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伊織side 〈心春のために〉 1
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いつものように先に帰った心春が夕食の準備をしてくれており、2人で他愛もない会話をしながら食べきった俺たちは後片付けをしている。
会社内で俺と心春の結婚が知られてから数日が経っていた。
お互い会社でも結婚指輪をしているため、結婚自体を隠すつもりはなく心春の希望だったため今のタイミングでは公にするつもりはなかったが、出かけていたところを会社の人間に見られていたようだ。
会社内で知れ渡ったことで心春が既婚者であること、その夫が俺だということが認知されたことはよかったと思っている。
だが心春は中途採用のためあまり現時点では目立ちたくないと言っていたが、そこだけが心配だった。
「結婚のこと、早い段階でバレてしまったな」
「そうだね。いずれはバレると思ってたけど、ちょっと早かったね」
「噂もあるようだが心春は大丈夫か?」
「それは大丈夫。でも伊織くんって本当にモテモテなんだね。女性社員がこぞって残念がってたよ?」
翔からも噂の内容は聞いており、俺と付き合いたいと思っている社員がたくさんいるようだ。
俺自身、一切興味なかったため気にもしていなかったが心春のことが1番心配だった。
俺のコネだとか身体を売っただとか、デキ婚だとか様々な憶測の噂が広がり大量の尾ひれがついてしまっている。
そういう噂を流す奴らに向かって俺が一言言えば全て収まるかもしれないが、心春はそんなことを望まなさそうだ。
「伊織くんがモテモテだから私は羨ましがられてるみたい」
「俺は他の人に興味はないぞ」
「その噂も羨望とかの声が多いし、そんなに気にしてないよ」
「何か困ったことがあれば遠慮なく言って欲しい」
「⋯うん。ありがとう」
一瞬だけ心春の言葉が詰まったことが気になるが、それを隠すように彼女は俺に笑いかける。
俺にできることがあるのであればなんでもするつもりだ。
最近の心春は家に帰ってからよく自分の部屋にこもっている。
作業の締切が1週間後にあるらしく追い込みをしているとのことだが、遅くまで起きているみたいで心春の体調が心配だった。
「伊織くん、私は今日も部屋で作業するからお風呂とか先に入っちゃってていいからね」
「今日もか。大丈夫か?最近遅くまで起きているようだが」
「詰めてるのはこの1週間だけだから終われば落ち着くし、大丈夫だよ」
リビングを出ていこうとする心春の腕を取って自分へと引き寄せる。
すっぽりと俺に包み込まれる心春の身体はとても華奢で、ほんのり甘い香りがした。
俺と一緒の生活をしているはずなのになぜか俺とは違う香りがして、抱きしめるだけでムラっとすることは心春には内緒だ。
柔らかい髪に指を絡め腰に腕を回すと、心春が遠慮がちに俺の腰部分に手を回した。
今まで幾度となく心春を抱きしめてきたが、少しでも返してくれたのは初めてでそれが死ぬほど嬉しかった。
そんな高校生のような浮かれた気持ちを隠すように心春の耳元でそっと息を吐きながら呟く。
「無理はするな。ちゃんと休んでくれ」
「⋯うん。ありがとう心配してくれて」
心春のおでこにちゅっと触れるだけの口付けを落とすと顔を真っ赤にさせ、恥ずかしそうに俺から離れるとリビングを出て自室へと向かった。
そんな背中を見て無性に寂しく感じる。
たった今まで感じていた彼女の温もりも香りも俺から離れてしまうことが寂しく、こんなにも近くにいるというのにそれ以上触れられないことにもどかしさも感じた。
一瞬昂りかけた自分の気持ちを抑え込むようにふーっと息を吐き、お風呂に入るための準備を始める。
広い湯船に1人浸かるといろんな事を考えてしまう。
元々1人で住んでいた家に心春と住むようになり一緒に過ごすことが当たり前になっていた。
美味しいご飯を毎日作ってくれて、その他の掃除も定期的にやってくれているのを知っている。
家でも仕事場でも根を詰めすぎていないといいが。
それに噂の方も対処をしなければいけない。
心春が俺の妻だと知れ渡ったことは俺としてはメリットだが、心春にとっては望ましいことではないだろう。
俺のコネで入社したと思われても仕方ないタイミングだときっと考えているはずだ。
会社内で俺と心春の結婚が知られてから数日が経っていた。
お互い会社でも結婚指輪をしているため、結婚自体を隠すつもりはなく心春の希望だったため今のタイミングでは公にするつもりはなかったが、出かけていたところを会社の人間に見られていたようだ。
会社内で知れ渡ったことで心春が既婚者であること、その夫が俺だということが認知されたことはよかったと思っている。
だが心春は中途採用のためあまり現時点では目立ちたくないと言っていたが、そこだけが心配だった。
「結婚のこと、早い段階でバレてしまったな」
「そうだね。いずれはバレると思ってたけど、ちょっと早かったね」
「噂もあるようだが心春は大丈夫か?」
「それは大丈夫。でも伊織くんって本当にモテモテなんだね。女性社員がこぞって残念がってたよ?」
翔からも噂の内容は聞いており、俺と付き合いたいと思っている社員がたくさんいるようだ。
俺自身、一切興味なかったため気にもしていなかったが心春のことが1番心配だった。
俺のコネだとか身体を売っただとか、デキ婚だとか様々な憶測の噂が広がり大量の尾ひれがついてしまっている。
そういう噂を流す奴らに向かって俺が一言言えば全て収まるかもしれないが、心春はそんなことを望まなさそうだ。
「伊織くんがモテモテだから私は羨ましがられてるみたい」
「俺は他の人に興味はないぞ」
「その噂も羨望とかの声が多いし、そんなに気にしてないよ」
「何か困ったことがあれば遠慮なく言って欲しい」
「⋯うん。ありがとう」
一瞬だけ心春の言葉が詰まったことが気になるが、それを隠すように彼女は俺に笑いかける。
俺にできることがあるのであればなんでもするつもりだ。
最近の心春は家に帰ってからよく自分の部屋にこもっている。
作業の締切が1週間後にあるらしく追い込みをしているとのことだが、遅くまで起きているみたいで心春の体調が心配だった。
「伊織くん、私は今日も部屋で作業するからお風呂とか先に入っちゃってていいからね」
「今日もか。大丈夫か?最近遅くまで起きているようだが」
「詰めてるのはこの1週間だけだから終われば落ち着くし、大丈夫だよ」
リビングを出ていこうとする心春の腕を取って自分へと引き寄せる。
すっぽりと俺に包み込まれる心春の身体はとても華奢で、ほんのり甘い香りがした。
俺と一緒の生活をしているはずなのになぜか俺とは違う香りがして、抱きしめるだけでムラっとすることは心春には内緒だ。
柔らかい髪に指を絡め腰に腕を回すと、心春が遠慮がちに俺の腰部分に手を回した。
今まで幾度となく心春を抱きしめてきたが、少しでも返してくれたのは初めてでそれが死ぬほど嬉しかった。
そんな高校生のような浮かれた気持ちを隠すように心春の耳元でそっと息を吐きながら呟く。
「無理はするな。ちゃんと休んでくれ」
「⋯うん。ありがとう心配してくれて」
心春のおでこにちゅっと触れるだけの口付けを落とすと顔を真っ赤にさせ、恥ずかしそうに俺から離れるとリビングを出て自室へと向かった。
そんな背中を見て無性に寂しく感じる。
たった今まで感じていた彼女の温もりも香りも俺から離れてしまうことが寂しく、こんなにも近くにいるというのにそれ以上触れられないことにもどかしさも感じた。
一瞬昂りかけた自分の気持ちを抑え込むようにふーっと息を吐き、お風呂に入るための準備を始める。
広い湯船に1人浸かるといろんな事を考えてしまう。
元々1人で住んでいた家に心春と住むようになり一緒に過ごすことが当たり前になっていた。
美味しいご飯を毎日作ってくれて、その他の掃除も定期的にやってくれているのを知っている。
家でも仕事場でも根を詰めすぎていないといいが。
それに噂の方も対処をしなければいけない。
心春が俺の妻だと知れ渡ったことは俺としてはメリットだが、心春にとっては望ましいことではないだろう。
俺のコネで入社したと思われても仕方ないタイミングだときっと考えているはずだ。
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