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初めてのデート 2
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スキニーパンツにオレンジのキャミソールの上からオーバーサイズのシャツを羽織った姿はどことなく伊織くんの服に似ていた。
彼もまたデニムに薄いブルーのトップスに白いシャツをはおっている。
「なんか変かな?」
「いや、すごく可愛い」
「っっ!!」
ナチュラルに可愛いと言える伊織くんが恐ろしい。
こんな言葉をいろんな子にかけられると思うとそりゃモテるだろうな、なんて考える。
そんな気も知らない伊織くんは腕時計の時間を確認するとそのまま行こうか、と言って私に背を向けた。
それについていくように一緒に家を出る。
「今日はどこ行くか決めてる?」
「心春にプレゼントをしまくる日だ」
「え、何それ!聞いてないよ私」
「前言っただろ?俺がプレゼントしたもので心春を全部染め上げたいって」
(あの言葉って本気だったんだ⋯⋯)
確かにそんなような言葉をくれた記憶はある。
だけどまさか本気とは思わなくて、本当に伊織くんの本心は何を考えているのか分からない。
ワインレッド色のスポーツカーに乗り込もうとするとなんとあろうことか、伊織くんが助手席のドアを開けてエスコートしてくれた。
あまりにも自然な動きで何も返す言葉がなく、促されるまま乗り込んだ。
「あ、ありがとう」
私を見て小さく微笑んだ伊織くんはエンジンをかけてゆっくりと車を走らせる。
しっかり通った鼻筋や切れ長の瞳、整えられた短めの髪に腕まくりした部分から見える筋肉の筋がとてつもなく色っぽくて思わず凝視してしまった。
この人の隣にいる私は契約結婚の妻とはいえ釣り合ってなさすぎるのではないか。
そう思ってしまうほど彼は誰が見ても素敵な男性だ。
「そんなに見つめてどうした?」
「え!私そんな見てた?」
「すごく見られてた」
無意識のうちに視線は彼に吸い込まれていて、私の心がぎゅっと掴まれたような感覚に陥る。
ドキドキと鼓動が早まり締め付けられるように胸が痛んだ。
こんなに近くにいるのに触れ合えないもどかしさや、言葉にできない想いに葛藤が生まれる。
意識した途端、今までどうやって伊織くんと話していたか分からなくなってしまった。
「なんでもないよ」
「そうか」
そのまま伊織くんは黙って車を走らせる。
移りゆく景色を眺めながら頭の中で伊織くんのことを考えた。
「なんでそんなかっこいいのかな⋯」
「⋯それ俺のこと?」
「あっ、私声出てた?」
「出てたよ」
自分でも気づかないうちに考えていたことを声に出してしまっていたようで、聞かれていたことがすごく恥ずかしい。
伊織くんのことをそう思っていることがバレてしまった。
恥ずかしくて伊織くんの顔が見れず、ふと窓に向かって視線を逸らす。
そんな私の背後からは伊織くんがふっと声を出して笑う音が聞こえてきた。
「俺のことかっこいいって思ってくれてるんだな」
「心の中の声だったのに⋯漏れてるなんて」
「どんなとこがそう思ってくれてるんだ?」
「言わないよ?」
「聞かせてくれないのか?」
信号が赤になったタイミングで私の方をチラッと見た伊織くんは少しだけ残念そうな顔をした。
そんな寂しそうな顔をされるとなんでも言ってしまいそうになる。
「⋯⋯やること全部かっこいいなって思ってる」
「心春にそう思ってもらえるなんて嬉しいな」
「かっこよすぎて、勘違いしちゃう子たくさんいるかもしれないよ?」
「その心配はいらない。心春にしかこんなふうにしないから」
本当かどうかの判断は私にはできないが、伊織くんはよく私にしかしない、と言ってくれる。
優しさも甘い言葉も⋯そして触れるだけのキスも、全部私にしかしていないと思っていいのだろうか。
伊織くんへの気持ちを理解した今、もし本当に私にしかしていないのだとしたら、少しは期待してもいいのかな、なんて考える。
好きでもない人にあんなふうに普通は触れたり口付けたりするもんなのか。
「俺は心春にだけかっこいいと思ってもらえれば、それだけで十分だ」
「⋯⋯ずるいなぁそういう言い方」
言葉でハッキリ気持ちを伝えられたわけではないが、その意味をどうしても私は特別なものに捉えてしまう。
私には他の人とは違う特別な感情を抱いてくれてるのではないか、と。
彼もまたデニムに薄いブルーのトップスに白いシャツをはおっている。
「なんか変かな?」
「いや、すごく可愛い」
「っっ!!」
ナチュラルに可愛いと言える伊織くんが恐ろしい。
こんな言葉をいろんな子にかけられると思うとそりゃモテるだろうな、なんて考える。
そんな気も知らない伊織くんは腕時計の時間を確認するとそのまま行こうか、と言って私に背を向けた。
それについていくように一緒に家を出る。
「今日はどこ行くか決めてる?」
「心春にプレゼントをしまくる日だ」
「え、何それ!聞いてないよ私」
「前言っただろ?俺がプレゼントしたもので心春を全部染め上げたいって」
(あの言葉って本気だったんだ⋯⋯)
確かにそんなような言葉をくれた記憶はある。
だけどまさか本気とは思わなくて、本当に伊織くんの本心は何を考えているのか分からない。
ワインレッド色のスポーツカーに乗り込もうとするとなんとあろうことか、伊織くんが助手席のドアを開けてエスコートしてくれた。
あまりにも自然な動きで何も返す言葉がなく、促されるまま乗り込んだ。
「あ、ありがとう」
私を見て小さく微笑んだ伊織くんはエンジンをかけてゆっくりと車を走らせる。
しっかり通った鼻筋や切れ長の瞳、整えられた短めの髪に腕まくりした部分から見える筋肉の筋がとてつもなく色っぽくて思わず凝視してしまった。
この人の隣にいる私は契約結婚の妻とはいえ釣り合ってなさすぎるのではないか。
そう思ってしまうほど彼は誰が見ても素敵な男性だ。
「そんなに見つめてどうした?」
「え!私そんな見てた?」
「すごく見られてた」
無意識のうちに視線は彼に吸い込まれていて、私の心がぎゅっと掴まれたような感覚に陥る。
ドキドキと鼓動が早まり締め付けられるように胸が痛んだ。
こんなに近くにいるのに触れ合えないもどかしさや、言葉にできない想いに葛藤が生まれる。
意識した途端、今までどうやって伊織くんと話していたか分からなくなってしまった。
「なんでもないよ」
「そうか」
そのまま伊織くんは黙って車を走らせる。
移りゆく景色を眺めながら頭の中で伊織くんのことを考えた。
「なんでそんなかっこいいのかな⋯」
「⋯それ俺のこと?」
「あっ、私声出てた?」
「出てたよ」
自分でも気づかないうちに考えていたことを声に出してしまっていたようで、聞かれていたことがすごく恥ずかしい。
伊織くんのことをそう思っていることがバレてしまった。
恥ずかしくて伊織くんの顔が見れず、ふと窓に向かって視線を逸らす。
そんな私の背後からは伊織くんがふっと声を出して笑う音が聞こえてきた。
「俺のことかっこいいって思ってくれてるんだな」
「心の中の声だったのに⋯漏れてるなんて」
「どんなとこがそう思ってくれてるんだ?」
「言わないよ?」
「聞かせてくれないのか?」
信号が赤になったタイミングで私の方をチラッと見た伊織くんは少しだけ残念そうな顔をした。
そんな寂しそうな顔をされるとなんでも言ってしまいそうになる。
「⋯⋯やること全部かっこいいなって思ってる」
「心春にそう思ってもらえるなんて嬉しいな」
「かっこよすぎて、勘違いしちゃう子たくさんいるかもしれないよ?」
「その心配はいらない。心春にしかこんなふうにしないから」
本当かどうかの判断は私にはできないが、伊織くんはよく私にしかしない、と言ってくれる。
優しさも甘い言葉も⋯そして触れるだけのキスも、全部私にしかしていないと思っていいのだろうか。
伊織くんへの気持ちを理解した今、もし本当に私にしかしていないのだとしたら、少しは期待してもいいのかな、なんて考える。
好きでもない人にあんなふうに普通は触れたり口付けたりするもんなのか。
「俺は心春にだけかっこいいと思ってもらえれば、それだけで十分だ」
「⋯⋯ずるいなぁそういう言い方」
言葉でハッキリ気持ちを伝えられたわけではないが、その意味をどうしても私は特別なものに捉えてしまう。
私には他の人とは違う特別な感情を抱いてくれてるのではないか、と。
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