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東雲家へ 6

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いただきますをした後、伊織くんは私の取り皿にいろんな料理を分けてくれた。
こんなところまで甘やかしてくれるなんて、なんてできる旦那様なのだろう。


「いただきます」


お義母さん手作りのローストビーフを口に頬張ると、とろっとお肉がとろけた。
絶妙な火入れがされたお肉はとてもしっとり柔らかく、ほんのり香るハーブの香りが食欲をそそる。


さっぱりめな玉ねぎソースがとても相性がよく、まるでプロの料理人の味だった。
こんな味が家で食べられなんてお義母さんの料理の腕前は相当なものだ。


「とっても美味しいです」

「よかった~たくさんあるからいっぱい食べてね心春ちゃん」

「はい!」


4人で食卓を囲みいろいろ話しながら食事を楽しんでいるとガチャっと扉が開く音がして1人の男性が現れた。
歳は70代くらいの方で眉間にシワが寄っており、放たれるオーラが存在感を放っている。


「今日、昼は会食じゃなかったの?」

「忘れ物を取りに来ただけだ」


リビングを通りこちらに近づいてくる男性。
お義父さんの声からも少しだけ緊張感が滲んでいた。


「お父さん、紹介します。伊織の妻の心春です」

「はじめまして、心春です」

「あの人は祖父の東雲什造しののめじゅうぞう。東雲ホールディングスの会長だ」


耳元で呟く伊織くんの話に背筋がぐーっと伸びる。
まさか伊織くんのおじい様である会長とお会いするなんて。


眉間に皺を寄せたまま私の姿を見つめるおじい様の視線がとても冷たく居心地が悪い。
まるで品定めをされているようだ。


「伊織。誰だこの女は。どこで拾ってきた」

「そういう言い方やめろよ。高校の同級生だよ」

「ふん、お前にはもっと相応しい妻がいるだろう」


伊織くんの両親がとても親切で優しい人たちだから忘れていたのかもしれない。
彼が東雲ホールディングスという大企業の御曹司で、いずれ社長になるかもしれない人だということを。


そんな彼の妻としては確かに私は相応しくないだろう。
当初危惧していたことが今現実になろうとしていた。


「お父さん。伊織が選んだ相手なんだからそんな言い方はやめてくれ」

「お前も何を言っている。バカな真似をするのはお前だけにしてくれよ」


おじい様の言葉の意味が私には理解できなかったが、お義母さんの表情が少しだけ悲しそうに歪んだのを私は見逃さなかった。
一気に場の空気が重くなる。


「まぁいい。つかの間の火遊びとして大目に見てやろう。せいぜい楽しむんだ」


そう言い残しおじい様は棚に置かれていた腕時計を持って部屋を出ていく。
残された私たちの空気は最悪で、さっきまでの楽しさがまるで嘘のようだった。


「ごめんな心春ちゃん、嫌な思いをさせただろう」

「いえ、それは⋯⋯」

「昔の人だから考えも凝り固まってるんだ」

「元々、伊織くんと結婚した時点でそういう懸念はあったんです。社長などを輩出する家系に私みたいな一般人が入っていいのかって⋯まぁ当然の反応だなと思いました」


そう言われる覚悟をしていたのは事実だ。
だから思ったよりも傷ついていない。


(むしろお義父さんたちが私たちの結婚に何も言わない方が不思議だよ)
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