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夫婦 2

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私が着いた場所は一生縁のないと思われていた超高級ジュエリーショップだった。
足を踏み入れることすら躊躇われる高級ショップで思わず尻込みしてしまう。


(そりゃ、そうだよね、うん、私が間違ってました)


実感湧くようなこと、と言われてどんなことを想像したか、恥ずかしくて言えない。
不純なことを想像してしまった私が恥ずかしいと思えるくらいここは純粋な場所だ。


「し、東雲くん、ここは⋯」

「伊織、だろ?」

「そうだった⋯伊織くん、ここは⋯?」

「結婚指輪、買わないとな」


(なるほど、確かに必要なものだよね)


左手の薬指に指輪があるのとないのとじゃ全く実感の湧き方が違うだろう。
その指輪があるだけで自分も、人からも結婚していることが伝わりやすい。


だがこの場所は一生無縁と思われていて超高級ジュエリーショップだ。
とても手に届く額のものが置いてあるとは思えない。


「結婚指輪を探してるんですが」

「そうだったのですね、おめでとうございます。それであればこちらでございます」


飾られた結婚指輪たちの金額は見た事のない0の数が並べられている。
私の結婚指輪に対するイメージはせいぜい1人20万くらいだがもはやここにある結婚指輪たちは桁が違う。


たくさんのダイヤモンドが使用されておりキラキラと眩しい輝きを放っている。
だけどこれを指につけるなんて責任重大すぎて指を切って奪われてしまいそうだ。


「どれがいい?」

「どれがいいって言われても⋯⋯」


伊織くんは大してその金額を気にしていないのか、結婚指輪たちを眺めながら簡単に私に聞いてくる。
これが専務取締役という役職に就いている彼の懐の大きさなのだろうか。


「奥様は指がとてもスラッとしてらっしゃるのでこちらなどはいかがでしょうか?」


販売員さんが私の指に通してくれたのは、真っ直ぐなタイプの指輪で半周に渡ってダイヤモンドがセッティングされたものだ。
キラッキラと輝くダイヤモンドが美しくとても眩しい。


「あの、これだった場合彼がつけるのはどれですか?」

「それですとこちらです」


伊織くんのスラッとしながらも骨ばった指に通された指輪はかなりシンプルでつるんとしたフォルムのものだ。
限りなくシンプルだが、伊織くんには少し物足りないようにも感じる。


「伊織くんには⋯⋯少しシンプルすぎない、かな?」

「そうか?なら⋯⋯」


飾られた結婚指輪を一通り眺めて販売員さんに出してもらうように頼んだ指輪は私が先程つけたものの約2倍の金額だった。
値段を見ていないのか、と思ってしまうほどの額で私は思わず尻込みする。


販売員さんが私の指に通してくれたのは全周にダイヤモンドが散りばめられ、さらにはねじりが加えられたような少しオシャレなデザインのものだ。
それと同じタイプのダイヤモンドがないバージョンの指輪が伊織くんの指に通される。


「さっきのよりそっちのほうが伊織くんに似合ってるよ」

「俺も心春にはそっちの方が似合ってると思う。すごく可愛い」

「あ、ありがとう」


まさかサラッと可愛いと褒めてもらえるなんて思ってもおらず思わず頬がカーッと熱を帯びる。
素直にそう言って貰えて嬉しい。
それが例え、偽装夫婦を装うためだったとしても。
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