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デートのお誘い 1

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「んん⋯⋯」


ゆっくりと目が覚めると見慣れた天井が視界に広がった。
周りを確認すればどうやらベッドで眠っていたようで、黒い掛け布団に身が包まれている。


(そういえば、昨日熱が出ちゃって早々に眠りについたんだった)


隣にいつもいるはずの伊織くんはおらず一瞬不安になった。
彼の姿が見えないだけでそんなふうに思う自分がいることにも驚く。


身体をそっと起こすと随分楽になっており額に触れると冷えピタが貼られていた。
おそらく伊織くんが貼ってくれたんだろう。


首元や額に手を当てて熱を確認するとすっかり下がっており頭の痛みもなくなっていた。
しかもいつの間にか服も着替えており一瞬思考が止まる。


(あれ⋯私って服自分で着替えたんだっけ?全然覚えない⋯いや、着替えてない、よね?)


そうなると服を着替えさせてくれたのは伊織くんになる。
まさかそこまで迷惑をかけてしまっているとはあまりにも不覚すぎて情けない。


リビングに向かう前に少しだけ髪の毛を整えて寝室の部屋を出ると廊下にほんのり出汁の香りが漂ってきた。
そんな香りに釣られてリビングの扉を開けると既に伊織くんは起きていて、キッチンで何やら作業をしている。


「心春。おはよう。もう身体は大丈夫なのか?」


キッチンで作業していた手を止めた伊織くんは私に近寄ってきた。
今日は本来であれば伊織くんのご両親に挨拶に行く予定だったため私たちの仕事は休みだ。


そのため髪も下ろし黒いシャツとパンツのラフなスタイルの伊織くんの姿がとても新鮮で普段は見せない姿を見れることにほんの少しの優越感を感じる。
近づいてきた伊織くんは躊躇なく私のおでこに手を当て体温を測った。


(伊織くんの手って大きくてゴツゴツしてるのに優しんだよな…)


すっかり熱も下がり顔色も良くなったことを確認した伊織くんは口角を上げてにこりと微笑んでくれる。
それが心底ホッとしたような表情でかなり心配をかけてしまったんだと、心が痛んだ。


「熱は下がったみたいだな」

「伊織くんのおかげだよ。ありがとう」

「心春のためなら俺はなんだってするよ」


私の頬に触れながらそう呟く伊織くんは本当に私のためならなんだってしてしまいそうなそんな危うささえ感じた。
触れた部分から彼の体温が伝わりドクンドクンと心臓の脈打つスピードが早まって行くのが分かる。


「おかゆ作ってみたけど食べるか?」

「うん…お腹すいたから食べたい」

「すぐ準備するから座って待っててくれ」


そう言った伊織くんは慣れた手つきで私の腰に腕を回すとそのままダイニングテーブルにエスコートしてくれた。
あまりにも自然な流れにスマートだなと思うと同時に距離が近くドキドキとまた体温が上がったのが分かる。


(伊織くんってこんなふうに自然にできておかゆまで作れるなんてハイスペックな人だよね)


椅子に座って待っているともくもくと湯気が立ち込めるひとり用土鍋が私の前に置かれた。
卵がたっぷりと使われており出汁の香りが鼻腔をくすぐりお腹がグーッと鳴る。


(美味しそう…)


「熱いからふーふーしてやろうか」

「えっ」


(伊織くんが"ふーふー"って言うなんてなんか可愛い…)


まさかそんな可愛らしい言葉を伊織くんが言うなんて思ってもいなくて意外な一面を見た気がする。
一緒に暮らして契約結婚をしなかったら伊織くんが本当はこんなふうに話してくれる人なんてずっと知らないままだったんだ。
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