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結婚のご挨拶 7
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私と話すときのお義父さんはやっぱり想像通りのしっかりとした印象で社長のイメージそのものだ。
しかしお義母さんと話す時は振り回されているような素が出る所もほんわかして親しみやすい。
「私、社長はもっと怖い方なのかと思ってました。でも全然違うんですね」
「他の社員には言わないでくれよ。桜ちゃんには俺も伊織も振り回されっぱなしなんだ」
そう言いながらお義母さんを見つめるお義父さんの瞳はとても優しくて愛してるんだろうなということがすごく伝わってきた。
本当の夫婦ってこういう人たちを言うんだろう。
「でもさっき桜ちゃんが言ってたことは本当だよ。娘ができたみたいでとても嬉しい。本当の家族のように俺たちを頼ってくれていいんだからな」
「⋯ありがとうございます」
「桜ちゃんも心春ちゃんが奥さんになってくれたこと、本当に喜んでたんだ。伊織は仲良い相手にはいいけど、そうじゃないと無口で無愛想だろ?そんな伊織も心春ちゃんには心を開いてるみたいだから」
「そう、ですかね?」
「父親の俺が言うんだから嘘じゃないよ」
そんな言葉にほんの少しだけ期待してしまう。
私にだけ見せてくれる一面があること、一緒に暮らしていくことで少しずつ距離が縮まっているのは実感している。
伊織くんの中で少しでも私の存在が大きくなっていたら嬉しい、なんて思うほどには私は彼に惹かれていた。
そう⋯⋯契約結婚という関係を受け入れておきながら、私は彼に気持ちが傾いてしまっている。
「はーいお待たせ。プリンよ」
「心春、バームクーヘンも準備したけどよかったか?」
「うん、してほしかったから助かったよ。ありがとう」
「みんなで食べましょ!」
4人でダイニングテーブルを囲み伊織くんの両親が持ってきてくれたプリンやバームクーヘンをゆっくりと食べる。
その間、伊織くんの小さい頃の話や私の弟のことなどたくさんのことを話した。
終始賑やかでこの時間がずっと続いて欲しいなんて願うほど私はこの空間を楽しんでいた。
本当の家族の一員になったような錯覚さえ感じるほどだ。
数時間が経過した頃、丁度お昼を少し過ぎたタイミングで伊織くんの両親が帰り支度を始める。
2人を見送るため玄関まで伊織くんと向かった。
「今日は突然来ちゃってごめんね心春ちゃん。すごく楽しかった。たくさん話してくれてありがとう」
「私もすごく楽しかったです」
「よかった~今度は伊織とうちに来てちょうだいね。ゆっくりご飯でも食べましょう」
お義母さんは最後まですごく優しい人だ。
ずっとニコニコ微笑んでくれて話しかけやすいし、とても人懐こい人で緊張も解れて話せるようになった。
「心春ちゃん今日は突然悪かったな。いろいろありがとう」
「いえ、本当は私の方が出向くべきだったのにご足労いただく形になってしまってすみませんでした」
「いいんだよそんなことは。これからも伊織のことよろしく頼むよ」
「⋯はい」
(本当の妻なんかじゃないのに、そんな約束を気軽にしていいのかな)
そんな迷いの気持ちが返答を曖昧にさせてしまった。
伊織くんの両親には私の葛藤は伝わっておらず2人は笑顔で手を振って家を出ていく。
私はそんな両親にお辞儀をしてそれを見送った。
扉が閉まるのを確認した私たちは揃ってリビングへ戻ると突然後ろから長い腕で体を抱き寄せられる。
「伊織くん⋯?」
「ごめん⋯急に抱きしめたくなった」
私の胸の前に腕を回す伊織くんに私もそっと触れると、彼は私の首元に顔を埋めた。
密着する部分から伊織くんの体温が伝わってきて自然と心が温かくなりさっきまでの緊張が全てどこかへ飛んでいく。
「素敵な家族だね」
「ありがとう。そう言ってもらえてよかった」
「優しい人たちでよかった」
「俺も心春とそういう家族になりたいと思ってる」
「っ!」
どんな表情でそんな言葉を言ってくれているのか分からず、その言葉の意味を素直に受け止められない自分がいた。
伊織くんの囁く甘い言葉を噛み締めるようにギュッと目を閉じる。
そして確信した。
私は彼に惹かれているのではなく、本当に好きになってしまったということに。
契約結婚のはずなのに大切に思ってくれる言葉や行動、愛を囁くようなキスや彼の存在に私は心を奪われた。
そう気づいてしまった今、私はこの生活をいつまで続けられるだろうか。
なるべく長く、伊織くんと一緒にいたい。
例えそれが、契約結婚の妻だったとしても───。
しかしお義母さんと話す時は振り回されているような素が出る所もほんわかして親しみやすい。
「私、社長はもっと怖い方なのかと思ってました。でも全然違うんですね」
「他の社員には言わないでくれよ。桜ちゃんには俺も伊織も振り回されっぱなしなんだ」
そう言いながらお義母さんを見つめるお義父さんの瞳はとても優しくて愛してるんだろうなということがすごく伝わってきた。
本当の夫婦ってこういう人たちを言うんだろう。
「でもさっき桜ちゃんが言ってたことは本当だよ。娘ができたみたいでとても嬉しい。本当の家族のように俺たちを頼ってくれていいんだからな」
「⋯ありがとうございます」
「桜ちゃんも心春ちゃんが奥さんになってくれたこと、本当に喜んでたんだ。伊織は仲良い相手にはいいけど、そうじゃないと無口で無愛想だろ?そんな伊織も心春ちゃんには心を開いてるみたいだから」
「そう、ですかね?」
「父親の俺が言うんだから嘘じゃないよ」
そんな言葉にほんの少しだけ期待してしまう。
私にだけ見せてくれる一面があること、一緒に暮らしていくことで少しずつ距離が縮まっているのは実感している。
伊織くんの中で少しでも私の存在が大きくなっていたら嬉しい、なんて思うほどには私は彼に惹かれていた。
そう⋯⋯契約結婚という関係を受け入れておきながら、私は彼に気持ちが傾いてしまっている。
「はーいお待たせ。プリンよ」
「心春、バームクーヘンも準備したけどよかったか?」
「うん、してほしかったから助かったよ。ありがとう」
「みんなで食べましょ!」
4人でダイニングテーブルを囲み伊織くんの両親が持ってきてくれたプリンやバームクーヘンをゆっくりと食べる。
その間、伊織くんの小さい頃の話や私の弟のことなどたくさんのことを話した。
終始賑やかでこの時間がずっと続いて欲しいなんて願うほど私はこの空間を楽しんでいた。
本当の家族の一員になったような錯覚さえ感じるほどだ。
数時間が経過した頃、丁度お昼を少し過ぎたタイミングで伊織くんの両親が帰り支度を始める。
2人を見送るため玄関まで伊織くんと向かった。
「今日は突然来ちゃってごめんね心春ちゃん。すごく楽しかった。たくさん話してくれてありがとう」
「私もすごく楽しかったです」
「よかった~今度は伊織とうちに来てちょうだいね。ゆっくりご飯でも食べましょう」
お義母さんは最後まですごく優しい人だ。
ずっとニコニコ微笑んでくれて話しかけやすいし、とても人懐こい人で緊張も解れて話せるようになった。
「心春ちゃん今日は突然悪かったな。いろいろありがとう」
「いえ、本当は私の方が出向くべきだったのにご足労いただく形になってしまってすみませんでした」
「いいんだよそんなことは。これからも伊織のことよろしく頼むよ」
「⋯はい」
(本当の妻なんかじゃないのに、そんな約束を気軽にしていいのかな)
そんな迷いの気持ちが返答を曖昧にさせてしまった。
伊織くんの両親には私の葛藤は伝わっておらず2人は笑顔で手を振って家を出ていく。
私はそんな両親にお辞儀をしてそれを見送った。
扉が閉まるのを確認した私たちは揃ってリビングへ戻ると突然後ろから長い腕で体を抱き寄せられる。
「伊織くん⋯?」
「ごめん⋯急に抱きしめたくなった」
私の胸の前に腕を回す伊織くんに私もそっと触れると、彼は私の首元に顔を埋めた。
密着する部分から伊織くんの体温が伝わってきて自然と心が温かくなりさっきまでの緊張が全てどこかへ飛んでいく。
「素敵な家族だね」
「ありがとう。そう言ってもらえてよかった」
「優しい人たちでよかった」
「俺も心春とそういう家族になりたいと思ってる」
「っ!」
どんな表情でそんな言葉を言ってくれているのか分からず、その言葉の意味を素直に受け止められない自分がいた。
伊織くんの囁く甘い言葉を噛み締めるようにギュッと目を閉じる。
そして確信した。
私は彼に惹かれているのではなく、本当に好きになってしまったということに。
契約結婚のはずなのに大切に思ってくれる言葉や行動、愛を囁くようなキスや彼の存在に私は心を奪われた。
そう気づいてしまった今、私はこの生活をいつまで続けられるだろうか。
なるべく長く、伊織くんと一緒にいたい。
例えそれが、契約結婚の妻だったとしても───。
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