上 下
68 / 186

伊織side 〈心春のために〉 4

しおりを挟む
「気になることがあって翔だけに話したい」

「心春ちゃんのこと?」

「心春のこと名前で呼ぶなって言ったろ」

「おいおいそんな小さなことで嫉妬するなよな~。チームメンバーのことみんな名前で呼んでるだけだよ」


俺以外の男が心春のことを名前で呼ぶのは気に入らないが、100歩譲って翔ならギリギリ許してもいい。
本当は嫌だが仕方ない。


「心春の仕事の様子はどうだ?」

「直接聞けばいいのに。なに、夫婦ケンカでもした?」

「してない、仲良しに決まってるだろ」

「ごめんごめん。実は俺も少し気になってることがあってさ」


ソファに身体を預けていた翔が前のめりに体重を移し、真剣な顔で俺を見つめる。
そんな顔を見て翔から気になっていることへの有益な情報をもらえると確信した。


「なんか、心春ちゃん嫌がらせとかされてないかなってちょっと心配してて」

「どういうことだ?」

「確認はしてないけど、伊織のことが好きな社員になんか言われたんじゃないかって。会議室で密会してるのを見たんだよ」

「なんでそれを早く言わないんだよ」


心春からは何も聞いていない。
もしかしたら俺には言わず1人で何かを抱えているかもしれないということだ。


心春を困らせることがあるのであれば全てを排除していく必要がある。
俺の全権力を使ってでもやるつもりだ。


「ほら伊織モテモテだからさ、狙ってるやつ多いじゃん。この状況で心春ちゃんが伊織の相手だって知られれば恨まれたり妬まれたりする対象にもちろんなるよなって」

「俺のせいだな」

「まぁそういうことになるね」

「翔たちのチームの仕事はメインキャラクターの動作確認してるんだよな?ホームページの発売までのカウントダウンとか担当してるのは別か?」

「カウントダウンは俺たちのチームの仕事じゃないよ。それがどうかした?」


まさかとは思っていたが俺の中で点と点が線に繋がった気がする。
締切に追われている心春はどうやら自分のチームの作業ではない仕事まで抱えているようで、その締切が1週間後というわけだろう。


締切の話しといい、もしかしたら心春は嫌がらせとして仕事をやらされているのかもしれない。
その懸念点を確実にするために翔に少し調べてもらうことにした。


「頼めるか?」

「まぁ普段伊織はなんもできないもんな。いいよ、ちょっと調べとくわ」

「助かる」


心春の身近には信頼できる翔がいるため少しだけ安心できるが、本当だったら俺がずっと近くにいて守ってやりたい。
だけどそうもいかないのが現実だ。


「今日1日ここにいる日?」

「外には出る予定ない」

「なら分かったら伝えに来るから、大人しく待ってろよ~」


翔はそのまま手のひらをひらひらさせて俺の仕事部屋を出ていった。
彼の調査内容によってはそれなりの判断を下すつもりだ。


その日、俺はいつものようにパソコンに向かって作業をしつつ父である代表取締役の補佐としての仕事をこなす。
俺の仕事は基本的には社長のサポートで事業企画の査定や予算管理、経営方針の決定・実行を主に行っている。


運営系に携わっているため現場で実際プログラミングするのはもうしばらくやっていない。
そのため心春の力には現場でなれないため、別の角度からのアプローチを俺なりにするつもりだ。


翔が再び俺の部屋を訪れたのは夕方のことで、仕事の早い彼は早速情報を持ってきてくれたようだった。
あいつはあんな陽気な性格だが仕事は確実で間違いなく出世していく人間だろう。


「早いな翔」

「そりゃ伊織からの頼みなんだもん。何よりも優先順位上げましたよ」

「助かる。で、どうだった?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。

青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。 その肩書きに恐れをなして逃げた朝。 もう関わらない。そう決めたのに。 それから一ヶ月後。 「鮎原さん、ですよね?」 「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」 「僕と、結婚してくれませんか」 あの一夜から、溺愛が始まりました。

年上幼馴染の一途な執着愛

青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。 一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜

青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」 三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。 一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。 「忘れたとは言わせねぇぞ?」 偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。 「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」 その溺愛からは、もう逃れられない。 *第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...