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如月麗華という女 1

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ゆっくりと年末の足音が近づいてきた12月中旬の月曜日。
いつものように少しだけ早く起きた私は伊織くんの分の朝食の準備を終えた。


今日は和食をチョイスしていてダイニングテーブルにはだし巻き玉子とお味噌汁、そして鮭の切り身を焼いてある。
伊織くんはというと年末ということで仕事が忙しくなっていると同時に、如月さんのことも重なって毎日大変そうだ。


それでも必ず一緒に食事を取ってくれてそういう所が愛されているなと感じる。
今日もまたいつもより早く出社するため、スーツを既に着ていて髪の毛もバッチリ整えた伊織くんが洗面所から戻ってきた。


「今日は和食か。いいなありがとう」

「冷める前に食べてみて。だし巻き玉子、どうかな?」


いただきます、と言って伊織くんは1番最初にだし巻き玉子を食べてくれた。
ふわふわに仕上げることができたため一番最初に食べて欲しくてつい要求してしまう。


じーっと伊織くんを見つめていると彼は口角を上げてふわりと微笑む。
朝からこんな整った旦那様の顔を拝めて私はなんて幸せなんだろう。


「すごく美味しい。このだし巻き玉子、少し甘めなんだな」

「お義母さんから聞いたの。伊織くんだし巻き玉子は甘めが好きだって。私も甘め派だから同じだね」

「心春も同じか嬉しいな。このだし巻き玉子の味すごく好きだ。また作って欲しい」


どうやら甘めのだし巻き玉子は好評だったみたいでまた作って欲しいとのリクエストまでもらえた。
伊織くんが喜んで食べてくれるため私も嬉しいし作りがいもある。


「伊織くん、最近お仕事忙しそうだね」

「年末が近づいているしな。それに如月家とのこともある」

「如月家とのことは大丈夫そう?」

「⋯あの人はおそらく、1月の年始パーティーで大々的に発表するつもりだろう。毎年年始に1年の発展を願っていろんな会社の社長とかが集まるんだ。そのあとの6月の株主総会で正式に決めるつもりだと思う」

「そうだったんだ⋯⋯」

「年始のパーティーまでになんとかするから大丈夫だ。心配するな」


伊織くんはそう言うものの、私は何も彼にできていない。
ただ待ってるだけしかできないことがとてももどかしかった。


お味噌汁をすすりながらそんなことを考えていると表情に出てしまっていたのか、伊織くんがどうした?と私の顔を覗き込む。


「私にも、何かできることないかな?」

「そうだな⋯⋯心春にしかお願いできないことがあるんだが、頼んでもいいか?」

「うん、なんでも言って」


何か私にもできることがあると分かって嬉しいと同時に少し前のめりになって伊織くんの言葉を待つ。
すると彼から頼まれたことは意外なものだった。


「今のまま毎日こうしてご飯を作って、俺の帰りを待ってて欲しい」

「え⋯⋯それだけでいいの?」

「それが俺にとって1番の活力になるんだ。心春が家にいてくれて、俺を迎えてくれて、笑顔を向けてくれる。それだけで俺は十分頑張れる」


私は伊織くんの専務としての仕事を手伝うことはできないけど、それなら私にだってできそうだ。
毎日伊織くんを笑顔で迎えることなんて朝飯前だと思う。


それだけで伊織くんが元気になれるなら、私はどれだけでもそうする。
伊織くんはダイニングテーブル越しに私の頭をぽんっと撫でてくれた。


「それでたまには俺を癒してくれ」

「癒す?」

「そう。心も、身体もな」


ニヤッと微笑む伊織くんの言葉に私の耳が真っ赤になるのが分かる。
伊織くんの言っている意味が私にも十分分かるし、あえてわざとらしく言うところが確信犯だ。


(私が恥ずかしがるのを分かって言ってるよな⋯⋯)


私が作った朝食を全て食べ終えた伊織くんはカバンを持って家を出る支度を始める。
その間、私はお皿を洗いながら伊織くんの出かけるまでの時間を活用していると、準備を終えたようで彼が家を出ようとする。
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