここら辺にはいろいろキッチンカーとかあってお昼ご飯には困らないんだけど、ここの美味しいんだよ」
「羨ましいです。こんな美味しいご飯が売ってるキッチンカーが近くにいるなんて」
事情を全て知っている訳ではないが尚くんの言葉を聞いた後だと大沢くんの表情や言葉をつい気にしてしまう。
誰が見ても好青年の笑顔の裏には別の本性があると尚くんは言っていたけど、とてもそうには思えない。
だけど尚くんが嘘をつくとも思えないため真実は分からないままだ。
そんな中で翔くんが何かを思い出したように箸を置いた。
「みんな今日の夜は時間ある?」
「私はありますよー!こはるんは?」
「うん、大丈夫だと思う」
「俺も、あります」
「よかった。3日間だけとはいえ大沢くんと情報や知識交換するからよければみんなでご飯とかどうかなと思いまして」
どうやら他のチームもプチ歓迎会のようなものをやるらしく、このチームもやるべきだと翔くんが判断したんだろう。
普段の尚くんじゃ考えられないくらい明らかにイラついているのか、整った横顔の口元はきつく結ばれていた。
「あの人には気をつけてください」
「それはどういう意味?」
ドリンクバーに着いてコップに順番に飲み物を入れていくと、手を動かしながら尚くんがポツリと呟く。
その声色からも苛立ちを感じた。
「大沢くんのこと知ってるの?」
「⋯⋯さぁどうですかね」
「珍しいね尚くんがそんなふうにイラついてるなんて」
「すみません⋯⋯心春さんたちにまで態度悪くなってたら申し訳ないです」
尚くんがはぐらかす理由は分からないけど、人には知られたくない話の1つや2つくらいあってもおかしくない。
おそらく、尚くんと大沢くんは知り合いだろうけど、尚くんが話してくれるまで踏み込むべきではないと思いそれ以上は聞かなかった。
だけど尚くんの気をつけて、という言葉の意味が分からない。
何に対しての警告なのか、それが分からなければ気をつけようがない気がする。
「気をつけてってどういう意味で言ってくれてるの?」
「⋯⋯あの人は自分が欲しいって思ったものは絶対手に入れようとします。あの天使みたいな笑顔の裏には悪魔のような本性が隠されてる」
尚くんの言葉には憎しみとほんの少しの悲しみが含まれているような気がして心がギュッと掴まれたように痛くなる。
彼の抱えているその感情が言葉にしなくても伝わってくる気がしてなんだか切なくなった。
「一緒に働くの、辛くない?」
「えっ⋯」
「あ、ごめん。その、そんな気がしちゃって」
無意識のうちに言葉に出してしまったようで尚くんはそれを聞いて目を見開いていた。
まるで自分の気持ちを見透かされているような気持ちになったのか、目を丸くさせ私を見つめている。
尚くんの言葉から想像するにいい関係ではないだろうし、特に関わる時間が長くなるだろうから彼の気持ちが心配だった。
3日間とはいえ一緒に仕事をするんだし今後この交換制度が正式運用になれば関わりも増えるかもしれない。
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
そう言って微笑む尚くんはその笑顔の裏に本当の気持ちを隠したような気がする。
きっと心配かけたくない、そんな感情から感情に蓋をしたんだろう。
私も同じようにしたことがあるから分かる。
でも私は知ってる。
頼られないことが、意外と悲しいんだということを。
「頼られると嬉しいこともあるから。それは覚えててね」
「心春さん⋯⋯」
「ほら、尚くんにはいつも助けられてますから」
ニコッと笑いかけトレイに人数分のお茶を乗せて大沢くんの待つ席へと戻る。
それとほぼ同じくらいのタイミングでお弁当を買ってきてくれた翔くんたちも戻ってきた。
手分けしてお弁当や飲み物を分けてみんなでお昼ご飯をいただく。
買ってきてくれたチキン南蛮弁当はやっぱり美味しくて今日もたっぷりとタルタルソースがお肉に絡みご飯が進んだ。
「これ、美味しいですね」
「でしょ。ここら辺にはいろいろキッチンカーとかあってお昼ご飯には困らないんだけど、ここの美味しいんだよ」
「羨ましいです。こんな美味しいご飯が売ってるキッチンカーが近くにいるなんて」
事情を全て知っている訳ではないが尚くんの言葉を聞いた後だと大沢くんの表情や言葉をつい気にしてしまう。
誰が見ても好青年の笑顔の裏には別の本性があると尚くんは言っていたけど、とてもそうには思えない。
だけど尚くんが嘘をつくとも思えないため真実は分からないままだ。
そんな中で翔くんが何かを思い出したように箸を置いた。
「みんな今日の夜は時間ある?」
「私はありますよー!こはるんは?」
「うん、大丈夫だと思う」
「俺も、あります」
「よかった。3日間だけとはいえ大沢くんと情報や知識交換するからよければみんなでご飯とかどうかなと思いまして」
どうやら他のチームもプチ歓迎会のようなものをやるらしく、このチームもやるべきだと翔くんが判断したんだろう。
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