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想い人 4
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さすがご令嬢、詳しくないと言っても私より基礎知識は豊富だ。
如月さんと一緒にたくさん並んだ陶磁器を眺める。
佇むフォルムがもう美しくて息を飲むというのはこういうもののことを言うんだろう。
まるで美術品のようだ。
形も平たいものから深いものまでさまざまあって目移りしてしまう。
多くは白地に青い線で手描きのデザインが施されているものが多く、その白は純白でとても美しい。
「伊織くんがよくコーヒーを飲むんです。伊織くんがどんなカップを持ってコーヒーを飲んでる姿が1番しっくりくるか、そんなことを考えながら探すんですよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「ここにいない誰かのことを想って物を選べるって幸せですよね」
「心春さん⋯⋯あの⋯⋯⋯」
「如月さんにはいませんか?このカップで一緒にコーヒーを飲みたい人」
踏み込んだ質問だということは分かっている。
でも彼女の心の奥底に秘められている感情の蓋はきっと固く、無理やりにでもこじ開けにいかないと開いてくれないような気がした。
私を見つめる瞳は揺れていて、私を見ているのに心は別の誰かを想っているようにも感じる。
如月さんの胸の中にいるであろう、その人を思い浮かべているんだろうか。
「⋯⋯⋯⋯⋯います。一緒に飲みたい人」
ポツリと呟いた彼女の声は今にも消え入りそうなか細いもので、意を決して言葉にしてくれたことが痛いほど伝わってくる。
たった一言だけど、その人への愛情が私にまで伝わってきた。
「だったら一緒に選びましょう。大切な人と一緒に使いたいと思えるカップを」
「⋯⋯⋯⋯はい」
今にも泣き出しそうな如月さんの顔を見て私は自然と笑みがこぼれる。
こんな顔もできるんだと、新しい一面を知った。
それからというもの如月さんが陶磁器を見つめる瞳はとても優しくて、その奥には彼女が想う人がいるんだろう。
その人を想いながらカップを選んでいく姿はとても幸せそうだった。
「それ、気に入ったんですか?」
「素敵だなと思いました。彼に合いそうです」
如月さんの手に取るカップは白地に珍しく黒い線でレースのような模様が描かれたカップでとてもシックな印象だ。
そんなカップが似合う彼もまた、どことなくそんな雰囲気を持っているのだろう。
「心春さんは?」
「私はこれがいいかなと」
私が手に取ったのは平ためのカップで白地に青い線で全体にレースの模様が描かれた洗練されたものだ。
ソーサーとセットになっておりこれでコーヒーを飲む伊織くんの姿が想像できる。
ゆったりとした時間を彼と一緒に過ごす光景が手に取るように頭に流れてきた。
きっと伊織くんも喜んでくれるはずだ。
「私はこれを2人分買おうと思います。如月さんはどうしますか?」
彼女は手に取ったカップを見つめながら黙り込む。
それを購入するということはきっと如月さんにとって大きな意味になるんだろう。
閉じ込めていた想いの蓋を開けることに繋がる行為だと私は知っているからこそ、ここからは何も言わない。
自分で蓋を開けなければ、きっと彼女のような立場の人は壁に立ち向かえない気がした。
どのくらい時間が過ぎたんだろう。
実際の時間は数分だったと思うが、体感はとっても長く感じた。
答えが出たのか如月さんはゆっくりの私に視線を向けて意を決して口を開く。
それは彼女が重たい1歩を踏み出した瞬間だった。
「買います。2人分、買います」
「ふふふっ買いましょうか。一緒に」
私たちは仲良くそれぞれカップを2人分購入した。
紙袋に入れてもらったそれの重みは心地よくて、早くこれを伊織くんに見せたい、そんなふうに思える。
丁度買い物を終えたのはお昼を少し過ぎたタイミングだったため、如月さんと一緒にランチを食べることにした。
カジュアルなイタリアンが食べられるお店でここが美味しいと如月さんが教えてくれたのだ。
如月さんと一緒にたくさん並んだ陶磁器を眺める。
佇むフォルムがもう美しくて息を飲むというのはこういうもののことを言うんだろう。
まるで美術品のようだ。
形も平たいものから深いものまでさまざまあって目移りしてしまう。
多くは白地に青い線で手描きのデザインが施されているものが多く、その白は純白でとても美しい。
「伊織くんがよくコーヒーを飲むんです。伊織くんがどんなカップを持ってコーヒーを飲んでる姿が1番しっくりくるか、そんなことを考えながら探すんですよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「ここにいない誰かのことを想って物を選べるって幸せですよね」
「心春さん⋯⋯あの⋯⋯⋯」
「如月さんにはいませんか?このカップで一緒にコーヒーを飲みたい人」
踏み込んだ質問だということは分かっている。
でも彼女の心の奥底に秘められている感情の蓋はきっと固く、無理やりにでもこじ開けにいかないと開いてくれないような気がした。
私を見つめる瞳は揺れていて、私を見ているのに心は別の誰かを想っているようにも感じる。
如月さんの胸の中にいるであろう、その人を思い浮かべているんだろうか。
「⋯⋯⋯⋯⋯います。一緒に飲みたい人」
ポツリと呟いた彼女の声は今にも消え入りそうなか細いもので、意を決して言葉にしてくれたことが痛いほど伝わってくる。
たった一言だけど、その人への愛情が私にまで伝わってきた。
「だったら一緒に選びましょう。大切な人と一緒に使いたいと思えるカップを」
「⋯⋯⋯⋯はい」
今にも泣き出しそうな如月さんの顔を見て私は自然と笑みがこぼれる。
こんな顔もできるんだと、新しい一面を知った。
それからというもの如月さんが陶磁器を見つめる瞳はとても優しくて、その奥には彼女が想う人がいるんだろう。
その人を想いながらカップを選んでいく姿はとても幸せそうだった。
「それ、気に入ったんですか?」
「素敵だなと思いました。彼に合いそうです」
如月さんの手に取るカップは白地に珍しく黒い線でレースのような模様が描かれたカップでとてもシックな印象だ。
そんなカップが似合う彼もまた、どことなくそんな雰囲気を持っているのだろう。
「心春さんは?」
「私はこれがいいかなと」
私が手に取ったのは平ためのカップで白地に青い線で全体にレースの模様が描かれた洗練されたものだ。
ソーサーとセットになっておりこれでコーヒーを飲む伊織くんの姿が想像できる。
ゆったりとした時間を彼と一緒に過ごす光景が手に取るように頭に流れてきた。
きっと伊織くんも喜んでくれるはずだ。
「私はこれを2人分買おうと思います。如月さんはどうしますか?」
彼女は手に取ったカップを見つめながら黙り込む。
それを購入するということはきっと如月さんにとって大きな意味になるんだろう。
閉じ込めていた想いの蓋を開けることに繋がる行為だと私は知っているからこそ、ここからは何も言わない。
自分で蓋を開けなければ、きっと彼女のような立場の人は壁に立ち向かえない気がした。
どのくらい時間が過ぎたんだろう。
実際の時間は数分だったと思うが、体感はとっても長く感じた。
答えが出たのか如月さんはゆっくりの私に視線を向けて意を決して口を開く。
それは彼女が重たい1歩を踏み出した瞬間だった。
「買います。2人分、買います」
「ふふふっ買いましょうか。一緒に」
私たちは仲良くそれぞれカップを2人分購入した。
紙袋に入れてもらったそれの重みは心地よくて、早くこれを伊織くんに見せたい、そんなふうに思える。
丁度買い物を終えたのはお昼を少し過ぎたタイミングだったため、如月さんと一緒にランチを食べることにした。
カジュアルなイタリアンが食べられるお店でここが美味しいと如月さんが教えてくれたのだ。
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