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東雲家へ 7

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先程からずっと黙り込んでいるお義母さんが心配だ。
あんなににこにこした笑顔が素敵な女性なのに、今はその笑顔を封印している。


伊織くんはというととてつもない不機嫌なオーラを放っていた。
何も言わずとも怒っているのが分かる。


「あの、逆にどうしてお義父さんたちは何も言わないんですか?初めて会った時から受け入れてくれて、私みたいな人間がこの家系に相応しくないことは重々承知してます」


お義父さんは持っていた箸をお皿に置く。
そのまま私の目を真っ直ぐ見てぽつりぽつりと呟いた。


「同じなんだよ俺と桜ちゃんも」

「同じ?」

「桜ちゃんも心春ちゃんと同じように普通の家庭の人だ。大学で出会ったんだよ俺たちは」

「あ、同級生だったんですね」

「そう。俺たちはお父さんの反対を押し切って結婚したからな。だからバカな真似は俺だけで十分だと言いたかったんだろう」


その話を聞いて辻褄があった。
お義母さんが肩身狭そうに縮こまり笑顔を封印している理由も納得がいく。


「今よりも昔はもっと態度がひどかったよ。桜ちゃんにも嫌な思いをさせたと思う」


お義母さんの笑顔の裏にそんなことを抱えていたなんて知らなかった。
きっとお義父さんも大好きな人を自分の親に認めてもらえないことに怒りや悲しみなどいろんな感情を抱えていただろう。


「だから、私を受け入れてくれたんですね」

「それに⋯知ってたからな」

「え、何をですか?」

「伊織が高校生の時から心春ちゃんのことを好きだったこと」

「えっ⋯⋯」


横に座る伊織くんの顔を見ると余計なことを言うな、とでも言いたげな不機嫌そうな表情を浮かべていた。


「翔くんがよく遊びに来ててな。よく話す子だしそれで聞いたことがある」

「あいつが余計なこと言うから」


だから2人はすんなり私を受け入れてくれていたんだ。
伊織くんの好きな人が私であることや、自分たちの境遇が似ていることでもしかしたら重ねていたのかもしれない。


「私も侑李くんも、伊織もみんな心春ちゃんの味方だからね。それだけは分かっててちょうだい」

「はい⋯ありがとうございます」


気丈に振る舞うお義母さんがただ強くてかっこよく見えた。
きっと自分だって辛かったはずだし、そう言われて過去のことを思い出したはずだ。


それなのに私を気にかけてくれる優しさに私もそんなふうになりたいと思う。
いつか私はおじい様に認めて貰える日は来るのだろうか。


「⋯お父さん、なんか気になる言葉残していってたよな」

「何言われようがどんな状況になろうが、俺は心春とずっと一緒にいる」


確かに"つかの間の火遊び"と私たちの婚姻関係を比喩していた。
それはつまり終わりがあるということだ。


おじい様の言葉の意味はすぐには分からないが、何かよくないことが起こりそうな気がしてならない。
伊織くんの気持ちは伝わっているつもりだが、それだけではどうにもならないことが起こる気がした。


その予感は残念ながらこれから的中することとなる⋯⋯。
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