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曖昧なキス 2
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私よりも身長は高く短い黒髪はしっかり整えられており、爽やかな印象を感じる。
くしゃっと笑うその笑顔はどことなく私に似ていた。
「姉ちゃん何このマンション!こんなとこに住んでるの?」
「うん⋯まあね」
目をキラキラさせながらマンション内をきょろきょろ見回す冬麻は単純な好奇心からのものなんだろう。
だけど全て偽りのもので、全部伊織くんのおかげだということを隠し続けなければならない。
エントランスを抜けて冬麻と一緒に私たちの住む部屋まで向かう。
その間ずっと冬麻はワクワクしながらテンション高く話していた。
「ドキドキしてきた⋯姉ちゃんの旦那さんに会うの初めてだし」
「大丈夫だよ。すごくいい人だから」
ガチャっと扉を開けるとリビングの扉を開けて伊織くんが私たちを迎えに来てくれた。
彼の素顔を見た途端、冬麻が私の耳元で"めちゃイケメンだね"と囁く。
「いらっしゃい、心春から聞いてるよ。はじめまして、東雲伊織です」
「は、はじめまして!加賀美冬麻です。よろしくお願いします!」
少しだけ緊張したように背筋をピンッと伸ばして自己紹介する冬麻の姿を見て思わずクスッと笑ってしまう。
明らかに緊張しているのが伝わってきて面白い。
「よかったら持つよ」
「え、いいんですか!すみません、ありがとうございます」
冬麻が持ってきたキャリーケースを受け取るとそのまま伊織くんはリビングに案内してくれた。
廊下を歩きながらキョロキョロと辺りを見渡す冬麻はそわそわしているようだ。
「冬麻、お昼まだだよね?」
「うん。もしかして姉ちゃんが作ってくれるの?」
「そのつもりだよ。冬麻の好きな唐揚げ作るからね」
「まじか!最高~姉ちゃん大好き!」
冬麻は私が作る唐揚げが大好物で、帰ってくる度に作って欲しいと希望があるくらいには気に入ってくれている。
今回も冬麻のために唐揚げを前日から下味をつけて仕込んでいたため、あとは揚げるだけの状態だ。
リビングに着いた冬麻はお土産を買ってきてくれたようでそれを伊織くんに渡していた。
冬麻の住む寮の近くにあるケーキ屋さんの私の大好きなバームクーヘンのようだ。
「これ、姉ちゃんが好きなんですよ。よければ食べてください」
「ありがとう。あとでいただくことにするよ」
冬麻を騙していることには心が痛むが、伊織くんと冬麻が仲良さそうに話している姿を見るのはすごく嬉しい。
滞りなく過ごすための演技だって分かってはいるが、まるで本当の家族のように感じた。
「冬麻くんよかったら座ってて。お昼ができるまでコーヒーでも入れるよ」
「すみません、ありがとうございます」
ダイニングテーブルに冬麻を残し、伊織くんもキッチンにやって来た。
そんな彼は下味で漬けた唐揚げに片栗粉と小麦粉を混ぜた粉をまぶす私の耳元で吐息をかけながら囁く。
(絶対わざとやってるでしょ⋯!)
「いい子だな、心春の弟」
「うん。最高に優しい弟なんだ」
私と冬麻はたった2人の家族だからこそ、弟のことをそんなふうに褒めてもらえてすごく嬉しい。
冬麻は姉の私が言うとブラコンと言われるかもしれないが、本当にいい子で優しい子だ。
コーヒーを準備した伊織くんはカップを2つ持ち、ダイニングテーブルに座る冬麻に差し出す。
向かい合うように座る姿を見つめながら私は唐揚げを順番に揚げていった。
その間にサラダの準備と豚汁をもう一度温める。
冬麻が帰ってくるとのことでいつもよりも気合い入れてたくさん準備してしまった。
「あの、俺はなんて呼んだらいいですかね?義兄さん?伊織さん?」
「好きなように呼んでくれて構わないよ」
「なら伊織さんって呼ばせてください!」
人懐こい笑顔を見せ一瞬で誰とでも仲良くなれるのは冬麻のすごいところだと思う。
フレンドリーですぐに距離を詰められる冬麻だからこそ、無口で無愛想な伊織くんともこんなふうに打ち解けられるのかもしれない。
「俺、めっちゃびっくりしてて。姉ちゃんが突然結婚したって言い出して、付き合ってる人なんていないって聞いてたのに」
「冬麻!いいんだって、その話は」
「いやいやだって驚くじゃんか!結婚したと思えば相手は俺でも知ってる東雲ホールディングスの方だなんて」
「そりゃ驚くよな。俺と心春は高校の同級生で、たまたま再会して俺からアプローチしたんだ」
くしゃっと笑うその笑顔はどことなく私に似ていた。
「姉ちゃん何このマンション!こんなとこに住んでるの?」
「うん⋯まあね」
目をキラキラさせながらマンション内をきょろきょろ見回す冬麻は単純な好奇心からのものなんだろう。
だけど全て偽りのもので、全部伊織くんのおかげだということを隠し続けなければならない。
エントランスを抜けて冬麻と一緒に私たちの住む部屋まで向かう。
その間ずっと冬麻はワクワクしながらテンション高く話していた。
「ドキドキしてきた⋯姉ちゃんの旦那さんに会うの初めてだし」
「大丈夫だよ。すごくいい人だから」
ガチャっと扉を開けるとリビングの扉を開けて伊織くんが私たちを迎えに来てくれた。
彼の素顔を見た途端、冬麻が私の耳元で"めちゃイケメンだね"と囁く。
「いらっしゃい、心春から聞いてるよ。はじめまして、東雲伊織です」
「は、はじめまして!加賀美冬麻です。よろしくお願いします!」
少しだけ緊張したように背筋をピンッと伸ばして自己紹介する冬麻の姿を見て思わずクスッと笑ってしまう。
明らかに緊張しているのが伝わってきて面白い。
「よかったら持つよ」
「え、いいんですか!すみません、ありがとうございます」
冬麻が持ってきたキャリーケースを受け取るとそのまま伊織くんはリビングに案内してくれた。
廊下を歩きながらキョロキョロと辺りを見渡す冬麻はそわそわしているようだ。
「冬麻、お昼まだだよね?」
「うん。もしかして姉ちゃんが作ってくれるの?」
「そのつもりだよ。冬麻の好きな唐揚げ作るからね」
「まじか!最高~姉ちゃん大好き!」
冬麻は私が作る唐揚げが大好物で、帰ってくる度に作って欲しいと希望があるくらいには気に入ってくれている。
今回も冬麻のために唐揚げを前日から下味をつけて仕込んでいたため、あとは揚げるだけの状態だ。
リビングに着いた冬麻はお土産を買ってきてくれたようでそれを伊織くんに渡していた。
冬麻の住む寮の近くにあるケーキ屋さんの私の大好きなバームクーヘンのようだ。
「これ、姉ちゃんが好きなんですよ。よければ食べてください」
「ありがとう。あとでいただくことにするよ」
冬麻を騙していることには心が痛むが、伊織くんと冬麻が仲良さそうに話している姿を見るのはすごく嬉しい。
滞りなく過ごすための演技だって分かってはいるが、まるで本当の家族のように感じた。
「冬麻くんよかったら座ってて。お昼ができるまでコーヒーでも入れるよ」
「すみません、ありがとうございます」
ダイニングテーブルに冬麻を残し、伊織くんもキッチンにやって来た。
そんな彼は下味で漬けた唐揚げに片栗粉と小麦粉を混ぜた粉をまぶす私の耳元で吐息をかけながら囁く。
(絶対わざとやってるでしょ⋯!)
「いい子だな、心春の弟」
「うん。最高に優しい弟なんだ」
私と冬麻はたった2人の家族だからこそ、弟のことをそんなふうに褒めてもらえてすごく嬉しい。
冬麻は姉の私が言うとブラコンと言われるかもしれないが、本当にいい子で優しい子だ。
コーヒーを準備した伊織くんはカップを2つ持ち、ダイニングテーブルに座る冬麻に差し出す。
向かい合うように座る姿を見つめながら私は唐揚げを順番に揚げていった。
その間にサラダの準備と豚汁をもう一度温める。
冬麻が帰ってくるとのことでいつもよりも気合い入れてたくさん準備してしまった。
「あの、俺はなんて呼んだらいいですかね?義兄さん?伊織さん?」
「好きなように呼んでくれて構わないよ」
「なら伊織さんって呼ばせてください!」
人懐こい笑顔を見せ一瞬で誰とでも仲良くなれるのは冬麻のすごいところだと思う。
フレンドリーですぐに距離を詰められる冬麻だからこそ、無口で無愛想な伊織くんともこんなふうに打ち解けられるのかもしれない。
「俺、めっちゃびっくりしてて。姉ちゃんが突然結婚したって言い出して、付き合ってる人なんていないって聞いてたのに」
「冬麻!いいんだって、その話は」
「いやいやだって驚くじゃんか!結婚したと思えば相手は俺でも知ってる東雲ホールディングスの方だなんて」
「そりゃ驚くよな。俺と心春は高校の同級生で、たまたま再会して俺からアプローチしたんだ」
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