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結婚のご挨拶 2
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「あ、聞かずにキスして悪かった」
「確信犯のくせに⋯」
「バレたか」
お互いどちらからともなく笑いあった私たちは本当の夫婦のようだった。
この笑顔を見ていると私だけが特別なんじゃないかと都合よく考えてしまう。
私だけに向けられる笑顔や言葉は、特別なんじゃないかって思えてきた。
自分の中に芽生えた気持ちにゆっくりと蓋をするように伊織くんから視線を逸らす。
「起きよう伊織くん。冬麻が今日は帰る日だから見送らないと」
「そうだな」
起き上がった私から伊織くんの熱が離れていきそれがとても寂しく感じる。
もう少しこのままでいたかった、そう思う私はなんて傲慢なのだろうか。
寝室を出た私は自分の部屋へと向かい、タイトめなワンピースに着替える。
髪も軽く整えて冬麻の眠る部屋をノックすると既に身支度をある程度終えていたようだ。
「おはよう冬麻」
「おはよ姉ちゃん」
冬麻と2人でリビングに行くと伊織くんが人数分のコーヒーを準備してくれていた。
それを3人でダイニングテーブルに座っていただく。
「ほんとに朝ご飯もいらないの?」
「うん。これから高校の同級生に会う予定だし、ありがとね」
夏休みだからこそ地元に帰ってきたこのタイミングで会いたい友達もそりゃいるだろう。
私だけが冬麻を独り占めしちゃ悪い。
私の隣でコーヒーを飲む伊織くんの様子をチラチラ伺う冬麻の様子を見ると、何か言いたげな雰囲気を感じ取った。
何かまた伊織くんに余分なことを言い出すんじゃないかヒヤヒヤする。
「伊織さん」
「ん、どうした?」
「帰る前にどうしても言いたいことがあって、いいですか?」
「ちょっと余計なこと言わないでよ?」
「姉ちゃんは少し静かにしてて。俺と伊織さんで話したいことなんだ」
人懐こい性格の冬麻が珍しく真剣な表情をし、私の言葉を強く否定する。
私の言葉を強く否定することがほとんどない上に、こんな顔をする冬麻を見ることがかなりレアなため思わず怖いとさえ感じた。
「俺たちには両親と言えるほどの人はいないです。だから俺がしっかり見極めないとなって思ってました。大事な家族だから、姉ちゃんを心から大切にしてくれる人じゃないと姉ちゃんの夫を任せるつもりはないって考えてました」
「⋯当然の考えだな」
「けど昨日のおふたりを見てあ、大丈夫だなって思いました。姉ちゃんって俺の前で涙を流したことないんです。ずっと俺の姉で俺に心配かけないように親の代わりをするために、絶対泣かなかった。でもちゃんと伊織さんの前では泣けるんだなってことが分かって、それができる相手がいることに安心しましたし、そんな伊織さんになら任せられるって思えました」
やっぱり昨日の涙に冬麻は気づいていたようだ。
確かに私は両親が離婚してから冬麻の前では絶対に泣かないようにしていた。
私が冬麻を守らないと、と思っていたため弟に心配をかけまいと気丈に振舞っていたのは事実だ。
歳も離れていたし親代わりにならないととも思っていたため、涙は見せないように気をつけていた。
「⋯⋯⋯義兄さん。姉をどうぞよろしくお願いします。大事な姉なんです。絶対幸せにしてください」
伊織くんに向かって頭を下げるその姿に私の涙腺が刺激される。
涙が滲み出ようとするのを必死に堪えて、下唇を噛み締めた。
「確信犯のくせに⋯」
「バレたか」
お互いどちらからともなく笑いあった私たちは本当の夫婦のようだった。
この笑顔を見ていると私だけが特別なんじゃないかと都合よく考えてしまう。
私だけに向けられる笑顔や言葉は、特別なんじゃないかって思えてきた。
自分の中に芽生えた気持ちにゆっくりと蓋をするように伊織くんから視線を逸らす。
「起きよう伊織くん。冬麻が今日は帰る日だから見送らないと」
「そうだな」
起き上がった私から伊織くんの熱が離れていきそれがとても寂しく感じる。
もう少しこのままでいたかった、そう思う私はなんて傲慢なのだろうか。
寝室を出た私は自分の部屋へと向かい、タイトめなワンピースに着替える。
髪も軽く整えて冬麻の眠る部屋をノックすると既に身支度をある程度終えていたようだ。
「おはよう冬麻」
「おはよ姉ちゃん」
冬麻と2人でリビングに行くと伊織くんが人数分のコーヒーを準備してくれていた。
それを3人でダイニングテーブルに座っていただく。
「ほんとに朝ご飯もいらないの?」
「うん。これから高校の同級生に会う予定だし、ありがとね」
夏休みだからこそ地元に帰ってきたこのタイミングで会いたい友達もそりゃいるだろう。
私だけが冬麻を独り占めしちゃ悪い。
私の隣でコーヒーを飲む伊織くんの様子をチラチラ伺う冬麻の様子を見ると、何か言いたげな雰囲気を感じ取った。
何かまた伊織くんに余分なことを言い出すんじゃないかヒヤヒヤする。
「伊織さん」
「ん、どうした?」
「帰る前にどうしても言いたいことがあって、いいですか?」
「ちょっと余計なこと言わないでよ?」
「姉ちゃんは少し静かにしてて。俺と伊織さんで話したいことなんだ」
人懐こい性格の冬麻が珍しく真剣な表情をし、私の言葉を強く否定する。
私の言葉を強く否定することがほとんどない上に、こんな顔をする冬麻を見ることがかなりレアなため思わず怖いとさえ感じた。
「俺たちには両親と言えるほどの人はいないです。だから俺がしっかり見極めないとなって思ってました。大事な家族だから、姉ちゃんを心から大切にしてくれる人じゃないと姉ちゃんの夫を任せるつもりはないって考えてました」
「⋯当然の考えだな」
「けど昨日のおふたりを見てあ、大丈夫だなって思いました。姉ちゃんって俺の前で涙を流したことないんです。ずっと俺の姉で俺に心配かけないように親の代わりをするために、絶対泣かなかった。でもちゃんと伊織さんの前では泣けるんだなってことが分かって、それができる相手がいることに安心しましたし、そんな伊織さんになら任せられるって思えました」
やっぱり昨日の涙に冬麻は気づいていたようだ。
確かに私は両親が離婚してから冬麻の前では絶対に泣かないようにしていた。
私が冬麻を守らないと、と思っていたため弟に心配をかけまいと気丈に振舞っていたのは事実だ。
歳も離れていたし親代わりにならないととも思っていたため、涙は見せないように気をつけていた。
「⋯⋯⋯義兄さん。姉をどうぞよろしくお願いします。大事な姉なんです。絶対幸せにしてください」
伊織くんに向かって頭を下げるその姿に私の涙腺が刺激される。
涙が滲み出ようとするのを必死に堪えて、下唇を噛み締めた。
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